第4話 ネズミー仮面
「見事だ、よくぞここまで修行に耐えた。お前は『ネズミの穴』の歴代卒業者の中でも最強の力を身につけたと言っていい。よって、ここに卒業の証として、ネズミの仮面と『ネズミー仮面』の称号を贈ろう。これからは、これを着けてネズミー仮面として『ネズミの穴』のために働いてもらおう。活躍を期待しているぞ!」
「ははっ、ありがたき幸せ!」
歴代最優秀と折り紙をつけられた俺は、何と『ネズミの穴』の総帥『ネズミー・ザ・グレート』様から直々にネズミの仮面と『ネズミー仮面』の名をいただいた。
っても、総帥ってあの最初に説明してくれた筋骨隆々のおっさんなんだけどね。俺に色々なネズミの能力を伝授したり、戦闘訓練もしてくれた師匠でもある。つまり直々の指導なんてしょっちゅうだったし、ぶっちゃけ、結構親しくなったんで、尊敬はしてるけど別に畏敬はしてない。
あと『ネズミの穴』って、別に悪の組織でも何でもないから。ホントにただの訓練機関なんだよね。だから『ネズミの穴のために働け』ってのは、つまりヒーローなり悪役なりとして活躍して、訓練機関である『ネズミの穴』の名前を売れってこと。何しろ、あれだけ有名な卒業生だのメンバーズクラブ会員だのがいるってのに、訓練機関である『ネズミの穴』自体には全然知名度がないんだから。
……つまり、結構OBにないがしろにされてるってことなんだよね。言っちゃいけないけど。
でもまあ、俺は何の取り柄もなかった平凡な男から、一応はヒーローだろうと悪役だろうとやれそうな力を身につけることができたし、それは『ネズミの穴』のおかげだから、がんばって知名度アップに貢献しようとは思ってるけどね。
とはいえ、どうやって活躍しようか……などと考えていると俺の卒業式に列席していた『ネズミの穴』の三人の幹部のうちの二人が、俺の進路をめぐって言い争いを始めた。
「『ネズミー仮面』に足りないものは『巨大化』だ。ヒーローとしても悪役としても、大きいというのはインパクトがある! キャラクター商品も売れる!! ここは追加の修行で『ネズミー仮面ジャイアント』になる能力を身につけさせるべきだ」
そう主張しているのは、ネズミ界一の怪力を誇ると豪語している『ビッグ・ネズミー』先生だ。その名の通りでかい。あのプロレスラーみたいな総帥より、さらにでかくて怪力の持ち主だったりする。ちなみに、三幹部とか言ってるけど、要するに講師の責任者だから。俺も色々とパワー系の技は教えてもらったし。
「いやいや、ネズミがデカくなってどうする! ネズミというのは小さいものが大きい相手を倒すからこそ、ヒーロー的なカタルシスが得られるのだ。悪役としても、ネズミがデカいのではインパクトはあっても属性としてはちぐはぐだろう。ネズミの悪役キャラクターに期待されるのは、幹部系なら卑怯にコソコソ影で策謀を巡らすような性格で、三下なら姑息に立ち回ることだ。それに必要なのは、小さくなることに決まっている! 追加の修行でミクロ化能力を身につけさせることが最良だ!」
こちらは、ネズミ界一の悪党を豪語している『ブラック・ネズミー』先生だ。ペスト菌を操る修行では、だいぶお世話になった。『細菌戦こそ我らネズミにとって最もふさわしい誇りある戦術だ』とか、どこぞの力と技を兼ね備えた仮面ヒーローの敵役のドクトルみたいなこと言ってたな。
どうも、俺に追加の修行をつけてくれるらしい。更なる力を身につけられるのは嬉しいんだけど、何だか知らんけど先生同士が熱くなっちゃってるなあ。
「大きい方がいい!」
「小さい方がいい!」
「大きい!」
「小さい!」
「大!」
「小!」
にらみ合うお二人。そして、お二人は俺の方を向くと、異口同音に尋ねてきた。
「「お前自身はどっちがいいと思うのだ?」」
その問いに対して、『ネズミの穴』の修行で身も心もネズミと化した俺は、毅然として答えた。
「チュウ」
落語オチで、どうもすいません。
(手を頭の横に上げる)