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レベルアップとステータス 4


 謳えよ謳え、残陣の神楽。


 あぁ、どうして? 

 どうして僕は病んでいる? 

 

 僕は悪くない。悪いのは僕じゃない。

 悪いのは――



 ✴ ✴ ✴ ✴ ✴



「――せんぱいっ! 後ろッ!」


 切羽した少女の声。

 振り向くと、ゾンビ化した男子生徒が俺の肩に噛みつこうとしていた。


「うおォッ!?」


 刹那、左手に持っていたお鍋のフタで勢いよくゾンビを殴り飛ばす。


「ぐァぅッ!」


 態勢を崩したゾンビは床に倒れ――そのまま脊髄を切り裂き、戦闘不能へと持ち込んだ。


 だがしかし、これだけでは終わらない。


「くッ――」


 続けて第二陣のゾンビ。次は二人同時に相手をしなければならない。


「お、ラァァッ!」


 右手にはゾンビを殺すための武器。

 包丁を構え、一突き。その間およそ一秒。出来るだけ早く終わらせる。長引かせては駄目だ……やつらの体力を甘く見てはいけない。


「ああァァアアッ!」


 赤黒い液体と不愉快な呻き声を撒き散らし、ゾンビはその場で枯れ落ちた。


 そして次の瞬間――


『テレレ テッテッテ〜ッ!』


 頭の内側から盛大な鼓舞。

 神の祝福、全身が青白く発行し、例の効果音が頭の内側から聞こえてきた。


「――っ! ビックリした……」

 

 これでレベル3。計画通りの順調な滑り出し。……悪くないな。


 そして今回のレベルアップで極端に変わったこと。それは―― 


「体が軽い。背中に羽が生えたみたいだ」


 これまでに比べて、倍の身体能力を得た気分に浸る。速く、鋭く、そして俊敏な動きが出来るようになった気がする。


「斗ッ――」


 だがやはり一回レベルが上がったくらいでは、普通の人よりも少しだけ人間を辞めているといった程度だろうか。


「らァッ!」


 レベルアップの事は後だ。今は目前の戦いに集中しよう。


「ガァああアアァッ!」


 喉元に包丁を突き刺したヤツとは別のゾンビの攻撃。


「――ッ!」


 再び顔面をお鍋のフタで殴り、態勢を崩す。

 そのまま後ろに下がったゾンビの足を引っ掛け、尻もちをつくように転ばせた。


 そして――


「悪く思うなよ」


 ゾンビの首と胴体を切り離した。


「アンタで最後だ……名前も知らない先輩殿」


 真っ赤な血液で汚れた包丁。

 斬り飛ばした首。その後から溢れ出す血飛沫。ゾンビの血液からその身を守ったお鍋のフタ。


「問答無用で一発逮捕だな」


 気が付くと俺のワイシャツには真紅の華がいくつも咲き乱れていた。

 それは自分の血ではない。鍋のフタでは守り切れなかったゾンビ達の生きていた証が返り付いていた。


「アアァああァッ!!」


 ゾンビの目元には透明な液体がぽろぽろと流れ出していた。

 焦点の合わない瞳の奥には、殺してくれてありがとう。といった感謝の気持ちが痛々しいほど伝わってくる。


「次は俺達の誰かが創る"セカイ"で生きてくれ――」


 覚束ない足取りで歩いてくる先輩ゾンビ。

 四つの命を狩り取ってきた包丁でヤツの心臓に深々と突き刺した。


 そして――


『テレレ テッテッテ〜ッ!』


 再びレベルアップ音が脳内に響き渡る。


「ふう……」


 何とも言えない虚しさが、波に飲まれるようにして襲われた。

 

「あ、あの……助けてくれて、ほんっとうにありがとうございます……っ」


 だがそれも一瞬。彼女の泣きそうな顔を見ていたら、不思議と悪い事をした気にはならない。


「あ、ああ。……怪我は、ないか?」


 少女に危害は加わっていなかったと確認する。見た感じは大丈夫そうだ。


「はい……、あ、あの……」


 感謝の言葉を述べながら、一歩ずつ後ろに下がっていく。


「あー……いや大丈夫、気にしてないから」


 明らかにこわがられている。まあそれもそうだ。自分の目の前で元人間だったヤツを躊躇いもなく殺して見せたのだから。この娘が俺を恐がる理由もよく分かる。


「俺は自分の教室に戻るんだけど、君はどうする……? 俺と一緒に来る? それとも――」


 言い終わる前に遮られた。


「い、行きますっ! 私も連れて行って下さい……っ!」


 おぉう、即答か。意外だな。

 まだ僅かに肩が震えている、だがやはり自分が助けられたという恩義の方が気持ち的に勝ったのか、彼女は俺について来ると言い出した。

 

「えー、と。後輩だよな。……名前、聞いてもいいか?」


 日本語がたどたどしい。

 因みに俺はコミュ障では無い。女の子と喋る機会が全く無いせいでこんなになっているだけ。


 しかも後輩だ。よく見ると可愛い部類なのかも知れない。


「あ、はいっ! 私、天霧つくねっていいます!」


 つくねと名乗った少女。

 心の中で思った言葉をつい口に出して言ってしまった。


「ははは、つくねか、何か美味しそうな名前だな」


「ふ、ふぇっ!? お、美味しそう……ですかっ?」


 あっ、やべ。

 時すでに遅し。初めてあった女の子に対して美味しそうって言うのは流石にマズイだろ。


「いやいや、深い意味は無い。うん。ほら、焼き鳥のつくねってあるだろ? 何か突然、天霧の名前を聞いて思い出しちゃっただけだから」


 我ながら無理な言い訳をしていると思うのだが、意外にも顔を赤らめ取り乱したのはつくねの方だった。

 

「あ。わ、わわわ私ったらっ! ご、ごめんなさい! 何かテンパっちゃって! す、すみません、は、恥ずかしい……」


 ここで一言声をかけてあげられたカッコいいだろうけど、あいにく俺はそんないい男じゃない。


 ゆえに――


「そういや俺、レベルアップしたんだった」


 馬鹿なこと言って話題を切り替える方法しか思いつかなかった。


「え? レベルアップ?」


 よしっ。何とか話題を変えられそう。


「ああ。聞こえなかったか? 某国民的ゲームのレベルアップ音」


「……? 聞こえませんでしたよ?」


「マジ?」


「はい。マジです」


 おいコラ、ファットマンどういうことだ。話が違うじゃねーか。 

お読み下さりありがとうございました!

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