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終わりと始まりのプロローグ


 今日もまた平凡な日常が始まった。


 昨日買ってきたばかりの真っ白いシャツに袖を通し、クローゼットの扉を開ける。その中から一年と半年間という時間をお世話になっている制服に身を包み、学校指定のカバンを手に取った。



「行ってきます」



 習慣的に行う挨拶。


 だがそれは誰もいないリビングに寂しく残る独り言。


 返ってくるはずの挨拶は電気のつかない部屋によってかき消されてしまった。


「……」



 ――ガチャリ。



 その無音に耐え切れず、玄関の扉を開けると目の前に飛び込んでくるのは日の光。眩しい太陽の光が、俺の身体を刺激する。


「……暑い」


 それは九月五日の午前七時半くらいのこと。



 ――天気が良い。



 寒くないこの季節。なのにどうしてか、無意識のうちに手がポケットの中に吸い込まれる。だがそれでも気にはせず、ただひたすらにこの長い通学路を歩いていった。


「ちょっと待ちなさいよ~!」


 遥か後ろの方で聞き覚えのあった女子生徒の声が聞こえてくる。一瞬、後ろを振り向こうと思ったが。その気持ちをグッと抑えて、俺は下を向いて歩いていった。



 ………【あな、た……運、命――迎え、……】



 だから、このときからだろうか……何か良くないことが起ころうとする予兆はあったのかもしれない。



 ――パッと赤に変わった信号機。



 中央には小さな女の子が立っていた――



 その直後、


「――ッ!」


 バスが迫る勢いのなか、同じ學園の男子生徒はなりふり構わず飛び出していく。



「あうっ――」



 轢かれそうになっていた少女を突き飛ばした勇敢な少年。そのあと彼に訪れる惨劇は、言わずとも理解できるであろう。


 彼の上半身と下半身は、美しいほどにパックリと分かれ。そこからおびただしい量の血液が吹き出していた。


 ぐるぐると廻りに廻った半身を残して、当の本人は数十メートル飛ばされる。


「きゃああぁぁあッ!」


 空に舞うのは大量の血飛沫。


 まるでこの場所だけ、血の雨が降り注いだみたいに。


「――――」


 どこか誰かが通報したのだろうか。


 遠くの方から救急車とパトカーのサイレンが鳴り響く。


「うそ、でしょ……」


 俺の直ぐ隣では、唇を震わせた顔面蒼白の少女たちの姿。おぼつかない足取りで、死体に寄り添うとそのまま互いを抱き合うようにしてぎゅっと少年を抱きしめた。


「おにい……ちゃん?」


 視線を移し、飛ばされた少女に目を向ける。


 その少女は目を丸くして、涙を浮かべていた。


 自分のしでかしてしまった罪の意識に襲われたのだろうか。光のない瞳で少年の死体をぼうっと眺めている。


「は、はは……ははは……」


 そして気がつくと、俺は走り出していた。

 なにか。そう、何かが起こりそうだという、そんな既知感に襲われて――



 ………【あな……た、は。――選択を……している】



 右目の上に不可解な文字が現れたと同時に、


「――あれっ?」


 俺は意識を失った。



 誰が何を求め、セカイが何を望むのか……未知を知りたいというその一心。


 滑稽なまでに愚かな所業。


 そんな神々の生き様を、彼は――夜喰(やばみ)聖十郎(せいじゅうろう)は体験する。


 愚かな神が目指した夢の物語――それはそれは、何とも残酷なお話ですわ。

お読みいただきありがとうございました!

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