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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第2章:万華鏡
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第75話:太陽観察③

「――そろそろ、オママゴトはやめましょうか」


  私は裾野快晴に向き直り、話し方を築き上げた普段の性格へと戻した。場所は住宅街、周りに人も歩いていない。態々通学路から離れたけれど、快晴は知ってか知らずか、自然と付いてきてくれていた。


「おう、急になんだよ?」


 声質を変えたというのに、何食わぬ顔で尋ねてくる。このリアクションをするのはなんの意味があるのかしら。まぁ、私にはどうでも良いのだけれど――。


「聞きなさい、猿。私はここ数日貴方と行動を共にしたけれど、何も得るものがなかった。自分の時間を無駄にしたわ」

「……そうかねぇ? お前さ、楽しくなかったのか? 俺たちと一緒に居てよ?」

「微塵も楽しいと思わなかったわ」


 キッパリと言ってやるも、快晴は微動だにしない。当たり前だ、私が演技をしていたことなど彼には明らかだろう。

 私は、神代晴子が言うから、渋々快晴を観察していた。彼も"晴"の名を持つ男、何か学べると、僅かながらに期待した。その期待はなんの意味もなさず、私はこの者達を振り払う。


「猿――貴方は頭を使わず、ただその日を適当に生きている。貴方の言う楽しいとはつまり、コミュニケーションを取りながら、物を使いながら、時間を浪費しているに過ぎない。なんの計算や理想や意志があるわけでもなく、目的すらない。それで人生が終わったとしても満足だと言うなら、貴方の周りには賎民しか集まらないわ」


 滔々と事実を述べる。彼の周りには頭の悪い猿どもが群がるだけで、私からすれば猿山の大将に見えた。

 猿なんて、私の友人には相応しくない。


 人間は同じ人間を管理する。だったら猿なんて、檻に入れて管理するぐらいがピッタリだ。


「……俺達を馬鹿にするのは勝手だし、別にお前の性格を非難したりしねぇけどよ、仲良くなれるもんは仲良くなっといた方がいいんじゃねぇの?」

「そうですわね。お互いに恨み合うことは良くありませんわぁ。猿は猿らしくしていればいい……。私は人間として、檻の中の貴方を観察するもの」

「いや、違くてさ――」


 快晴は不敬にも私に哀れみの目を向け、こう言った。


「お前にとって、友達ってなんだよ――?」


「――――」


 一瞬、思考が止まった。

 友達、友人、それは冗談を言い合ったり、共に夢に向かって頑張る、同じ道を歩く人間。それが私の知る友人であり、共に歩く人は私で決めること。


 でも、でも――


 違う。彼は私の持つ回答では満足しない。

 だって、彼の目がそれほどまでに冷めていたから――。


 いつも明るい少年だった。それこそ太陽のように。

 その少年が今では嘘のように暗い目を向けている。太陽が(かげ)り、世界が暗雲に閉ざされたみたいだ。

 この不安、彼によるものだ。彼を見て不安になった。


 情報修正しなければならない。

 彼は私が思うよりも、変人なのだ。


 良いでしょう。不思議の国のアリスがお相手しましょう。対話をして、(わたくし)を下してみせまし――。


「――私の考える友達の定義は、同じことをして暇潰しをする人間ですわ。我々の行動は究極的に言うと、全てが暇潰しです。その暇潰しで同じこと――会話も然り、遊びも然り、仕事も然り……仕事仲間という言葉も、裏には友か恨み人の言葉が潜んでおります。仕事も人生の時間を潰すことで、これも暇潰しと言うのであれば、それは暇潰しのための仲間を友達と呼ぶのと相違ないのでは?」


 京西高校の瑛晴(あきはる)から得た知識を用いたこの意見、普通の人間では覆すことができない。ましてや、安穏を貪ってきた高校生ごときでは、反論する事はできない。屁理屈をゴネれば叩き潰す。さぁ、どう出る――?


「そんな心のない関係、友達とは言わねぇよ。暇潰しだって、楽しい方が良い。2人で楽しく、3人で楽しく。そうなれるのが友達だろ?」


 帰ってきた答えは、真意を貫いた言葉だった。

 共に暇潰しをできる間柄、確かにそれは答えである。しかし、お互いの気持ちを考慮しているかといえば、そうではない。


 人間には、感情がある。共に歩くためには互いを理解しあい、好き合う必要があった。

 瑛晴は、論理的思考で友人というものを定義した。

 しかし、快晴は違う。数値や人の思う"当たり前"ではものを考えず、感情を重視する。

 端的に言えば、瑛晴は理系であり、快晴は文系だった。


 私もまた論理思考の人間、快晴とは考え方が違う。それでも、論理は土台から構築された確固たる主張。私は負けない――。


「ええ、そうですとも。そうして全人類が仲良くなる――なんて事が出来たのなら、きっとこの世に理想郷など不要でしょうね」

「人の心は一人一人ちげぇし、テメェみたいな高貴だの下品だので決める奴もいる。価値観が違うから友人になれねぇなんて、よくあるのはわかってんだよ」

「ならば、私達は友達になれませんわね」


 私と快晴では価値観が天地の差ほど違い、友人になれないのは明らか。考え方や生き方、様々なものが違いすぎる。それは彼本人も分かっているようだった。

 でも、それなら何故自分から言いだしたのか。


 それはつまり、覆せるからで――


「――それでもお互いに歩み寄って仲良くしようと努めれば、人は誰とだって仲良くなれるんだよ。人と人を繋ぐのは理屈じゃねぇ、情熱だ。友達になる気があれば、絶対になれるんだよ」


 きっぱり、ハッキリと言い切った少年は、頼り甲斐のある引き締まった男の顔をしていた。私は彼の目をまっすぐと見返し、思い返す。

 私が"瑠璃奈様(クイーン)"に転向したのは、彼女の諭す理想郷が美しく、論理的で、私にも利がある話だったから。それに加えて、もう1つ。


 瑠璃奈様の死ぬ気で事を成そうとする姿勢に惚れたから。


 友達の条件、それがこの事に当てはまるかはわからない。しかし、少なくとも私はわかる。理屈だけじゃない、感情をぶつけてこそ人は友人を作れると。


「――見事」


 綺麗な言葉に、私は今回は負けを認めた。

 短く呟いたその一言には諦観を乗せ、彼の前で膝を折る。

 コンクリートの地面に拳を突き、片膝ついて目を伏せ、彼に告げる。


「貴殿の事を甘く見ていたこと、お許しください。この論争で聞きたかった答えを、貴方は知っていた。お見事です」

「……なんだ? 急に低姿勢になりやがって」


 動揺する快晴の声を聞き、私はサッと立ち上がる。


「――ケジメってやつですわ。己の非を謝罪するのは当然のこと。貴方の事を軽視していた事、謝罪致します」

「やめろよ気色ワリィ。謝んなくていいよ、そんなん気にしてたら埒があかねぇ。それに、人は大抵、他人の事を見下してるもんだろ。普通な事だぜ」

「……そのような話をする貴方は、"普通"ではないようですわ」


 今更ながら痛感する。

 この人間は確かに神代晴子の友人であり、思考も善なる方へと向いていた。会話も、彼が言うのは全てポジティブな事で、人を立ち上がらせたり、手を繋ごうとする姿勢があるとわかる。


 私は、見誤っていたらしい。

 それと同時に、1つの推測が浮き立つ。

 "晴"の名を持つ天才、裾野快晴という人物もその1人ではないのかと――。


「……競華ちゃんが側に居るのを許すわけですわ」

「ん?」

「……いえ、こちらの話です」


 今までに見なかった新しい太陽、裾野快晴。私もその日差しを目の当たりにし、空を仰いだのかもしれない。

 もしこの男が世界の頂点に立ったら――そんな思いさえ、脳裏を過ぎったのだから。

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