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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第2章:万華鏡
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第52話:1月30日・朝

 もう少しで2月も始まるというのに、気温は0度付近をうろちょろするだけの代わり映えのない毎日――というのは風景だけで、僕の生活には変化があった。


「……本当にいいの? 快晴の通学時間に合わせて」


 僕は2階建の一軒家の前で隣に居る少女に聞いた。黄色いコートを着た彼女は、寒そうに自分を抱きしめて揺れながら僕の問いに答える。


「うむ……。たまにはね、いいかなっと思ったのだ。中学までは3人で登校するのが当たり前だったのにねぇ……今じゃバラバラだし……」


 晴子さんは苦笑交じりにそう言って、僕の体にもたれかかる。バラバラになる道を選んだのは貴女だろうって。

 まぁ、そんな事はいい。演劇も終わったし、たまには3人でゆったり登校するのもいいだろう。


「入学式以来、かな……君と登校するのも」

「そうさなぁ……寂しかったかい、幸矢くん?」

「……。寂しさ、ね……」


 そう言われると、演劇の終わりを思い出す。僕が孤独であると仮定して、寂しいか否か。僕は、どうだろう。毎朝顔を合わせていたし、電話もしていた。


「……そんなに寂しくなかった、かな」

「ははっ、強気だねぇ。キミのそういうところ、嫌いじゃないよ」

「別に、強気ってほどじゃないけど……」


 どんなに嫌な人だろうと、居れば寂しくはない。最低でも家族がいれば、寂しさはないだろう。そう考えると、美代や義母は居るだけマシかもしれない。


 そんなことを考えて居ると、目の前の玄関から大男が出てきた。

 真ん中で髪を分けた男で、ワインレッドのコートを着ていた。そんな派手なアウターを着て、コイツは校則違反にならないのかと思う。まぁ、幼馴染が生徒会長だし、大丈夫だろう。


「おーっと。朝からベッタリしてんじゃねぇよ、2人とも」

「やぁ、快晴くん。さっきぶりだね」

「うぃーっす」


 名前を呼ばれ、テキトーに返事を返す快晴。今日のランニングで僕は会わなかったけど、晴子さんは会ったらしい。今日初めて顔を合わせる快晴は、僕を見てニンマリと笑った。


「なぁなぁ幸矢、アレ俺のバイク。カッコ良くねぇ?」

「……はぁ」


 瑛彦の指差す先には普通自動二輪車があった。スクーター型と違って空気抵抗も防げなさそうだし、2人乗りはできても快晴の後ろには乗りたくないな。

 カモフラ柄のイカツイ車体を僕はスマホで写真だけ撮り、快晴にこう告げる。


「早くしないと遅刻するし、行くよ……」

「感想を言えよ!?」


 なんかツッコミが来たけど、僕も晴子さんも彼を無視して歩き出す。ただでさえ遅い時間だし……と言ってもまだ8時だが、HRに間に合うかはギリギリというところ。走れば間に合うが、今日はそんな気分じゃないだろう。


「……で、終わったんだろ? 晴ちゃんの演劇」


 ぶっきらぼうに、こちらの心境など考えずに快晴はその話題を振ってくる。僕は答えたくなかったが、晴子さんは当たり前のように答えた。


「終わったよ。いやぁ……もう二度とやりたくないね」

「幸矢が二股したって話、どうなったん?」

「……快晴、本気で言ってるならぶっ飛ばすよ?」


 快晴は僕の言葉を笑い飛ばし、無かったことにした。そもそも交際経験0なのに、二股はどうだろう。


「そのせいでさぁ、俺たちも負けちまったよ。球技大会、優勝したかったわ……」

「快晴くんのところは、キミが強いだけで連携もないから、幸矢くんが出なくてもいい勝負だったと思うよ? その場合、1組が負けたとは思うけどね」

「だよなぁ〜。幸矢、秘密兵器過ぎるだろ……」

「……別に、秘密でもなければ兵器でもないけど」


 人間だし――とまではツッコまなかった。僕は人間としてのポテンシャルが高く、できることをしただけ。そう考えると、僕は別に優勝したかったわけでもなく、楽しんだわけでもない。僕の感情は、どこに消えたんだろうか。


 そうやって感情のことを考え、2人に構わずボーっと歩いていると、僕等の家の最寄駅、真澄原駅に着いた。駅前に、見知ったちっちゃい黒髪の女性が仁王立ちで立っている。


「……随分と遅かったな」


 鋭い眼光を僕等に向け、競華は不満そうに呟いた。……競華とは一緒に登校する約束はしなかったけど、仲間はずれで寂しかったのだろうか。孤高な彼女に限って、そんなことはないと思うけど。


「なんだよ競華、一緒に登校したいならそう言えよな」


 快晴は、まったくしょうがないと言わんばかりな尊大な態度で声をかけるも、競華は彼を無視して晴子さんの前に立った。


「晴子、貴様に用がある。……とはいえ、こんな時間だ。電車の中で話そう」

「はぁ……。まぁ、構わんが」


 それだけ言うと、競華は改札を抜けて行った。歩くペースが僕達の3倍はあるが、今は豹のようにトトンと飛んで抜けて行った。彼女の後ろ姿を見失うと、僕等は顔を合わせてから競華を追い掛けた。


 涼しい顔で凛然と立っている競華に追い付くと、僕等はその横に並ぶ。どことなく気まずくて、僕と快晴は黙っていた。


 レールとの摩擦で金切り声を上げながら電車がやってくる。各駅停車と書かれた鉄の塊は僕等の前で止まり、一拍置いてから爆風が訪れた。開かれた扉の先は扉付近にしか立っている人が居なくて、すんなり入る事ができた。

 電車が動き出すと、競華は一息吐いてからこう切り出す。


「晴子、私は少しばかり留学する」

「えっ」


 とても意外な申し出で、僕等はみんな目を丸くした。僕と晴子さんは声を出さなかったが、快晴が驚嘆する。快晴は身を乗り出して聞いた。


「何でだよ競華、球技大会で負けたのがそんなに悔しかったのかよ?」

「あんなお遊戯で負けようが、悔しくなどない。まぁ、野暮用だ」

「会社の用事か?」

「そんな所だ。……って、貴様に話していない。私は晴子に話しているのだ」

「むぐっ」


 快晴の下顎を上に上げ、口を塞がせる競華。その視線の先にいる聖女は、真摯に競華を見つめ返していた。


「……どこの国に行くんだい?」

「アメリカだ。2年前も行ったな」

「ああ、そうだったね。お土産をよろしく頼む」


 まるで旅行か何かに行くと思ってるのか、晴子さんは呑気にお土産を要求した。競華は特に気にせず、話を続ける。


「それで、だ。北野根を引きつける時にした約束、今使おうと思う」

「ん? ああ、なんでも言うことを聞くと言ったやつか。いいよ、なんだい?」

「…………」


 この会話を聞いて、僕は少しげんなりした。引きつけるって、体育館の爆弾を除去したり、写真を送りつけた事か。アレにはリスクがあったにしろ、なんでも言うことを聞くと言うのは言い過ぎだろう。

 そんな僕の気もいざ知らず、話は進む。


「明日1月31日、私と勝負しろ。場所、方法、時間はmessenjerで送る。明日の放課後は空けておけ」


 それへ決闘の申し込みだった。勝負――その内容はわからないけれど、この2人が戦うならろくな方法じゃないんだろう。


「……ちなみに聞くけれど、私と戦う理由はなんだい?」

「私が勝ちたいだけだ。私は、貴様より強くありたいそうでなければこの留学に行ったとしても、私は……強くなれないかもしれない」

「…………」


 自分勝手で、自己満足のための戦いだった。いや、戦いとは、いつだって身勝手なものだ。理由だって競華らしいし、止める理由もないだろう。


「……いいよ。キミの挑戦、この神代晴子が受けよう」


 晴子さんは堂々と、戦いに応じた。……まぁお互いに殺す理由もないから死ぬことはないだろう。僕は戦いを傍観してればいいだろう。無論、傍観させてくれればの話だが――。

 僕は晴子さんの命令に従う。必要とあらば呼ばれるだろう。それじゃあ1対1にならないけど、競華も僕の事を晴子さんの力の一部だと認めるはず。今までが、そうだったから。


「フッ。楽しみにしているぞ、晴子」


 競華がそう呟くと同時に後ろ側にある電車の扉は開き、競華はバックステップを踏んで電車を降り、ターンをして駅構内を駆けて行った。

 スタミナ、足の速さ、頭脳……全てが晴子さんに匹敵するであろう少女だ。唯一足りないのは身長だけど、逆に小回りが利いて良いのだろう。

 この戦い、どうなる事か……僕も楽しみだ。


 僕等も競華の後を追って降車し、駅の中を歩いて行く。隣を歩く晴子さんの顔はいつものように清浄なもので、この少女の負ける姿を考えられなかった。

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