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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第2章:万華鏡
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第74話:太陽観察②

 その日も私は昼休みに裾野快晴のつるんでいるメンバーとお弁当を食べていた。


「――でさー、ミッちゃんが飲み物全部こぼさしちゃってー」

『アハハハハ』


 こういう時は笑えばいい。


「――だったんだけど、どう思う? どう思う?」

「マジそれだわー」


 こういう時は、知能の低さを露呈する相槌をすれば良い。何も考えてない猿共に溶け込むなんて、エージェントには造作もない事だった。かといって、私の今の思想があると、流石に反吐がでるほど自分の演技が気持ち悪くてストレスが溜まる。こういう時は"脳別行動"で別のことを考えてるに限る。


 この猿達は単純で、生産性もなくただ消費のための遊びに時間を注ぐ。私もそれをなぞっていれば、溶け込むのは造作もなかった。

 そして、例の裾野快晴も御多分に漏れず猿だった。何も考えずにその場その場で楽しい思い出を言ったり、自慢話をする。そんな、どこにでもいる陽気な男。


 違うところがあるとすれば、それはいろんな人に話しかけに行く所だ。クラスで1人の奴が居れば話に行き、クラス外の友達の所にも良く行く。悪い事を殆ど言わない男だから、友好関係も広くて、晴子さんに次ぐ"良い人"、"人気者"というのも納得できた。


 でも、それだけだ。

 今まで見てきた"晴"の名を持つ人間で才能のある者は、人を引き寄せるだけではなく、崇拝、尊敬させていた。

 裾野快晴には人に(あが)められ、尊敬されるほどの人徳はない。普通の男の子だった。


 こんな者と一緒に居る理由もわからない。疲れるし、早く決着をつけなくては――




 ◇




 金曜日の放課後、僕は晴子さんに呼ばれて体育倉庫に連れて来させられた。しかも、椛も一緒に。

 それで、呼ばれた理由を聞くと――


「快晴くん曰く、アリスくんが動き出した。どうせだから、キミたちは2人を見て勉強しなさい」


 とのこと。

 椛は少し表情を曇らせたけど、快晴とアリスの衝突は面白いから付いてきた。場所は移り、今日は2人で帰る快晴とアリスの後ろへ、遠目でも見える距離で追う。声は快晴との通話が繋がってるので、近くまで寄る必要はなかった。


『それでぇ、昨日はまーくんがホテルに誘ってきてぇ〜。でも私、好きな人がいるから無理なのよねぇ〜』

『アイツは女なら誰でもいいからなぁ。ガチクズだから近づかなくていいぜ』

「……誰?」


 晴子さんの携帯に刺されたイヤホンの片割れから聴こえたアリスの声に、椛はあからさまに拒絶的な反応をした。どうしてこうなったのかわからない驚愕の目を晴子さんに向けると、晴子さんはニコリと笑って答える。


「アリスくんは快晴くんのグループに入るため、快晴くんたちのグループに居る女子の口調をトレースしたのだ。性格もそれに合わせている。だから違和感なくクラスの人に受け入れられ、スクールカーストもそれなりに高いのだ」

「……でも、それが偽物の人格だって、快晴は知ってるのよね? 貴女がわかってるんですもの」

「ああ、把握してるだろうね」


 2人が考察する間にも、腹の探り合いをする携帯越しの声を僕は聞いていた。何故こんな下世話な話ができるのかわからない。快晴は上品とか下品とか関係なく話せるし、話す内容も相手によって変えられる。だけど、アリスは下品なものが嫌いなはず。そうじゃなければ初日、快晴にゴミを見るような目を向けなかっただろう。


『噂だけど、快晴くんは女性経験ないんだよね? 意外ぃ〜っ☆』

『まぁ、なぁ〜……アリスならわかるだろ? 俺はさぁ、晴ちゃんの幼馴染だし……』

『晴子さんは快晴如きじゃ無理でしょ〜。出来が違うから、出来がっ』

『まぁ、ある意味俺の方が天才だからな。宇宙最強の俺様の伴侶になるには、少々物足りないんだぜ』

『宇宙最強とかどの口が言うんだかww』


 真顔で変なことを言う快晴と、手を叩きながら大股になって歩いて笑うアリス。その2人を見たこちらの反応は……


「……吐き気がするんだけど?」

「我慢我慢」


 死にそうなぐらい(やつ)れた顔をする椛の肩を、晴子さんがポンポンと叩く。快晴の言うことは9割9分適当だけど、アリスもアリスでよくこんな口調ができるものだ。


『俺は宇宙最強だし、最強の俺様から見たらみんな等しくうんこだから。大体人類なんてうんこだろ』

『うんこなのは快晴の頭ん中だけでしょ』

『草ァア!!!』

『森生えるゥウッ!!!』

「……何故私がこのお猿さん2人を観察してなきゃいけないのかしら?」

「わからないかい?」

「ええ、宇宙最強の人に聞けばわかるかしら?」

「はっはっは。そう急がずとも私が教えるよ」


 朗らかに笑う彼女に、僕も視線を向ける。僕はなんとなくわかるけど、一応晴子さんの言葉で聞いておきたかった。晴子さんは一呼吸起き、声に抑揚を付けてこう言った。


「――彼等、今日は"2人"で帰っているだろう?」


 強調された2人の言葉に、僕は目を細めた。僕の予想も同じもので、その理由は単純だ。

 あの手の話し方をするチャラついた人間は、群れを成して行動することが多い。快晴も基本的には5〜6人で駅まで向かうんだ、それが2人って事は何か事情があるということ。


 事情――そんなの決まってる。


 アリスが話を持ちかけたんだ。

 今日は2人で帰ろう、って。


 椛も晴子さんの一言で気付いたらしく、即座に前を歩く2人に視線を送った。僕も釣られて曲がり角の先にいる2人を、壁から目を出して覗いた。


「――――」

「――――」


 目が合った。


 アリスと――。


 時が止まったような感覚だった。無表情で空虚な瞳がまっすぐとこちらを見て微動だともしない。それが少し怖かったけれど、次の瞬間、アリスはニコリと微笑み、前を向いた。


 僕も、僕の頭のすぐ下に居る椛も、言葉を失って、顔が青ざめる。僕はもともと青ざめてるからか、腰が抜けるほどではなかったが、椛は尻餅をついた。


「……死ぬかと思ったわ」

「……アリス、なんでこっちがわかったんだろうね?」

「彼女、先程笑って手を叩いた時、手首から小さな鏡を出していたよ。それで見たんだろうね」


 僕の疑問に颯爽と晴子さんが答える。貴女も貴女で本当によく見ているな。タネがわかると納得するけど、やってる事の次元が2人とも違う。

 アリスの状況把握能力、晴子さんの洞察力。

 どちらも、只者じゃできない技だ。


 2人の力に畏怖していると、晴子さんはさらに言葉を綴る。


「さぁ、彼女は私達にアピールまでした。動き出すぞ、よく見てい給え――」


 愉悦の笑みを浮かべ、語り掛ける。

 僕も目を凝らして見ておこう。競華とすら仲良くなれた、快晴の力というやつを――。

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