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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第1章:舞台役者
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第44話:新年

 水曜日、木曜日も晴子さんに球技大会の参加を呼びかけられたが、どちらも断って帰った。仲間と一緒に何かをするのは楽しい――なんて言いながら、僕が参加しないのはおかしいけれど、楽しい"だけ"なんてのは好きじゃない……。

 何かを成し遂げるとか、役に立つとか、そういう事ならやりたい。

 晴子さんは言った、社会はグループワークだらけで、これは訓練なのだと。

 そうかもしれない。しかし、もう少し意義のある事をすれば良いのに。ボランティアで参加できる事なんていくらでもあるだろう。……と、僕がうだうだ言っても学校は何も言わないだろうし、放置するしかないのだが……。


「……どうしたものかな」


 体育館の見える2階の窓から、僕は中の様子を見ている。1-1クラスの練習――その中には上下ジャージ姿の椛が居た。

 彼女ほど賢ければ物理も得意で、ボールの放物運動を自在に操っていた。晴子さんと彼女が居れば、1組は敵無しだろう。


「……何か不満か?」

「…………」


 背の低い少女が僕の隣に並び立ち、女性のものとは思えぬ低い声で問いかける。


「不満――というよりも、困惑してる……。まさか、椛が練習に加わるなんてね……」

「楽しさ探し、だったか? 勝手にやらせれば良いんじゃないか?」

「……不思議なものだよ。照明を落下させて数十人殺したかもしれないのに、ああやって一緒に、スポーツをしてるんだから……」


 とはいえ、椛は楽しそうではなかった。速いサーブが入ったり、バレー部顔負けのスマッシュを打ち込んでも、あまり楽しそうではない。椛からすれば、ボールを打ちたい所に打つのは当たり前で、周りができないことに苛立つぐらいだろう。手が痛くなるし、良い事なんてない――きっと今、そう思ってるはずだ。


 それでも続けて居るのは、楽しさを見いだせるかもしれないと思ってるからだろう。精一杯体を動かしてチームの役に立てば、何かあるかもしれないから。


「…… 幸矢。精神とは一本の木だ。水をくべてやらなければ成長はしない。だが、北野根の精神はまだ苗で、お前は鉢ごと精神を変えようとした。……貴様が水をくべろ。そうでなければ朽ちるぞ、あの女」

「……。水、か……」


 信念を変えたという意味では、競華の言うことは正しい。水は、僕が彼女をサポートし続けなければいけないという比喩だろう。

 ……僕は、何をすれば良い? 退屈そうな彼女を満足させるには……?


「……難しいな」

「気難しく考えるな。貴様は素直でありさえすれば、それでいいんだ」

「……嫌味?」

「何を言う。そのひねくれた性格でいればいいと言っているんだ」


 競華と目が合う。彼女が冗談を言う性格じゃないのは重々承知だし、瞳が嘘をついていないと言っていた。真面目な顔は簡単に作れるからフェイクかもしれないけど――まぁ、信じようか。


 12月23日、修了式の終わったこの日の練習を見届け、僕達は静かに学校を去った。

 椛が何かアクションを起こす事は、なかった――。




 ◇




 冬休みが始まって、年末という寒冷化した社会に足を踏み込むのも嫌気が指して僕は基本的に家に居た。たまに友人達に呼び出されるも、どれも小用で2時間もせずに帰った。勉強は基本家でやるし、年末年始も何かあるわけでもなく、普通に過ごした。


 クリスマスや大晦日が来ても何かあるわけではなく、勤勉に過ごすばかり。息を吐けば白く煙り、ペンを動かす音、マウスを動かす音だけが僕の部屋にあった。


 年始になると、お爺様の所に行ったり、お雑煮を食べたりした。黒瀬家はお爺様の所に集うが、今年も瑠璃奈は来なかった。そして、美代達が家族に迎え入れられてから、お爺様は瑠璃奈が来ない訳を、こう言うようになった。


「瑠璃奈はね、死んだよ――」


 もちろん生きているし、椛の時もメールが返って来たからわかっているが……きっと、美代には瑠璃奈の存在を隠したいのだろう。

 お爺様も、僕達と同じで高貴だ。汚いものは近づけたく無いのだろう。


 軽く国内旅行をして年始も5日は経つ、それが黒瀬家の恒例行事だった。

 1月6日のお昼時……僕は晴子さんに呼ばれ、真澄原にある一番大きな神社に訪れていた。


「……わざわざ今年も呼ばなくていいのに」

「矢張りこの3人でやらないと落ち着かないのだよ」


 億劫そうな僕、カラカラと笑う陽気な晴子さん、そしてもう1人。


「それによー、お前ら全然俺に話してこねーじゃん? こういう機会を大事にしろよな」

「キミのために来た訳じゃない」

「快晴のためじゃないよ……」

「なんだとぅ!!?」


 最近は学校で話さない快晴が一緒だった。競華は初詣という、利益にならない行事には来ない。神頼みするぐらいなら、自分でなんとかしたがるしね……。


 そうして3人とも私服で神社に現れ、お参りをする。願い事はといえば、僕の心に平和が訪れますようにという事を願う。なんの憂いもない時というのは隙しかないから危険だけど、少しぐらいそういう時間が欲しい。

 冬休みは実家にいると、義母が煩いからな……。


 お参りを終え、皆でおみくじも1つずつ買う。僕は大凶だった。


「……なんだろう。今年、死ぬのかな?」

「滅多な事を言うもんじゃないよ、幸矢くん」

「そうそう。むしろ良いんじゃねぇか? 大凶なんて滅多に出ねーだろ?」

「……君達に言われても、嫌味にしか聞こえないよ……」


 快晴も晴子さんも、2人とも大吉だった。この2人は昔から運が良くて大吉か中吉しか引いていない。

 ちなみに僕は去年、凶を引いた。おかしい。


「まぁ、幸矢くんには損な役回りをさせてるしねぇ……。大凶かぁ。死なないようにね?」

「幸矢はいい奴だけど、運がねぇからな。賭け事は絶対すんなよ?」

「しないよ……君達は宝くじでも買えばいいのに……」

「俺この前4等当たったぜ。10万!!」

「私はやらんからなぁ……。やれば当たりそうだけどねぇ」

「…………」


 運勢とは鍛えようがないから困る。この友人達に運気を吸い取られてるんじゃなかろうか? 測りようがないからわからないけども……。

 僕がため息を吐いていると、快晴が無理やり肩を組んでくる。


「そんなことよりよ〜、お前最近どうなんだよ? 晴ちゃんか競華としか帰んなかったくせに、最近は転校生としか帰ってねーんだろ? いいのかよ、お前?」

「煩いよ……。別に、何かある訳じゃないし……」

「本当かよ〜? お前も良い男だし、女の1人や2人だなぁ……」

「そういう冗談を言うところ、相変わらずだよね……」

「冗談じゃねーよー。お前もモテるからなー」

「…………」


 このバカは晴子さんの前で何を言うんだ。それに、学校で嫌われ者の僕がモテるわけないだろう。

 晴子さんを見れば、ニッコリ笑ってるが怒っていた。……快晴、恨むからな。


「……そんなことより、快晴は普通バイクの免許とったんだろう? 凄いじゃないか」

「おいそれ8月の話だぜ……? どんだけ前の話だよ」

「全然話してないからね……。messenjerで聞いたきりだけど、どっか行ったりしたの?」

「行く理由ねーし、どこにもなぁ……。とりあえず、乗りこなせるようにはしてるぜ。いざって時、役立つだろ?」

「多分ねぇ……」


 僕は晴子さんを見る。彼女は怒りを消して笑っていた。……2人乗りは免許取得後1年が必要だが、はてさて……。


 快晴も、晴子さんの手駒の1つだ。もちろん友達ではあるけれど、使える駒としては最高だろう。運動能力は僕等に匹敵し、免許も持ってる。原付と普通二輪……僕は免許は持ってないからな。

 まぁ、そのうち快晴の後ろを乗せて貰うだろう。何かしら、訳ありで……。


「……はぁ。私もバイクの免許ぐらい欲しいかなぁ」

「晴ちゃんも幸矢も、春休みに取れば良いじゃんか。どうせ勉強しかしねぇんだろ?」

「……あのさぁ。そうやって決めつけないでよ。何かあるかもしれないし」

「まぁそう言わずに。2人で教習所に行くのも悪くなかろう?」


 そう言って、もう一方の肩を掴んでくる晴子さん。その声調が少し高かった。……デートか何かと勘違いしなければいいが。


「……歩きにくい。離れなよ」

「まぁいいじゃん。去年はこれで写真撮っただろ」

「今は写真、撮ってないじゃないか……」


 しかも、人の少ない神社だし。僕は腕を回して2人を引き剥がし、おみくじを結びに向かった。今は冬休みなのに春休みの話をするのは、気が早いな。


「……学校1の嫌われ者である僕と、1年生で有名人の2人が一緒に居るなんて、いいのかね?」

「今更水くせーこと言うなよなぁ?」

「そうだねぇ。幸矢くんは私達の親友なのだから」

「……はぁ」


 なんとも陽気な事だ。また1週間後からは学校が始まるのに、まったく……。

 この2人は根明(ネアカ)だ。僕は根暗だから、なんというか……居辛い。


「お参りも終えたし、出ようか。……快晴くん、どこに行きたい?」

「とりあえず飯食おうぜ? 晴ちゃん居るし、オシャレなやつ」

「……じゃあ、僕は帰るから」

「いや、キミも来るんだ」

「そうだ幸矢、お前が奢るんだ」

「……親友という言葉が砕け散りそうだね」


 隣で一緒におみくじを結び、僕は半ば強制的に連れて行かれた。……人付き合いは疲れるけど、久し振りに話すのも悪くはない、か。

ストーリー進めると、深い発言が少ない……気がします。

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