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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第2章:万華鏡
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第61話:対面

お陰様で1万PV到達しました。ありがとうございます。

 銃の腕もさることながら、気配を消して幸矢を撃ち抜いたその少女、アリス・プリケット。

 元はCIA(米国中央情報庁)の諜報員として幼少期から訓練を受けてきた精鋭。12歳にして黒瀬瑠璃奈暗殺の名を受けるも失敗、瑠璃奈の思想に敬虔の念を抱き、今に至る。諜報、情報操作を得意とする彼女は、無人島にプロトタイプを作るだけの現状、島にミサイルが打ち落とされないように諸々と電子情報戦をするぐらいしか役目がなく、暇を持て余していた。


 そんな彼女に、競華は頼ったのだ。1対1で戦うとは誰も言ってないし、だから晴子も幸矢や快晴を起用した。競華も仲間を呼んだだけのこと――。


「"神の左手"ともあろう貴女が、1人の少年にここまで手間取るなんて、情けないなぁ……」

(やかま)しい。貴様には分からぬことだ。貴様にとっては結果が全て、人情なんて無いだろう」

「人情で死んでたら話にならないわ。……まぁ、今回は死合いではありませんもの。のんびりやりましょ?」

「のんびり、な……」


 競華は自身の腕時計に目を向ける。残り時間は18分30秒、予想以上に幸矢に手間取っていた。油断できない相手なのは予測していたにも関わらず、予想を超えて足掻いた友人に、競華は心の中で労った。


「……で、どうするのぉ?」

「隠れているのなら無理に引っ張り出せば良いだけだ。一階に行くぞ、アリス」

「はーいっ」


 競華は幸矢を廊下に寝かせると、来た道を戻って行く。アリスは腰を下ろし、改まって幸矢の顔を見た。


「……まぁ! 可愛いお顔! キスしちゃっていいかしら?」

「何をしているバカ。早く来い」

「あらら。しょうがないわねぇ……」


 すっくと立ち上がり、アリスはセリカに続いて1階へと向かって行った。

 1階に着くと、競華は再び各階の階段からの出入り口に付けたセンサーを起動する。階段付近の壁により掛かり、タブレットを取り出してスイスイと画面をスワイプする。暇になったアリスは、競華に尋ねた。


「ねぇねぇ、競華ちゃん?」

「なんだ?」

「競華ちゃんは好きな人とか居ないの? 恋愛的意味で」

「居るわけないだろう。私はこの生き方を貫く以上、結婚して子供を産むこともないからな」

「ふーん。それってつまり、人を好きになっても理性が引き留めてるって事だよね〜? 媚薬要る?」

「殺すぞ?」

「えーっ、つまんなー……」

「貴様こそ、恋愛とは無縁な存在だろう」

「どうだかね〜」


 退屈そうに嘆くアリスの傍ら、競華はタブレットの操作をやめた。その直後、高層階から爆音が響き渡る。1回ではない。爆発は何度も連続し、アリスは重心を低く身構えた。


「……何よ? ビルぶっ壊すの?」

「ガスを撒いただけだ。しかし、それで効果は覿面(てきめん)だろう。催眠ガスだと疑えば、晴子は出てくるしか無くなる。出てこないとするならば、それはダクトを板か何かで封鎖しているに過ぎん」

「居場所はわかる、ってわけね」

「そういうことだ。まぁ何にしても――彼女は人の心がわかる」

「……?」


 競華の言葉に、アリスは顔をしかめた。人の心がわかる、それならば出てこないのでは――そう思ったのだから。しかし、それは違う。競華の心がわかるならば、ずっと隠れたままこの鬼ごっこが終わるのは、競華に遺憾を与える。それは優しき聖人君子の戦い方ではない。だから敢えてこそ、神代晴子は――


「――その子が、キミのお仲間かい?」


 堂々と姿を現し、競華に尋ねるのだった。

 2人の視線が交錯する。鋭き瞳と優しき瞳。今すぐにでも飛びつきそうな競華だったが、晴子はクスリと笑って、質問とは全く違うことを述べる。


「私はね、エレベーターの扉をこじ開け、天板からエレベーターの上に立ち、エレベーターに繋がるロープを伝って5階まで登って、ずっと本を読んでいた。ダクトがあったからそこを通って何処かに行っても良かったけれど、動くのも億劫でね。まったく、これから追いかけっこをするというのに、体が鈍ってしまったよ」

「そんなことだろうと思ったぞ。貴様との勝負を最期にする必要があったからな、敢えて見なかった」

「だろうね。私が隠れられる所なんて最初からあそこしかないようなものだったし」


 お互いの心を推察し、お互いのために行動する。それは友人同士の戦いだからこそできるもの。冷淡に人を倒すだけの戦いはしない、だからこそこの戦いは美しかった。


「快晴くんや幸矢くんに、色々言ってくれてありがとう。2人も何か刺激を受けただろうね」

「どうだかな。男というやつは、簡単に変わらんから困る」

「……それは性別の問題じゃなかろうに」


 晴子が呆れながらに呟く間に、競華はタブレットとスマートフォンをバッグに仕舞い、そのバッグを床に置いた。

 続けて腕時計を確認する。残り時間は17分、時間は十分にあった。だから、敢えて競華は動かなかった。代わりに、人を使う。


「アリス」

「はぁい?」

「晴子を捕まえてみろ」

「…………」


 ご指名を受けたアリスは硬直した。晴子の全身の動きを見て、脳をフル活用する。


(……瑠璃奈様(クイーン)が瑛晴様と同列視する存在、神代晴子。普通に考えれば、私なんかが敵わない。見た所、足のつま先が山形になってるかな。すぐにでも走れるって所ね。筋力もある、体格もいい。そして賢いはず……彼女の逃げる道の先には、数々の罠があると見ていい……)


 そこまで思考して、アリスは一息吐いた。これは面倒だと言わんばかりに、退屈そうなため息。本来は神代晴子を観察する目的で来ていた彼女は、初見で戦うのは辛いものがあった。


(見学に来たつもりだったし、ハイヒールだから速く走れないのよね……。格闘に持ち込んでも、筋力的に不利。さて、どうしようかしら……)


 思考を巡らすこと数十秒。膠着状態が続くと、気の早い競華は声を上げる。


「やらないのならすっこんでいろ。早々に決着をつけてやる」

「……勝算はあるのかしらぁ?」

「無い。しかし、この国ではよく言うだろう? 虎穴に入らずんば虎子を得ず、と」

「無茶するわねぇ……。それなら、"神の左手"の実力、拝見しましょうか」


 競華が前に出ると、アリスはしゃがんで両手を顎にやり、ぶりっ子のポーズを取った。しかし、晴子の視線は彼女に行かない。視点の行く先は、このゲームの鬼である富士宮競華ただ1人に――。


 狩人と羊が見合ってるような、優しさと猟奇が交錯する。しかし、温厚で柔和(にゅうわ)な羊も狼を食べるかもしれない。


「晴子――貴様ほどの女なら、私に勝つも負けるも選択できるのだろう。しかし、私は貴様の戦略を見抜けば、貴様の考えが読める。本気で勝ちにくるか、負けに来るかもな」

「生憎と、負けるつもりはないよ。我々の友情に誓って、君に捕まらないよう全力で策を練ったさ」

「"ここから"をスタートラインとして……だろ?」

「そればっかりは文句を言ってくれるな。キミだって、幸矢くんに負けかけたじゃないか」

「やはり聴いていたか、あの時のことを」


 そこで競華は、晴子と幸矢が常に通話状態だったと確信した。否、快晴や椛も含めたグループトークも視野に入れている。今まで倒した奴らが戻って来ることも考えていた。


 どこにどんな罠が仕掛けられてるのかもわからない。しかし、それに臆す競華ではない。覚悟はできている、だから――


「行くぞ、晴子!!!」


 競華は一歩を踏み出し、晴子を捕まえんと走り出した。

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