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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第1章:舞台役者
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第42話:甘え方

 何事もなく1日が過ぎ去ると、かえって余計な不安を覚える。

 午後9時――静かに過ごす1人の時間は、落ち着かないものだった。競華の言い付け通り帰ったものの、明日になって学校が半壊してたとか、シャレにならない。

 実際、それぐらいのことは可能だろう。貯水槽をナトリウムか何かで爆発させたり、その水を分解して水素を作り爆発させたり……。

 よく考えると、水は水素と酸素という火を燃やす物質でできてるんだから、最強だよな――なんて。そんな誰でも知ってる事を考えても仕方がない。


 競華に送ったmessnjerも無反応だし、晴子さんは既読無視だし……酷い友人達だ。


《ピロリン♪》

「…………」


 考えてる側から通知が来た。なんというか、タイミングが良すぎるから競華なんじゃないかと思うけど……。って、流石に頭の中までは覗けないか。

 僕はスマホを手に取り、発信者を確認する。そこには、見慣れぬ人間の名前があった。


 送られて来たのは、messnjerではなく普通の電子メール。携帯の番号がわかれば送れるタイプのもの。内容はわかりやすく簡潔だった。


〈明日、学校をサボって私の家に来て。お願い〉


 このメッセージ――実に興味深いと思う。椛は相当プライドが高い。他人をゴミとしか認識しない女だ、そんな彼女が人に"お願い"するなんて、なかなか無い事だろう。


 僕にお願いをする理由。普通なら、学校の帰りに家に上げればいいのにそうでないのは何故なのか。

 つまりは、緊急事態なんだろう。明日来て欲しいというあたり、命を狙われてるとかそういう訳ではなさそうだが……。


 僕が彼女の友達である以上、断る理由はない。

 僕は〈わかった〉とだけ返信を返し、この落ち着かない気持ちを鎮めるためにひたすら勉強するのだった。




 ◇




『…………』

「……何?」


 12月20日、火曜日の早朝。

 朝食の場では家族3人の視線が僕に集まっている。父さん、義母さん、妹……みんな同じように、僕に怪しげな視線を向けていた。

 僕が尋ねると、美代が箸を僕に向けて不満をぶつける。


「何、じゃないよ。兄さん着替えてもいないじゃん!」

「ああ……それか」


 そういえば、今日は制服に着替えていない。なんせ、学校に行かないんだから。

 僕が私服だから、みんな不思議そうだったらしい。


「今日は僕、サボるから……」

「うわー、不良少年じゃん」

「煩いよ……。行かなくても、テストで点を取ればいいでしょ……」


 口煩い美代にそう言って、僕は自分の箸で彼女の箸を 捕まえて下におろさせる。すると、今度は他の所から非難の声が出た。


「幸矢……学校にはちゃんと行くんだぞ? 社会に出たら、無断欠席なんてできないからな」

「そんなこと言われてもね……今日は朝から、困った友達の所に行くのさ……。僕が休みたくて、休むんじゃない……」


 父さんの言葉も躱して、僕は自分で焼いた鯖の塩焼きを一口食べた。父さんは質問に追い打ちをかける。


「友達? また(・・)何かするのか?」

「さぁね……。ただ"来て"って言われただけだし、何をするかはわからない……」

「……。でもきっと、晴子ちゃん達と話すなら、お前も学校で普通の生活に戻れるだろう」

「…………」


 晴子さんと会う訳じゃないけど、面倒くさいから話を切って、僕は無言を決め込んだ。そんな僕を隣で、美代がじっと見ている。しかし、僕は沈黙を続け、それが3分ほどにもなると、僕もいよいよ美代に手を出す。彼女の皿にある鯖の塩焼きをひょいっと箸で掴み上げると、美代が大声で叫んだ。


「ああ〜っ! 私の鯖くんんんんっ!!!?」

「さっきからずっと見て、なんのつもりさ……」

「……なんのつもり?」


 僕の質問を自分で口にする美代。正面に座る彼女はニヤリと笑い、こう言った。


「――会いに行くのは、晴子さんじゃないんでしょう?」


 胸をざわつかせる言葉だった。

 ここにも1人、厄介な女がいる。

 競華、晴子さん、椛、美代……僕の知り合いの女に、ロクな奴はいないな――。




 ◇




 朝8時半、他人の家に行くには早過ぎる時間だろう。僕はA4サイズの入る青いメッセンジャーバッグを肩に掛け、黒のトレンチコートを身に纏い、彼女の家に向かった。

 相変わらず馬鹿みたいに高い15階のマンションに入り、最上階に向かう。エレベーターを出て椛の家のインターホンを押した。


 10秒ほど経って、ゆっくりと扉が開く。中からは、前髪がボサボサで目の下にクマがある、2枚ほどシャツを着た椛が現れた。昨日は好戦的だったのに、競華に負けて戦意が折れたんだろうか?


「……入って」

「……あぁ」


 彼女に促されるまま、僕は家の中に入った。後続の僕がドアを閉めると、不意に椛が飛びかかってきた。

 またか――なんて思いながら、僕は彼女の両手を掴み、動きを止める。

 すると椛はおとなしくなり、手の力も抜けていった。


「……なんでよ」

「…………?」


 椛にしては、悲痛な声だった。その姿相応の心境なのだろう。どういった経緯なのかはわからないし、飛びかかられた身としてはその姿すら演技かと疑いたいが――。


「――抱きしめるぐらい、いいじゃない」

「――――」


 どうやら本当に、彼女は弱っているらしかった。彼女の服の裾を掴み、スルスルと肩の方へ上げるも、注射器などは見当たらず、僕を仕留める気はなさそうだ。

 昨日は何があったのだろう? キツい性格な競華のことだ、酷くお灸を据えたに違いない。


 それにしても、飛びかかるだけの勇気は大したものだ。この子は素直に甘えられないのか――って、素直に甘えてきても警戒するか。

 とりあえず話が見えてきた以上、優しく接してみよう。


「……それならそうと、抱きしめさせてとか言えばいいのに……」

「――甘え方なんて、忘れちゃったわよ……」

「…………」


 それもそうかって思う。思えば、僕はいつから人に甘えなくなっただろう。思考が冷え込んで、"もう子供じゃないんだから"というプライドが甘えを許さなくなった。大人のフリをしようとしてから、僕等は甘えなくなったんだな……。


 僕は椛の手を離し、そっと彼女を抱き寄せた。すると彼女も僕の腰に手を回し、ゆっくりと抱きしめてくる。厚着だったせいか、彼女の手の感触は伝わってこない。


 そして、すすり泣く彼女の涙も、コート越しに伝わってはこなかった。


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