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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第2章:万華鏡
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第82話:終業式を終えて

 静かに時は流れ、終業式を迎えた。

 最後の日にも晴子さんは壇上に上がり、生徒会長らしいありがたい言葉をつらつらと語っていた。人に聞かせるような、時に疑問を、時に抑揚をつけた言葉に釣られて聞いてはいたけど、横に立っていた椛は、不満げな顔でずっと晴子さんを眺めていた。


 式が終わり、教室で最後のHRも終わって、僕と椛は2人で外に出る。最後まで話してる晴子さんと別れを悔やむクラスメイトのいる場では、椛と真面目に話せないだろうから。


 井野川高生もよく足を運ぶ近場の喫茶店に入り、席に着いてコーヒーを2つ注文する。僕としては、後で晴子さんや快晴と会うつもりだし、長居する気はなかった。


 頬杖をして目の前に座る黒髪の少女を見ると、彼女も同じように頬杖をついて、ニコリと微笑みながら僕を見た。

 彼女は会話を切り出さず、僕を見ている。それだと終わらないから僕から話しかけた。


「……もしクラスが別れて、君に話し相手がいなかったら……そう考えると、僕は恐ろしいよ」

「あら? ここ数ヶ月は何もしなかったじゃない」

「それがイコール改心とは、言わないだろう?」

「確かにそうね。私はやっぱり楽しい日々を過ごしたいわ。今はこのままで楽しいし、私は動くに動けないし……4月、どうなるか楽しみじゃない?」

「…………」


 普通の女子高生らしくクスクス笑う椛に合わせて、僕は笑えなかった。目の前にいる人間は、入学式当日に体育館を爆破した経歴を持っている。来年度、何があることか……。


「一応、僕等の登校日の1日前から1週間、僕と晴子さんで校内を調べるから。何か企んでも、無駄と思いなよ」

「へぇ……アリスと私が組んで対抗したら、どうかしら?」

「その時は、僕等は逃げるしかないさ」

「……あら?」


 意外といわんばかりの相槌を打ち、椛は続ける。


「貴方と晴子さんなら、私とアリス2人と同等以上に戦えるはずじゃないの? なんで戦わずして逃げるのかしら?」

「……敵が、もう1人居るんだよ」

「…………」


 僕の言葉を聞いて、椛の顔つきが変わった。それもそうだろう、これだけ個性豊かなメンツが居るのに、まだ面倒な人間がいるのだ。考えるだけで嫌になる。


「……誰なのよ、それは?」


 おそるおそると言ったように尋ねてくる。

 どうせすぐにわかる事だ、僕は隠しもせずにその名を告げる。


「黒瀬美代(みよ)……僕の義妹だよ」

「……妹?」


 義妹と聞いて、彼女は不可解な面持ちで聞き返す。一応、椛には伝えておいた方がいいだろう。僕の推察している、美代の正体を。


「……美代は学校でそこそこ人気者で、普通の中学校では高成績を残せるような、普通に頭のいい人間だよ……」

「さすがは幸矢くんの妹、ってところなのかしら?」

「……それがどうも演技らしいんだけどね」

「……アリスと同じなのね」

「ああ……」


 美代は妹らしく(・・・)過ごしているだけで、本当は鋭い爪を隠す鷹だ。能ある鷹だと確信したのは、あの事。


「そして美代は――競華が留学するのと同じ時期に留学した。……意味は、わかるね?」

「…………」


 沈黙が流れる。つまるところ、美代も某組織の一員なのだろう。まだ15歳の女の子が、よくそんな組織に所属するなと感心してしまう。それはアリス然り、競華然りではあるけれど――


 そこで、注文していたコーヒーがやってくる。丁度会話が止まっていたし、都合が良かった。

 一口飲んだところで話を戻す。


「競華が僕等に接触してきたのは、中学1年生の頃。僕の父親が再婚したのは、2年生の時の話だ。……僕達は、中学生の頃から目を付けられてたんだ」

「……人気者ね」

「嬉しくないよ……組織のことを知って、家族を疑いながら過ごすようになった。騙されながら生きるなんて、面倒極まりない……」


 僕が嫌そうな顔をすると、椛はクスクスと楽しそうに笑った。人の不幸を笑うのは良くないけれど、今更そんな事は言うに及ばない。僕が苛まれてるのもいつものことだし、悩みをバラした僕も悪かっただろう。


「……ちなみに、僕は父が再婚していることを、誰にも言ってなかった。事故があってからは皆を家に誘った事もないし、来させなかった……」

「そんなの、バレるわよ。地区で区切られるから、中学も妹さんは同じだったんでしょう?」

「……まぁ、ね」


 快晴はわからないけど、晴子さんは気付いてるだろう。競華は確実に知っている。聞いて来ないのは興味がないからか、(ある)いは美代を良く知ってるから聞くまでもないのか……。

 どちらでもいい、誰だって言わなくていい事は言わないものだ。


「晴子さん達は、上手くやってくれるさ……。問題なのは美代だよ。アリスがこれだけ積極的に僕等に絡んできた……美代も、きっと……」


 絶対に絡んでくるだろう。悪い方向でなのか、いい方向でなのかはわからない。

 僕が未だにこの学校で嫌われてるから、美代にもその影響が及ぶだろう。どう対処するかはわからないけど、方法によっては僕等を蹴落としてくるんだろうな……。


「……それでこの1ヶ月半、貴方は何をしていたの?」

「色々と準備をね……。罠があると知って、そのまま道を行く人は居ないよ……」

「それもそうよね。私も4月から動こうかと思ってたけど、もう暫く傍観……なのかしら?」

「その方がいいだろうね……アリスも居るし、下手に動いてもいい事はないだろう」


 僕の忠告を聞き、椛は右手で唇を隠し、視線を左にやる。何か考え事をするときの彼女の癖だった。

 もう一度コーヒーを啜る。今の状況みたいに苦い。


「……はぁ」

「…………」

「…………」


 椛は、まるで動きそうになかった。

 思考の海に溺れているのだろう。海で声は聞こえない。

 彼女の心が戻ってくるのを、僕はコーヒーを飲みながらぼんやりと待っていた。やがて彼女が姿勢を崩して視線を僕の方に戻すと、僕もコーヒーカップを置いてまっすぐ前を見る。


「……で、どう?」

「どうも何もないわ。私も自衛できるぐらいに強くなる……そのために、今暫くは貴方達の元で修行しようかしらね」

「……それなら、晴子さんに色々聞くといいよ。君が自ら何かを教えてもらおうとすれば、彼女はなんでも教えてくれる」

「へぇ、そう。例えば、幼馴染の貴方のオトし方とか?」

「それはどうだろうね……」


 冗談交じりの声音で聞かれるも、僕は苦笑してはぐらかす。知ってそうだとは思うけど、教えてくれるかはわからないな。


「……コーヒー、冷めちゃうよ?」

「飲んでいいわよ?」

「そんなに飲めないよ……」


 僕が困り顔をすると、またも彼女はクスクスと笑った。僕を揶揄うのが上手くなったなぁと、意外なほど仲良くなってることに呆れすらしてしまう。


「……君に直接言うのは失礼だけど、言わせてもらうよ」

「何かしら?」

「美代が僕等と対立するなら、間違いなく君と接触する。快晴、晴子さん、僕はそれぞれ絶対に対立しない。だから美代は、自分の仲間に引き入れない……。でも、君は違うだろう……?」

「……そうかしら?」

「美代が君に、僕等を嫌わせ、対立させるようなことを言う可能性が、多々あるんだよ……。中学生でフッ化アンモニウムの事を事細かに喋る女だ、語彙力も計り知れない……」

「そのぐらい、私は小学3年生の時に喋れたわ。普通じゃないかしら?」

「……君の言うその普通レベルの奴なんだとしたら、美代はやっぱり厄介なんだろう……」

「…………」


 椛は、何も言い返さなかった。しかし、これだけ言えば注意してくれるだろう。2年生になっても気を抜けない、疲れる学生生活だ。


「……何を言われても、僕を信じてくれよ。僕は言わなくていい事は言わないけれど、嘘はつかないから……」

「わかってるわ。貴方の事は信用してる。妹さんに何を言われようと、まず信じるのは貴方。優先順位は間違えないわ」

「……なら、いいけどね」

「信用ならない?」

「いや、君も賢い人だ。……そういう意味では、信頼してるよ」

「そう」


 それだけ言うと、椛はぬるくなったコーヒーに手をかける。

 僕達は今日、終業式を迎えた。しかしそれは、新たな始まりに対する儀式に過ぎない。


 それに、新入生に理想郷創世に関する構成員が他にいないとも限らないんだ。本当に、気をぬく暇もないな……。


 とはいえ、しなきゃいけない話はし終えた。後は適当に雑談でもしようか。


「椛は、春休みどうする……? 実家にでも帰るの?」

「面白くない冗談ね、幸矢くん。今更帰る気なんてないわ。ずっとここに居る。暇してるから、遊びに誘ってちょうだい」

「……遊び?」

「ああ、その言葉は喉につっかかるのね。面倒だわ」


 ろくな遊びをしない人に文句を言われる。まぁ、その気があれば誘うとしよう。


「……ちなみに、どこに行きたいのさ?」

「………。………………………」

「…………」


 こういう時にパッと思いつかないあたり、僕等は普通の高校生じゃないのだろう。そこまで悩むなら、いっそどこに行っても変わらないだろうなと、僕は再度コーヒーを啜りながら思った。

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