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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第1章:舞台役者
23/120

intermission-2:力への道

長らく更新を休んだこと、お詫び申し上げます。

どうでもいいことのせいで忙しくて、とても腹立たしいのですが、気分転換も兼ねて、執筆は続けております。


今回は閑話です。またまた対談してもらうわけですが、今回は人が違います。お楽しみください。

 喫茶【野空(ノゾラ)】、そこは黒瀬宅から徒歩3分の喫茶店であり、私達もよく使わせてもらっている店。2人が向かい合って座るテーブルセットが2つと、ソファーの長椅子でテーブルを挟んだ4人席が3つ。その中で入口からすぐの2人席で、私と競華くんは座っていた。


「……ワクワクするね」

「何がだ?」

「久方振りにキミと2人きりで話すんだ。キミほど理性的で高貴な人間を私は知らない。対話ができるのを喜ぶのは、仕方ないことさ」

「……ふん」


 競華くんは腕組みをしながら、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。顔には出ないが、意外と照れ屋だからね。世間で言うツンデレというやつだろう。そんな事を言えば怒られるのは目に見えているし、口にはしないが。


 前置きもほどほどに、私達は対話を始める。


「……文化祭が終わって、どうだい? 何か思うところはあるかね?」

「思うところ、か。ならば身近な話をしよう」


 競華くんは組んだ腕をほどき、右手で何かを掴むような仕草をする。


「……力があるとしよう。筋力でも知力でも、資金力でもいい。力だ。しかし、その力はなんのために振るうのか。正しい使い道に力を使うとして、正しい道とは何か。議論をしよう、晴子――」

「…………」


 威圧するような眼力を持って私の目をまっすぐ見てくる。身近な話……それは北野根くんだろう。文化祭も終わって――と、私は言った。文化祭で、北野根くんは明らかに力の使い方を間違えている。爆弾を設置したり、幸矢くんを奔走させて王水の素材を集めさせたり、イタズラの度合いを超えていた。知識はあるというのに、無意味な事に力を振るうのはもったいなくて仕方がない。


「……北野根くんは、自分が楽しければそれでいいという、自分を中心とした考えで行動している。私自身、その考え方は嫌いではないがね。力の振るわれ方を間違われると、正直困る」

「今回の件は、北野根が爆弾を作った事を警察に言えば逮捕にでき、少年院に送れた。しかし、何故お前はそうしなかった? 貴様も力の使い方を間違えてるんじゃないのか?」

「…………」


 強気な物言いは相変わらずで無遠慮だった。競華くんにとっては、この議論も戦いの1つなのだろう。私もその戦いに尽くすとしようか。


「私は間違えてなどいないよ。北野根くんを警察に突き出すのはいつでもできるだろう。私はそれだけの迷惑行為を受けたし、送るのも手だった。……しかし、それでは更生することもできない。アレだけ曲がった性格をしておるのだ、常人が彼女を更生させるのは、骨が折れるだろう」

「ほう……。貴様が北野根を更生する、と?」

「そのつもりだよ。私の"力"は話す事だけだ。言葉を持って人を操る。だからこそ、北野根くんも更生したいね」

「…………」


 競華くんは再度腕組みをし、私から視線を逃した。思案しているのだろう、私とする会話を。

 議論とは、駒のない将棋のようなものだ。相手が何を話すのかを予測し、その会話をシミュレーションして最終的に自分の意見を通す。そのためには相手を自分の話したい方に誘導したり、話せる範囲を狭くしたりする。相手の行動の裏を読み、王手を決める。我々の会話はそういうものだ。


 それでも尚、私は負けない。

 何故なら――私が嘘をつかないからだ。(※1)


「……晴子よ。貴様の力は私もよく知っている。多弁で話しながら相手の仕草から性格、話す目的を見抜く観察力、人を従える統率力は目に見張るものがある」

「ほう。高く買ってもらえて光栄だよ」

「しかし、その力を持ってしても、人間を構成するには至らないだろう。対話を重ねるごとに相手も反論を重ねてくる。それはな、永遠に理解しあい、更生することなどできない」

「…………」


 競華くんの言葉に、私はあえて頷いた。彼女の言うこともまた正論だろう。互いに信念を持つものが議論をすると、その信念が折れない限りは反論を永遠にやり続ける。

 でも、私が言いたいのはそうじゃない。


「――アルキメデス、知ってるかい?」


 私の言葉に、彼女は目を細めて記憶のページをそのまま朗読する。


「アルキメデス……古代ギリシャの数学者か。流体静力学、てこ、アルキメデスの原理……」

「そう、そのアルキメデスだ。彼の有名なエピソードで黄金の冠というのを知っているかな。王様に金の王冠が本当に金だけでできているか調べろと言われ、で悩んでいるうちに風呂に入り、風呂の中で彼は、水に沈めた時の浮力を使えば解けると思いついた。彼は喜びのあまり服を着るのも忘れ、大通りを裸で走って帰ったそうだ」

「…………?」


 競華くんはこの話を聞いて、何が言いたいのかわからないというような顔をしていた。しかし、彼女は気付いているのだろうか? そうやって受け身でいるうちは、この対話は私のペースになっていると。


「――つまりだよ。真理や真相について閃き、はたまた理解をした時、人は知的好奇心が満たされ、最大限に喜びを感じる。ならば、私は北野根くんに。本当に正しい道を教えてやればいいだけのことさ……」


 私の言葉に対し、競華くんの反論はなかった。

 ――ほら、嘘をつかなければ勝ってしまう。真理、それは覆らない絶対の事実。つまり、真理を口にすれば、議論は全て勝つのだ。相手がちゃんと、理解できる者ならばね。そして、競華くんは理解できる者だ。私の言葉を理解するのだろう。


 私は今まで、他の人の道を照らし、何が正しいのか、自分のためになるのか、それを説いたから築けた人徳がある。それを知っている競華くんが、私の言葉を否定することはできない。


「……。貴様の言い回しは、予想外で困る」

「そうかい? 私は大したことを言ったつもりはないよ」

「ああ……。他人の言葉を借りて話すのは、大したことではない。しかし、私は貴様の言葉に負けた」


 彼女は目を伏せ、潔く負けを認めた。しかし、これで良いのだろう。彼女の"力"はプログラミングだし、私とは生きてる世界が違う。そのくせこれだけの地力があるのだから、敵に回したらいかに恐ろしいか、考えただけで嫌になる。


 一応勝った私は、やんわりと勝ったことを認める発言をした。


「ははは。私が話で負けたら、私の特徴がなくなってしまうではないか」

戯言(たわごと)を……幸矢の言う、漫画みたいな握力があるじゃないか」

「……生まれ持ったものについては、私がどうこう言うことはできないのだが」


 思わぬ話の逸らされ方に、私はため息を吐いた。漫画みたいな握力、それは嘘じゃない。生まれつき筋繊維が常人の3倍あったらしく、握力は右手で171kgある。努力で手に入れたわけじゃないし、あんまり話題に挙げられたくない。


 しかし、競華くんはここから話を繋げてくる。


「だがそれも"力"だろう? 他の人間よりも強いこと、それは力だ。人間の力は3つ。生まれ持ったもの、人生で築いたもの、他者からの贈与」

「自分で築いていない力に、一体何の意味がある。意図せず手にした力を使って地位や名声を手に入れたって、人間は満足しないさ」

「……そうだな。努力をする中で人間は目的を持ち、目標を達成する事で幸福になる。それも尊い幸福の1つだ。……ならば、努力により得た力は、自分の目的のために使う。それで良いのか?」


 私はその問いに答える前に、1つ尋ねる。


「それは君が思っていることかい? 努力により得た力は、努力の中で掲げた標べを辿ると」

「そうだな、私の信念の1つだ。怠惰は嫌いだから、努力についてよく考える。名前も"競華"だしな」

「……そうかい」


 私は微笑んでその言葉を受け止めた。

 競い勝つ華。彼女の名前の由来はそれだけだ。深い意味があるより、1つのまっすぐな意味というのも、私は好きだ。

 競う、つまりは戦い。戦いに勝つには武器――知恵や策略、筋力や体力が必要だ。それを得るには力、努力が要る。だからこそ、彼女は力について語るのだろう。


「話を戻そうか。そうだね、目的のために使う。それはよい事だ。自分の目的を達成し、幸福になる。……幸福は人間の生きる究極的理由だからね。それはとてもよい」


 一度口を閉じ、目も閉じる。

 質問の中身を考えると答えるのが難しいが――そうだな。矢張りこう答えよう。


「でもね、他人も幸せならもっとよい。人間の生きる目的自体は幸福だ。他人も幸せにできれば、それはよい事だろう?」

「だがそれでは、"他者は努力せず幸福になって良い"ということになるが?」


 実に正しい質問の切り返しだった。キミならそう返してくるだろうと思っていた。

 競華くんは愚者が嫌いだ。だからいつも独りで居る。誇りさえあれば寂しさなどないし、気高き者は(つね)に孤独なのだから。

 しかし、私は彼女の友として在る。――それは"力"によって得たものだ。(※2)


「残念だが、キミの言うことは違うよ。力ある者は力なき者に教えればよい。目的を得て、幸福になるための道しるべを。人をその軌道に乗せることができれば、労せず幸福を得るということはなくなる。だからね、他人に幸せになる道を示すだけでいい。それが力ある者が愚か者へしてやることだと思う」


 そう思うからこそ、私はこれまで活動できた。生徒会長として、クラス委員として、人に道を示してきた。これが最大の人助けだと思って――。


「……そうか」

「納得してくれるかな?」

「……。ああ。貴様という人間に言われれば、納得せざるを得まい」


 競華くんは深く溜め息を吐いた。どこか呆れるような、それとも安心するような、そんな仕草に私は微笑みを返すのだった。




※1:真理という事実は覆らないため、真理という本当の事を言えば言論に負けることはない。つまり、嘘を言わなければつけいる隙もないということ。(例:人間の生きる最終目標は幸福であること)

※2:晴子は競華に、生きる方向を示していないし、競華は自分の生きる道は自分で決めている。しかし、2人が仲良くなれたのは晴子の力であることに間違いはない。

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