日常は幻想の侭に 1
色々と書き直しをしました。
「――んあ?」
退屈な授業を適当に聞き流し、重いまぶたを軽く擦る。まだ終わらないかと授業の半分以上を睡眠に費やしていた不真面目な生徒がぽつりと溢した。
残り二十分。
体感的にはまあ長い。が、俺には関係なかった。その短い時間を眠るという愚かな選択に身を任せるから。
「……」
などと屁理屈を捏ね、腕を枕の代わり顔をうずめる。
「ん……?」
その直後、ざわざわと教室内は騒がしくなった。
「っ……」
五月蝿い。眠れない。授業中くらい静かにしてろよ。あと二十分しかないんだ、俺の眠り妨害するんじゃない。
心の中で悪態を吐いた。
どうせまたいつもの事だろう。クラスの中心人物達による授業妨害。まったく、真面目に受けている俺たちにとっちゃいい迷惑だよ。
無視だ、無視。さてと、夢の中へと旅立とうじゃないか。
そう思い、再び目を瞑った。
退屈な授業を潜り抜ける、何気ない平凡な日常。これからも終わることのないつまらない日常。
だがそれは、
「「「きゃああああッ!」」」
唐突に終わりを迎える。
「……は?」
突然の出来事。女子たちからは耳を劈くような悲鳴が上がった。そしてその声色からは、ただ事では無いと嫌でも考えさせられる。
「どうしたんだ……?」
グッと体を起こし、ぼやける視界をクリアにする。女子たちの声がした方へと振り向くと――
「なん……だよ、これ……」
俺は言葉を失った。
クラスメイトの一人が、全身を血まみれにしてぐったりと地面に横たわっていた。目は虚ろに、口からは大量の泡が吐き出されている。
「なに、これ……ねえ。一体何が起きてるのっ!?」
遠く離れたところで、少し派手目な少女の怒鳴り声が聞こえてくる。しかし、そんなこと聞かれても誰一人として答えられるはずもない。
「おいおいヤバくね……逃げようぜ!」
「おう……そうだな」
「死にたくない死にたくない死にたくない……」
少女につられて、たくさんの生徒たちの怒鳴り声や叫び声が木霊する。
刹那、教室は混沌へと誘われた。
「――――」
気がつくとそこは阿鼻叫喚の地獄。人間としての誇りさえも無くしてしまったかのような醜い存在。知性の欠片すらも残していないこいつらを見て、俺の瞳には酷く滑稽な姿が映り込む。
クラスの秩序は壊滅的。先生すらもパニックに陥っていた。そして廊下の方でも騒ぎが起こっており、もう収集がつかない。
ゆえに――
『生徒の皆さんは至急体育館に集まって下さい、繰り返します。生徒の皆さんは――』
校内放送が流れ出した。
「お、おい。体育館だってよ……」
切羽詰まった教頭の声を聞き、クラスの奴らは徐ろに椅子から立ち上がる。
やはりこの異変はこのクラスだけではないよう。
「急いで体育館へ向かって下さい!」
廊下の方から聞こえるのは男性職員の声。
ガタガタと音を立て、クラスメイト達はものすごい速さで体育館へと行ってしまった。
「――面倒くさい」
このような状況でも俺は冷静かつ沈着な姿勢を保ち、椅子に座っていた。焦ったところで意味が無い。というか、今体育館に向かったら間違いなく殺される。と、なぜだか本能が警告を鳴らしていた。
「はあ……」
それにしてもいきなりどうしたんだか、一体何が起きたんだ?
誰もいなくなった教室には俺とクラスメイトの山田の死体。特に何の感情も持たず死体の近くへと歩み寄る。
「……ん?」
じっと死体を観察していると、不自然な違和感を感じた。
手術中の患者みたいになっていた山田の腹部が徐々に再生しているように見える。まぶたを擦ってみたけれど、見間違いなどでは無い。
やはり治っている。
「死後数分間は再生が始まるのか……」
だとしたらこれはすごい発見だ。などと俺は呑気に死体を眺めていた。
お読み下さりありがとうございました!