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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第1章:舞台役者
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第25話:面倒事

 ――(もみじ)は、暫く晴子さんを避けるらしい。代わりに僕の事をもっと知りたいだなんて豹変ぶりに、驚きを隠せなかった。


 ここまでは、晴子さんの予定通りだったから。


 晴子さんは人の心理が手に取るようにわかる。惚れるとは思ってなかったものの、椛が僕に好感を抱くのはわかっていた。だから作戦は順調なんだけど、本心から好きにさせてしまったのは、申し訳なく思う。

 僕は、晴子さんが好きなのだから――。


「……明日から、どんな顔して会えばいいんだか」


 僕は自室で溜息を吐きながら単語帳をペラリとめくった。考え事をしながらでも、勉強はしなくちゃな……。なんとなく見てるだけでも、繰り返せば覚えるものだから。


 とはいえ、頭で主に考えるのは椛の事。名前呼びになって、しかも、


「今度、私の家に来なさい」


 なんてお誘いまでされた。

 僕は椛と仲良くなるために、家に行くだろう。そして、彼女を子供から大人へと成長させたい。


 ――それは【理想郷】に必要な事だろうか?


 僕等の目的は曖昧だ。理想郷を作る、では理想郷とは何か?

 瑠璃奈は【完全個人主義社会】だと書いていた。不平等を最大限まで無くし、個人の力量に見合った地位が与えられる、と。


 晴子さんは、そういった展望を語らない。とりあえず総理大臣になろう、などと悠長な事を言っている。

 もっと具体的な理想郷案を考えればいいものだが……彼女のやり方を否定したいわけじゃないし、あまり言わないけども、瑠璃奈に先を越されてただの駒にならないで欲しいな……。


「兄さーん」


 ガチャリと扉が開き、なんの遠慮もなく義妹が入って来た。

 既にパジャマ姿の美代を薄目で睨むも、彼女は怯むことなく僕の方へやってくる。


「見て見て兄さん。世間で有名なモモスターだよ〜!」

「…………」


 美代は僕に、桃色のヒトデにだらしない顔が書かれた人形……人形? を見せつけてくる。


「……それで?」

「可愛いでしょ?」

「…………」


 返す言葉がなかった。桃色のヒトデっていっても、桃みたいに色素が薄いヒトデ。そして、だらしない顔文字みたいな顔。……可愛いとは思えないが、美代の口ぶりから察するに、このデザインは可愛くて人気なのだろう。

 ……僕の感性が悪いのか、ただ困惑するのだった。


「……もうっ! なんで兄さんはこの可愛さがわかんないの!?」

「……そんな事で怒られても、困るんだけど……」

「兄さんはわかってないよ! この顔! この微妙な位置に書かれたこの顔! ……可愛いのになぁ〜?」


 そう言って、人形を自分の頬に擦り付ける美代。むしろ君の方が可愛いんだが、余計な事は言わない方がいいだろう。


「……で、用事はそれだけ?」

「それだけだけど……なによ、兄妹のスキンシップじゃん」

「はぁ……」


 両手を腰に当てて怒る美代。言われてみれば、僕からスキンシップを取りにいく事はないな。


 妹か。

 美代と知り合ったのは14歳の頃。その時の僕はもっと暗く、とっつきにくかった事だろう。それでも美代は僕に、積極的に話しかけてきて、今では話しかけてきても何も思わない。


 僕は彼女を他人(・・)だと思っている。互いに連れ子で、親の縁があっただけで子供まで家族になれるか……それは、違うだろう。

 妹、今の僕は、妹にどんな態度を取るのだろう。


「…………」

「……兄さん?」


 ……そうだな。きっと、こうかな。

 僕は立ち上がり、ポンっと彼女の肩を叩いた。


「そんな事より、お勉強しようか」


 そして、ニヤリと笑ってそう言った。

 ……あれ、笑顔じゃなければいつもと言う事が変わらないな。僕は僕だし、当然だけど。


 しかし、美代は僕が笑ったことについて驚いていた。普段、家の中でも一切表情を崩さないのだから、笑ったのが不思議なんだろう。

 ……不気味がられても困るし、できるだけ昔みたいな(・・・・・)言動や笑顔を努めよう。


「えっ……に、兄さん?」

「可愛いものを見て浮かばれるのもいいけどさ、勉強も大事だよ。ヒトデなんて5億年も歴史があるのに、人間の方が強いんだからね。知識は凄いっ!」

「え……そ、そうだね? どうしちゃったの、兄さん?」

「…………」


 少し引かれてるようだった。僕としても、昔と今じゃキャラが真逆だからギャップがあるのは分かってたし、少し恥ずかしい。


「……ごめん、今のはなかったことにして」

「うん……。兄さん、学校で色々疲れてるのはわかるよ。体に無理がないうちにたくさん寝てね」

「…………」


 悲しい顔で注意をし、美代は部屋を去って行った。妹は扱いが難しいなと、心が複雑なのだった。


 それに、"僕の妹"は――美代だけじゃないのだから。




 ◇




 10月、それは残暑もなくなり秋を感じ始める月だ。衣替えも終わり、学校で半袖は1人もいなくなった。ブレザーを着る生徒が増えると、白だったものが急に黒になり、クラスの色は暗くなったように思える。一部では何故かピンクや青という目立つガラのセーターやカーディガンを着ているが、僕の知人には快晴ぐらいしかそれを着る人が居なくて、他はみんなブレザーだった。


 隣に座る(もみじ)も、例外なくブレザーだった。


「身を隠す――という事は、その体には隠すべき何かがあるって思わない?」


 休み時間、彼女はなんでもないように僕の方を見ながら喋る。右手では頬杖をつき、左手の裾からゴム栓された試験管を出して、プラプラと遊ばせながら。

 試験管内の液体は不明だが、赤くて危険そうだった。イチゴシロップとかなら良いのだが、彼女の場合、絶対そんな事はないだろう。


「ねぇ、幸矢くん? 人は何故、肌を隠すのかしら?」

「……身を守るためだろう? 人間は裸のまま冬を越す事はできない……。何かを身に纏うことで、生き延びることができた」

「そうね、原始的なことを考えればそうなる……。そしてね、人間は後々、着飾る事を覚えたわ」

「…………」


 なにやら面倒臭いことを言い出した椛。着飾る事って、紀元前からある事だし……。


「かの美貌で有名なクレオパトラ7世も、一時は美の神アフロディーテのように着飾った。……ねぇ、着飾るってなにかしら?」

「人に見られるために着ることだろう……? 少なくとも君のそれは、着飾ってるんじゃなくて、ただの装備だろうに……」

「ウフフ、確かにね……」


 僕の言葉にクスクス笑って返す椛。その試験管の液体を使って毒ガスでも作るのか、爆発でもさせられるのかと考えると、まったく笑えないんだよね……。


「……あのさぁ。君、神代が怖いんだろう? 目をつけられたくなかったら、そういう行動は控えたら……?」

「あら、これは護身用よ。富士宮競華もスカートの中にスタンガン隠し持ってるじゃない。それと同じ」

「……まぁ」


 確かに、競華はスカートの中、太ももにスタンガンを括り付けている。それにしたって、スタンガンは周りの人間を殺す事はないからいい。その怪しい液体は何を起こすかわからないため、晴子さんから注意が飛びそうなものだが……。


「しかしね、隠しているのは着飾ってるのと別なのよ。貴方はこれを、装備と言った。私からすれば、着飾ってるのと同じなの」

「……つまり?」

「見せつけてるのよ。私はこれを持っている、って。見せつけるのは着飾るのと一緒。"美しい自分を見て"ってね……。私の場合、私の力を見て欲しいってだけ……」

「……僕に?」

「そうよ。私だって身を守る術は持ってる、ってこと」


 それがなんだと言いたいが、黙ることにした。

 身を守る術……そんなの、僕等はみんな持ってるから。しかも種明かしをするだなんて、僕に気を許し過ぎだろう。いや、液体の正体まではわからないんだけども……。


「……何も言わないのね。その程度当然、とでも言いたげだわ」

「……まぁ、ね。僕だってさ、一応お偉いさんの孫だし……」

「それなら、護身術を見せてもらいたいところだわ」

「…………」


 見せるものじゃないだろうし、やれやれと言いたげに肩を竦めた。椛は僕を見て、またクスクスと笑う。僕をからかって面白いのだろう。


 休み時間も、もうすぐ終わる。 カチコチと動く秒針を眺めていると、再び椛は口を開いた。


「ねぇ? 今日、私の家に来ない?」


 話をバッサリと切り、突然重たい話を持って来た。

 しかし、懐に飛び込む好機でもある。虎穴に入らずんば虎子を得ない。

 時間もない、僕はほぼ直感で頷いた。

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