レベルアップとステータス 5
話と違うじゃねーかよッ! 説明回はどこいったッ!
私は何者にも成らない。
私は総てを放棄しているから。
私は、このセカイに存在してもいいのか。
自分で問い、自分で答える。
意味の無い無様なやり取り。
美しくも残酷なセカイ。
それは一瞬にして崩れ落ちる。
そうまるで私自身のように――
✴ ✴ ✴ ✴ ✴
ファットマン……話が違うぞ。レベルアップ音は共有される言うてたやろ。天霧さんきょとんとしてるぞ……
「レベルアップ音、ですか……すみません私には聞こえませんでした」
悲しそうな顔をして見つめてくる。……どうしてくれよう。
「ああ。いいやすまん。気にするな別に怒っているわけじゃない。ただの確認だ」
ファットマンから聞かされた説明を鮮明に思い出す。だがしかし――出てくるのは雑談ばかり。しっかりと説明されていたはずなんだが……
「くそ……確かめてみるしかないな」
答えは試せ。ゆえ、確かめるしかない。
ゲームと言って次に思い起こさせる言葉は――
「ステータス」
そう無意識にポツリと零した"ステータス"という言葉。
瞬間、このセカイの理が俺の言葉に反応し、目の前にはデジタル表記の文字列が分かりやすく表示されていた。
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【ステータス】
Lv.3
位階:✴
名前:夜喰聖十郎
性別:男
年齢:17
種族:人間
【能力値】
STR:17
MAG:20
DEF:15
AGI:10
RMN:30
【異能力】
・✴✴
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表示されたステータスを見て俺は純粋に声が漏れた。
「おおう……すごいなこれ。流石は盟友。良い仕事ををする」
またしても俺の中でファットマンの好感度が上がっていく。それと一緒にあいつのニヤニヤした顔も浮かんで――ああ、ウザい。
「な、なな何ですか!? これっ! ステータス!?」
目を光らせ「ふぉぉっ」と興奮を隠せていない。もとより隠す気がないのかもしれないが。
「あれ、コレ見えるの?」
「め、めちゃくちゃ見えますよぉ〜! 羨ましいです~!」
「羨ましいって……お前な、自分のを見ればいいだろ?」
「え? あ。それもそうですね……って、私も見れるんですか?」
「ああ。たぶん」
「――ステータス!」
そう天霧が口に出した瞬間。俺と同じようにして何もない空間にデジタル表記の画面が現れた。
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【ステータス】
Lv.1
位階:✴
名前:天霧つくね
性別:女
年齢:16
種族:人間
【能力値】
STR:25
MAG:8
DEF:6
AGI:14
VCT:20
【異能力スキル】
・✴✴
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「~~ッ! 素晴らしいです! 神様ありがとうございます!」
黄色い声を上げて喜びを露わにする天霧。その気持ち分かる、すごい分かるぞ。
「最初はゾンビとか出てきて最悪! って思ってましたけど、ここまで非現実的に改変されるとまるでゲームの中のキャラクターにでもなったかのような錯覚を覚えますね~」
なったかのような、じゃなくてもう既に成ってるんだよな。盟友が神の座に座った時点でもう……俺たち人間はファットマンが作ったゲームの攻略者としてクリアを目指している。
「多分天霧、お前も近いうちにこの世界の神様から色々とご教授されると思うけど……気楽にいけよ。あいつは見た目はクズだが話してみると意外に悪い奴じゃないからな」
さて今のうちに盛っておくか。天霧が喚び出されたときどんな顔をするのか楽しみだ。まあいつものようにキモい笑みで潜り抜けるんだろうけど。
「まあ一発くらいぶん殴ってもいいんじゃないか?」
「え~! それは流石に怒られちゃいますよ~」
「ははっ、どうだか」
なんだか今日は気分が良い。
気の合う友人と出会えたからか? それとも可愛らしい後輩と楽しそうに話ているからなのか?
否。どちらでもない気がする。理由は分からない。だけどなぜか気分が良い。
正直俺は自分自身で冷酷な人間だと思っていた。さっきだってそう。なんの躊躇いもなくゾンビたちを狩り獲る捕食者の目をしていた。この変わった世界で、自分が強くなるためならなんだってする。初めてゾンビを目の前にそう決意したはずだった。
だけど――
「先輩ってもっと無口で怖そうな人だと思っていました。けど実は結構なおしゃべりさんで面白い人ですねっ」
ニコッとひまわりの花が咲き乱れたようなまぶしい笑顔。
「お、おう。そうか?」
「そうですよ~! 助けてもらったときの印象はクール系無口野郎だと思ってましたから」
むふんと腰に手を当て胸を張る。
「第一印象最悪だな。俺……そんなにヤバそう?」
「目つき悪すぎて……友達いなかったんじゃないんですか?」
「は!? おま、おお俺だって友達くらいいるぞ!」
片手で数えられる程度とは口が裂けても言えない。
「え~? 無理しなくていいんですよ~?」
「ったく、俺のこといいだろ、ほっとけ。……もう行くぞ」
そう後輩に生意気な口を聞かされていても心の中は意外にも穏やか。やはり俺も人、生きている人間と駄弁るという状況に憧れていたのか。
だから――
「もうここまで来たのか、話していると早いもんだな」
気が付くと俺達は目的の場所へと着いている。
この階にゾンビたちの気配はなく、廊下は不自然なほどに静まり返っていた。
「いや、待て。ゾンビの気配がないっておかしいだろ」
「どういうことですか……?」
説明するのも億劫だが、しょうがない。簡単に説明してやる。
「天霧を助ける以前に俺は、一人でゾンビと戦っていたんだ。その時は、この包丁を持っていなかったからとどめを刺すことが出来なかった」
くそ、マジでやらかした。全く詰めが甘いのはどっちだよ。
「え……、じゃあ――」
ああ、まさにその通り。
「恐らくまだ、この学校のどこか生きている」
「嘘……、でもここを歩いている時は何も――」
「多分もう何処か行ったんだろ。あのゾンビと戦ってからもう三十分以上経過している」
そう言って、後ろを振り向いたそのとき。
「先輩。なん、です……か。アレ」
隣で天霧の震えた声が聞こえてきた。何事かと俺もそちらに顔を向けると。
「はは……マジかよ」
そこにいたのは、両目を覆いたくなるような姿したゾンビ。
山田の姿だった。
一番最初のポエムは気にしたら負けです。