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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第2章:万華鏡
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第67話:京西高校

「なかなか面白かったわよ、学校が彼等に染まっていくのは。それぞれが派閥となり、京西高校は2種類の人間に分かれた。私みたいな残りものは亜種だった」


 椛が京西高校の事情を思い出しながら語る。その口は重そうだったが、言葉はきちんと僕まで聞こえた。


瑛晴(あきはる)涼晴(りょうせい)、2人ともズバ抜けて賢かった。そして、人と仲良くなるためのお喋りが上手……この点だけだと、晴子さんと同じね。2人は別のクラスで、それぞれクラス委員になった。…………」


 そこで一度口をつぐみ、椛はアリスを見上げた。話し中にパフェを食べていた彼女も、会話が止まると椛を見る。


「ん?」

「……あの子の事は、言っていいのかしら?」

「いいでしょ? 幸矢様は従兄弟(いとこ)だし」

「…………」


 矢張り、瑠璃奈のことはアリスも知っているらしい。ということは、競華も知っていたのか。

 知り合いなら言ってくれればいいのに、隠し事をされるあたり、競華にとって僕等というのはただの賭け馬だったのだと思い知らされる。


 改めて椛は口を開いた。


「そして、あの場所には黒瀬瑠璃奈が居た。そういえば幸矢くんに話してなかったけど、高校に居た瑠璃奈は凄かったのよ? 授業は受けなくて当たり前。毎回色々なクラスを見て回り、学校全体で使えそうな人材をスマホを両手に持ってチェックしていたわ。勿論、前もってそういう調査をする事を学校から承認を得ていた。校内は少し荒れたけれど、瑠璃奈はボディーガードも付けてたし、騒動も時間が解決させた……。そして当然ながら、目立つ瑛晴と涼晴に目を付けたの」


 椛はここで一呼吸置き、ストローでミルクティーを飲む。僕もこれを機に、少し頭の中を整理した。

 とりあえず、競華が瑠璃奈と繋がってるとか、その辺は置いておこう。話ぶりから察するに、瑛晴も涼晴も1年生なんだろう。そして、そこに瑠璃奈と椛が居た……。瑠璃奈も理想郷を作るために奮闘する女の子、優れた人材の2人に目を付けた……。


「……ただ、涼晴の方はいけ好かなかったみたいでね、瑠璃奈は瑛晴とよく話していたわ。涼晴を好かない理由はおそらく、涼晴が宗教に属していたからよ」

「……宗教?」

「そう。しかも、涼晴が教祖」


 それを聞いて、僕は目を見開いた。高校生にして教祖というのは滅多にない事だろう。宗教を開くほど高徳であり、人望が無ければ――。

 でも、それがあるからこそクラス委員にもなれて、派閥もできたのだろう。徳を持っている高校生は居る、晴子さんだってそうなのだから。


「……それで?」

「涼晴の宗教の名は"貴人宗"……勉強できる奴はプライド高いから、貴人なんて言葉に反応して結構入るのよね。人の生き方や死に方を教えてたらしいけど、瑠璃奈は彼にあまり近付かず、瑛晴と行動していたわ。……その瑛晴という奴は、普通の一般人なのよ。生まれがいいわけでもなく、貧乏でもない。私も気になって調べたんだけど、一人っ子でペットは無し、父親は技術者で母親はパートで働いてる。家は3800万の15年ローン。どこにでもある家だわ」

「……よく調べたね」

「簡単に調べられて、逆に呆れたわ……。でも、そんな一般人がどうして天才になれたのか、不思議で仕方ないの」

「…………」


 その瑛晴という人物が、晴子さんに重なって思えた。彼女の家庭も、普通の一般家庭だった。でも、彼女は天才となり、人を導く人間になった。それは過去のいじめの経験や、僕を好きになったから、それに見合う人間になるよう努力したりして賢くなった。環境が、彼女を変えた。瑛晴にも、そういう環境があったのだろう。


「……まぁ、それは今は関係ないわね。話を戻すと、瑛晴と涼晴はそれぞれ派閥を作った。瑛晴は派閥というよりもただの人気者だったけど、涼晴は凄かったわ。同じ生徒から教祖様って呼ばれたり、僅か1ヶ月で50人を束ねた。瑛晴は30人ぐらい友達みたいなのを作って……でも、その友達には自分の生き方とかそういうのを伝えて、尊敬させるようにしてた。……2つの派閥が対峙することはなく、高校生活自体は物騒じゃなかったわ。まぁ、私が入学式に体育館を爆破してたし、団結力は高かったのかもしれないけど」

「……それが一番の理由だと思うけど」


 そういえば、そんな事もあったな。事件があったりしたから団結力があったり、宗教に心を惑わされたりしたんだろう。まぁ、宗教は基本的に良いものだし、涼晴とやらがどんな宗教を開いたのかは知らないけども。


「ま、私のおかげで争いもなく過ごしてた。ところが6月になって、生徒会選挙が行われた。当然、瑛晴も涼晴も参加したわ。票数確保のために、貴人宗の連中は必死にアピールをした。他の候補者を推薦する人を淘汰すべく、京西に入るに至った優秀な頭脳を使って、他の人の生活を脅かしたのよ。それを瑛晴が解決させて、貴人宗の過激派は退学をくらい、瑛晴の名が広まったわ……まぁ、裏で色々なやり取りがあったんだろうけど、とにかく瑛晴は生徒会長になったわ……。そしてさらに半月、瑛晴は学校でその顔を知らない人はいなくなった……。彼の発言力も高まって、人徳もあり、貴人宗以外の生徒をまとめ上げたのよ」


 そこまで話すと、彼女は背もたれにどっかりと体を倒し、投げやりに言った。


「私が知ってるのはここまでね。7月には転校してこっちに来たし、瑛晴がどーなったかなんて、私にはわからないわ。でも、瑛晴や涼晴は単独で人をまとめ上げた。それも、学力の高い奴等をね。私みたいなのも数人いたと思うけど、上手く友達にしてるはず。……それが、晴子さんと彼等の違いね」


 端的ながら、晴子さんと2人の違いも教えてくれた。つまり、僕を使って人徳を高めようとする晴子さんよりも、単独で人徳を高められる2人の方が凄いと言いたいわけだ。……へぇ。


「めんどくせー高校生活だな」


 そこに、今まで無口だった快晴が口を挟む。椛とアリスが目の色を変え、鋭い目で快晴を見た。……マズいか?


「……貴方はその言葉が、貴方の幼馴染である神代晴子を貶してると知って言っているのかしら?」


 再度、寒冷の地から放たれたような冷たい言葉で問いかけるアリス。快晴は肩を竦め、アリスの問いに答えた。


「晴ちゃんの計画には、別の意味があったんだよ。このバカのために、わざわざ長い間頑張ったわけ」

「……君にだけはバカだと言われたくない」

「うるせー」


 僕がツッコミを入れると、かえって頭を叩かれた。解せない。

 それはともかく、今の説明だけだと2人は納得していないようだった。……まぁ、彼女達にはわからないかな。快晴はそれをわかる、だから話した。


「技術を磨いて人をまとめる? 人をまとめるだけなら洗脳でいいじゃねーか。そうやって自分を慕うようにさせて、人におだてられて天狗になるだけなら俺でもできそうだ。けどな、晴ちゃんは幸矢のためになるようなやり方で人望を得たんだよ。それはさぁ、1人で技術を磨いてるだけじゃ考えられない――愛があるんじゃねぇの?」

『…………』


 快晴の言葉に、目の前の2人は口を噤んだ。パフェを食べる手まで止まり、静寂がこの場を支配する。

 少し、意外だった。快晴は馬鹿で昔から無鉄砲だけど、少しはまともなことが言えるようになった。僕等とずっと一緒に居たんだから、これぐらいは当たり前だと思いたいけれど――まだ足りない。


「……私の話し方が端的すぎたわね」


 そこで、申し訳なさそうな顔をした椛が渋々といった様子で吐露した。そのまま説明を追加する。


「涼晴は、幼少期の頃に死んだ友人との約束のために友達を100人作ろうとしたの。普通は100人も友達なんて作れない……だから宗教という形をとった。もちろん、それが捻じ曲がった考えだと自分でもわかってたようだけど。それを言うなら、涼晴も愛故の行為よ」

「へー……いい奴だな、ソイツ」

「…………」


 椛の説明を聞いて、快晴は素直に感心していた。そう、椛は別に2人の目的を言わなかった。何のために人の上に立とうとするのか、それを知らないで快晴は愛がないと決めつけて喋っていた。それが第一の欠点。そして――これはおそらく、理想郷創造委員会の彼女が言うだろう。

 依然として快晴を見下すアリスが、嘲笑うかのようにこう言った。


「たかが1人に対する愛など、一体何の価値があるのですか――?」


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