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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第1章:舞台役者
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第4話:9月1日・放課後

 北野根椛が列に居ないのは、体育館に着いた頃に発覚した。私は生徒会長として待機してなければならないから捜索は男子学級委員に任せたが、私は嫌な予感がしてならなかった。


(――幸矢くん……)


 いつも私を支えてくれる凛々しい少年が脳裏をよぎる。私にとっての王子様であり、忠実なる僕。彼は1人でフラフラしているのだろうか。

 それとも、あの怪しい少女に捕まっていないかと、頭が痛い。


 当然、幸矢くんに万が一があるとは思っていない。私は9年もの間、黒瀬幸矢(くろせゆきや)という人物と共に過ごしてきた。彼がどれほど万能で超人的な人間か、うんとよく知っている。


 それでも心配なものは心配だった。何故なら、彼は私の想い人(・・・)なのだから。心配しない方がおかしいだろう。

 どうか無事でいて欲しい、そう願うばかりだ。


《では続きまして、生徒会より連絡です。生徒会長 神代晴子さん、お願い致します》

「……出番か」


 私には私の役割がある、君は君で頑張ってくれ、幸矢くん――。


 私は大きく息を吸い、胸を張って壇上へと上がるのだった。

 1年生にして生徒会長である、神代晴子として――。




 ◇




「瑠璃奈は、同じ人間の筈なのにバケモノに見えたわ。人類で最も賢い生命体……私は彼女をそう評価してるの」

「……そんなに凄いものかな、僕の親戚は」

「あの子が今何をしているか、親戚なら知ってるんでしょう?」

「…………」


 勿論、黒瀬瑠璃奈が何をしているのかは知っていた。しかし、僕はあえて口を閉ざし、何も答えない。瑠璃奈の情報を漏らすのは、よくない事だから。


「……なんで君は、瑠璃奈に惚れ込んでるのにここへ来たの?」


 話題を逸らし、北野根に問う。北野根は僕が話を逸らしたのを気にせず、クスリと笑って答えた。


「だって、気になるでしょう? 黒瀬瑠璃奈は、使える人材を引き抜くために京西高校に登校したわ。しかし、彼女が一番求めている人材は神代晴子で、その神代晴子は別の高校、しかも偏差値が京西高校よりも低いこの高校にいる……。とても興味深いわ」

「……それで、わざわざ転校して来たの?」

「ええ。悪い?」

「別に……行動力があるなって、思っただけさ……」


 口ではそう言いながら、頭では別な事を考えていた。

 あの瑠璃奈がそこまで喋るなんて、珍しかったから。


 それに、晴子さんを狙っているのは単に趣味の問題だろう。たまたま瑠璃奈は、京西高校で"晴"を名前に含む天才を見つけたようで、晴の名前を持つ晴子さんと運命性を感じたらしい。僕が昔から晴子さんの話を瑠璃奈にしても、あまり興味は引けなかったから。


「――でも、あの瑠璃奈の親類に会えるなんて、こんな面白い事は他にないわ」

「……僕は、瑠璃奈や晴子さんに比べたら、凄い人間じゃないよ」

「それは私が判断する……としても、瑠璃奈は神代晴子を気に入り、幸矢は神代晴子と対立している……。疑問しかないわ。晴子に試練でも与えてるというの?」

「……。僕は、瑠璃奈に従って生きてるわけじゃない。僕は僕の意志で動いている。……それだけだよ」

「あら、そう……」


 視線が交錯する。

 北野根は僕が嘘をついていると疑って嗤っていた。嘘ではない、晴子さんの言う事を聞いて生きるのは僕の意志だから。

 僕の表情は変わらないから考えてる事は読めないだろう。だからこそ北野根は視線を逸らし、立ち上がった。


「まぁいいわ。それはこれからの長い学生生活の中で確認させていただきましょう」

「君がそんな事で時間を無駄にする必要は、ないと思うけどね……好きにしなよ」

「ええ、好きにさせてもらうわ」


 缶ジュースを置き去りにして、少女はヒラヒラと手を振りながら去って行った。もう帰るんだろう、彼女が帰りのHRまで残っているとは思えない。


「…………」


 僕は彼女の残した缶を手に持つ。こういう非常識な行為は、あまり好きではなかったから。


「……?」


 彼女の飲んでいた炭酸ジュースから異様な匂いを感じて、僕は直感で缶を前方に投げた。


 刹那――目の前で小さな爆発が起こる。


 感が爆発し、中の液体が弾けた。


「ツッ――」


 缶の破片が腕の皮を切る。少し液体が顔に掛かるが少量だからか問題無いようたった。事前に投げてたおかげで助かった、もう少し気付くのに遅れたら右手が無くなっていただろう。


「……厄介だな」


 呟きながら、僕は液体の掛かったワイシャツを脱いだ。

 匂いがして爆発に気付かせるなら、これは僕を試したという事だろう。何かしら溶かして、しかも時間をおいて爆発するような物質を知っていた、と……。科学知識があり、こんな悪戯をしてくる女――それが隣の席に座るのか。


 これからの学校生活は、タダじゃ済まないだろう。未来のことを考えると憂鬱で、ひとまず僕は買っていたお茶を口に含むのだった。




 ◇




 学校は帰りのHRまでサボってしまい、放課後に喫茶店でコーヒーを飲むのは今時らしい高校生だろう。僕は実家からほど近い、馴染みのある喫茶店でコーヒーをすすりながら、目の前のスマートフォンの文字を目で追っていた。


〈幸矢くん:話があるから、喫茶店に来て欲しい〉


 そこに書かれていたのは僕の送ったメッセージで、スマートフォンは自然と僕の視界から逃れる。

 代わりに目の前に映ったのは、今しがた僕にスマートフォンを突き付けていた神代晴子だった。


「……学校をサボった分際で、生徒会長の私を呼び出すとはいい度胸だね、幸矢くん」

「あぁ……まさかメッセージを送ってから5時間も待たされるとは思わなかったよ。先に来ていた競華は帰っちゃったし……」


 もう2人親友を呼んでいたが、そのうち1人の富士宮競華は僕の話を簡潔に聞いて会社に向かってしまった。競華はIT企業社長のご息女で、彼女自身途轍もないPCの腕前を持っている。簡単に言えばグル級ハッカーらしいが、よく僕等の私生活が筒抜けになっている言動をされるので、その凄さは身に染みている。

 この前も、読書の時間が短いと叱責を貰ったほどだ。暇潰しで私生活を監視されたくはないんだが……。


 それはさておき、競華の名前を出すと、晴子さんはため息を吐いた。


「競華くんは忙しいからなぁ……。快晴くんは?」

「呼んだけど、遊びに行くってさ……」

「彼は相変わらずだねぇ」


 もう1人の親友も呼んでいたが、彼だけは僕らよりも意識が低いので割とどうでもよく、晴子さんも苦笑するばかり。

 そんなことよりも、本題に入ろう。


「今日は、北野根さんと話をしてたんだ。彼女は僕の親戚を知っているようでね……。僕を見て、すぐわかったんだと……」

「ほぉ……すぐわかったということは、キミの親戚はキミによく似て居るのか。私はそんな話、初めて聞いたが?」

「自分の親戚の話を、わざわざする……?」

「そう言われると言葉を返せないが……いや、いい。それで、なんだね?」

「…………」


 瑠璃奈の名前を出さずに済んで、少しだけホッとする。できれば晴子さんと瑠璃奈は関わらないでいて欲しいから。絶対に面倒なことになるから。


「……君の事だ。今日、昇降口前のホールで破裂した空き缶を見たと思う」

「ああ、見たよ。ただの缶が爆発など自然ではないから、教師陣を言いくるめるのが大変だった」

「事件性は無く、穏やかに、か……。最後までそうできればいいけどね……」

「と言うと?」

「あの缶ジュースを爆発させたのは北野根で、これからも起こる可能性があるって事だよ……」


 僕の言葉を聞いて、晴子さんは眉1つ動かさずに真顔で僕を見据えていた。僕が話を切り出した時点で、あの不自然な缶の犯人はわかっていたのだろう。


「爆弾など大した問題ではないが、頻発すると面倒だね」


 晴子さんはケロッとしてそんな感想を口にした。

 爆弾が大した事ない、そんな事を言える高校生はこの人ぐらいなものだろう。


「まったく……なんでキミが腕に絆創膏なんぞ付けてるかと思えば、そう言うことか。その程度で済んで良かったなぁ」

「……怒るよ?」

「本当の事を言っただけじゃないか……。無事で良かったよ、安心した」

「……そう」


 晴子さんの言葉にはあまりにも感情がこもってなくて、僕は嘆息混じりに曖昧な相槌を打つ。この人はいつも人を心配したフリ(・・)はする癖に、こと僕等親友に限っては感情の色を見せなかったりする。僕だって顔色が変わらないけど、それとは別問題だろう。


「して、これから1組をどうするかなぁ……。北野根くん、北野根くんかぁ……」

「北野根は、君にも興味を持っている。今日の画鋲だけじゃない、なんらかの接触もしてくるだろうね……」

「む? 画鋲の件は矢張り北野根くんが?」

「彼女の口からは聞いてないけど、彼女以外に思いつかない。君を恨む相手は、既に撲滅しているし……」

「確信もないのに犯人を決めつけるな。別に犯人がわからなくとも今朝のことはどうでもいい事だし、咎めなくて良い」

「…………」


 ピシャリと叱責されてしまった。少し怒った風な声色を出され、調子が狂う。

 律儀な人だ、怪しい人物を庇うんだから。


「……幸矢くん、その話は掘り出さなくていい。それより、今後について考えようか」

「うん……」


 話の流れを持ってかれてしまい、僕はただ頷くしかなかった。

 今後……一番直近のイベントは文化祭か……。

 それまでに北野根を丸め込みたいけれど――晴子さんならなんとかしてくれるだろう。

 そんな期待をしながら晴子さんを見て、僕はまたコーヒーを啜るのだった。

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