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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第2章:万華鏡
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第63話:組織

 ゲームも終わり、僕等は全員1階に集まった。気を失った快晴は僕が叩き起こし、競華とアリスは晴子さんによって並べられ、椛は自力でやってきた。

 薄暗い廃ビルは明かりが消えたままで、静かで張り詰めた空気が続いている。そんな中、呑気な快晴はアリスを見て驚愕していた。


「え? コイツ誰?」

「競華くんのご友人さ。幸矢くんが襲ってこの有様だよ」

「何っ!? 幸矢テメー、こんなムチムチで可憐な女子にナニをしたんだ!!」

「……はぁ」


 もはや絡まれるのが鬱陶しく、迫る快晴の顔を片手で抑えた。返事もせず、ため息だけが出る。アリスは意識があるんだ、それをこんな至近距離でムチムチとか言える感性は理解に苦しむ。


「……幸矢」


 ポツリと溢れた言葉は、競華のものだった。未だに辛そうな顔をしながら、半開きの目で僕を見ている。


「……何?」

「……水を買ってきてくれ」

「……そうだね」

「…………」


 僕の相槌に、競華は目を伏せた。

 "そうだね"と言ったのは、競華が辛そうだからではない。話が長くなるから水がいるだろうと思って言ったのだ。

 何故話をするのか、そんな事は分かりきっている。


 "女王(クイーン)"とは誰だ?

 アリスと一緒に何の団体に所属している?

 君達の目的は、一体なんだ?


 3年間共に過ごした少女の新たな一面だ、知りたいに決まってる。競華が悪い人間じゃないことはわかっているが、彼女がどんな活動をしているのか、気になるのだ。


 僕は晴子さんに視線を合わせると、彼女も僕を見る。神代晴子なら、顔を合わせれば人の思考ぐらいわかるだろう。彼女がコクリと頷くと、僕は快晴の顔を離して飲み物を買いに向かった。


《ビーーーッ!!!》

「…………」


 入り口を出る時にセンサーが鳴って一歩下がる。そういえばあったな、こんな仕掛け……。

 何とも締まらない気持ちになったが、行くとしよう。




 ◇




 500mlの水を2本、スポーツドリンクを2本、緑茶を2本買って戻ると、競華は既に立ち上がっていた。10分弱移動してたが、それで周波数の乱れた神経が復活するなんて、正直意外だった。


 水は競華と椛が、緑茶はアリスと晴子さんが、男組は消去法でスポーツドリンクを手に取った。選び方にも性格が出るな。晴子さんは落ち着いてるから緑茶で、競華は頼んだものだから水、椛は化学の子だから、なんとなくだけど水のイメージだ。選び方だけ見てても面白い。


「……ペットボトルに入ってると、ジャパニーズリョクチャって気がしないわぁ……」


 ヘナヘナと萎びれたアリスが糸目で緑茶を啜っている。彼女は立つのも面倒なのか、足をだらしなく投げ出して壁を背に座っていた。

 見ればわかるけど、矢張り日本人ではないようだ。その割には日本語が上手く、数年は住んでいるように思える。しかし、競華の友人と言うなら英語も喋れるんだろう。それぐらいじゃないと、僕等の友達の基準に入らない。快晴ですら会話はできるんだから……。


「……話すのは勝手だが、ここは冷える。移動するならうちに来るか?」

「そうしてもらえると助かるね。若いとはいえ、この寒さは(こた)える」


 競華の提案に晴子さんが答える。まだ2月前、冬真っ盛りだ。上の階でロッカーとかに貼ったカイロを持ってくれば、少しは楽になるだろうけど、暖かい室内にいる方が快適だろう。


「貴様等もそれでいいか?」


 僕等にも賛同を求めると、相槌とか頷くとか、それぞれ反応を示した。徒歩5分もかからないし、問題ないようだった。

 休憩時間も終わり、僕等は富士宮家へと移動を開始した。後片付けは後日やるだろう。


 競華の家は、真澄原駅から徒歩1分の富士宮IT社の隣にある。5階建の四角い形をした会社の横に建つ、3階建ての家。 豪邸と呼ぶほどではないが、他の家と比べれば明らかに大きい家だ。洋風で角張った家だが、隣に並ぶ会社に似せたのだろう。

 そして、そう言う家を見ると気が弱くなる人間が1人いる。


「…………」


 晴子さんはいつもの表情だったが、左足が震えていた。どうやら緊張しているらしい。まぁ、競華の父親は怖い人だし、そう言う理由に話を合わせよう。


「……言っておくが、今日は父も母も居ない。ゆっくり(くつろ)げ」

『…………』


 そう言ってくれた競華の言葉に、僕等は少なからず安堵していた。競華みたいな性格を育てた親だ、怖くないわけがない。玄関のロックとかその他トラップをタブレットで解除すると、競華は玄関付近を凝視する。


《網膜認証ヲ行イマス。ソノママオ待チクダサイ》

『…………』

《識別完了。オカエリナサイマセ、競華サマ》

「開いたぞ。入れ」


 いつから個人の家はここまでハイテクになったのだろう。帰るのが一々面倒じゃないのかと不思議でしょうがない。

 とは言うものの、大企業の社長宅ともなればここまでの技術が使われても変ではないのだろう。


 僕達も漸く家の中に通される。ずっと付けっ放しの暖房のおかげで即座に暖かさに包まれた。玄関を出ると広いリビングに出た壁には絵画がいくつも展示され、見るからにたかそうな壺もショーケースに入れて置いてある。基本的に白色の部屋だが、美術品で彩られた美しい部屋だった。上を見れば直径50cmはあるシャンデリアがあるし、なんとも煌びやかでゴージャスな事か。


「……客人と話す時はこの部屋を使うんだが、私の部屋に来たいか?」

「……キミの部屋の方がいいかな。万が一飲み物をこぼしても、被害が少ない」

「そうだな。この部屋でコーヒーでもなんでこぼしたら、100万はくだらないからな」

『…………』


 つまり、カーペットだけでそれだけいくというもの。僕達は誰も声を出せず、3階にある競華の部屋に移動した。

 競華の部屋は1階の煌びやかさなど微塵も感じない部屋だ。代わりに物凄い数の機器が置いてあるけども。

 U字型に曲がった机にはトリプルモニターがあり、キーボードは2つ置いてある。部屋の奥、クローゼットの隣にはステンレス製のラックがあって、クローゼットの倍の大きさのラックは黒い機器で大半が埋まっていた。小さいが、3Dプリンタなんて物もある。会社のデータが3Dで送られたりするんだろうか。


 配線は綺麗にまとめられており、歩くスペースは余裕で確保できた。ゴミもなく、他にあるのはベッドと鞄かけ、参考書などが並べられたもう1つの机。フローリングにはカーペットもなく、本当に無駄がない。照明はセンサー式で自動点灯したけれど、そういう最新技術があるのは競華らしかった。15畳はあるこの部屋は広く、全員が余裕をもって座れる。僕等は輪を描くように座った。


「……まずは晴子。今回は貴様の勝ちだ。見事だ」

「ん。私は何もしていないさ。皆が私の言うことを聞いてくれたから、キミに勝てた」

「頭とはそういうものだ。脳みそ自体が何かをするわけではない。いつだって動くのは体だ。幸矢達が貴様の手足となったからこそ、勝ったのだろう? それが、貴様の力だった」

「……そうかな? 少なくとも幸矢くんは、アリスくんという未知の存在に対しても的確に、自分の頭を持って対処したよ?」

「……ああ、それには本当に驚いた。アリス、油断し過ぎだ」

「反応はしたのよ。でも、幸矢様の腕は一流の暗殺者のソレだった……。音も無く天井から忍び寄り、手持ちの武器で相手を確実に仕留めるための動き。一体どこで学んだのか、聞きたいぐらいですわぁ……」

「……そんなに凄いものじゃないよ」


 廊下の幅が僕が2mも無かったことが幸いだった。天井を手足の力だけで移動して、正直腕が痛いし、2度とやりたくない。意表を突くにはアレしかないと思ったけど、上手くいって良かった。


 アリスだって、最後まで油断していなかった。僕が地面に降りた時、小さな音だったのに振り返って見せた。ドローンに気を取られてるだろうに、反応できるということは……。

 只者ではない。競華の友人らしいが、一体何者なんだ……?


 僕が鋭い視線を向けてると、アリスは正座し直し、右手を胸に当てて口を開いた。


「フフッ……私のこと、気にされてますわね? 自己紹介させて頂くと、私の名前はアリス・プリケット。CIAで秘密裏に作られた工作員(エージェント)であり、主に暗殺を生業としていましたわ。今では私達の存在が表沙汰になりかけ、組織は解体したようですが……私はそれよりも早く辞めて、"女王(クイーン)"率いる別の組織に与してます」


 彼女の自己紹介を聞いて、この場にいる皆の顔つきが変わる。いや、もとより和やかなムードなどなかったのかもしれないが――その生来はあまりにも辛いものだった。

 しかし、納得のいく点も多い。僕が競華と一騎打ちしている時、彼女は音も無く現れた。それに、僕が不意打ちで仕留めようとした時も反応してみせた。暗殺業というのは合点が行く。

 それにしても……


「おい、いいのか? 最後の方は、別に言わなくても良かったんじゃないか?」


 僕の疑問を、彼女の仲間である競華が口にした。まだ言うべきではないことだと、普通は思う。しかし、彼女は気付いてたんだ。


「……幸矢様の携帯で、グループ通話していましたよね? その時にもウッカリ喋ってしまいましたので、構いませんわぁ。どうせ組織のことも、"女王(クイーン)"の正体についても口を()るつもりはありませんしぃ」

「そうだったか。まぁ、私もそこまで言うつもりはない。どうせ奴と晴子はいつか会うんだからな」

「……話が読めんが、その人と私が会うのは何故かな?」

「奴が貴様に会いたがってるんだ。それ以外にないだろう」

「……ふーん」


 曖昧な相槌を返すと、晴子さんは顎に手を当てて何やら考え始めた。競華やアリスという人材が与する組織――晴子さんを勧誘したいのは痛いほどよくわかる。しかし、その目的がまるでわからないのだ。


「何故会いたいか、気になるか?」

「気にならない方が不思議だね。正直な話、私なんかよりも幸矢くんに会いたいと言う方が自然だし……それなのに、何故私なのか……」


 晴子さんの推察では、国会議員の孫にあたる僕の方が声をかけられそうなものと言いたいのだろう。しかし、目的は晴子さん。それはつまり――


「Comité pour créer une utopie――それが、我々の組織の名だ」

『――――』

「……え?」

「……?」


 競華の喋った言葉が、僕と晴子さんを射抜いた。突然のフランス語、それは椛に全容を悟られないためだろう。僕と晴子さん、競華は、中学の時に合言葉になるようフランス語を勉強していた。快晴は諦めたからわからないだろうけど、最後の言葉ぐらいはわかるだろう。


 utopie――"理想郷"


("理想郷創世委員会"……か? 創世でなくても作成でいい。でも、理想郷を作る……?)


 それは晴子さんの目指すものであり、僕等の理想とぶつかるものだと感じられた――。

中学生の時、フランス語とか勉強したくなりませんでしたか?

僕は中二病扱いされたくなかったのでしませんでしたが、他にそういう仲間が居たなら、勉強したかもしれません。

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