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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第1章:舞台役者
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第16話:文化祭⑤

 午前は生徒会に居る事が多かったが、時折校内を見て回って笑顔を振りまいた。今の所、北野根くんからの妨害は無く、文化祭は順調に進行している。


 手紙を貰ったからといって、警戒し過ぎたのだろうか?

 あの手紙の内容は、私を貶めようとしたものではない。私がどうしたいのかを問いただす文面だ。


 私は世界を変えたい。そのための道を作り続けている。学校で人をまとめるのも、将来総理大臣を目指すのも、全て通過点だ。


 理想郷――全ての人間が幸せで荒れる世界。

 人にはそれぞれの満足基準があり、それを満たす社会を作る事で、私の夢は叶うのだろう。途方もない夢だ、きっと口にすれば笑われる。


 でも、本当に成し遂げられる人間になれるなら――。


 私は目指し続けたい。ただそれだけなのだ。


「さて――」


 正午が過ぎ、次はクラス行事に移動する。廊下で掛かる声に笑顔と挨拶で返しながら、1-1のクラスに戻って行った。

 クラスの出し物は人探しで、コスプレした1-1の人が出歩いてるのを見つけてくるというもの。エンカウント数によって報酬も変わる。昨日と同じく、私は赤ずきの姿に着替えるのだった。


 クラスの半分はカーテンで覆われ、簡易更衣室になっている。私はそこから出ると、何枚か写真を撮られた後に廊下に出る。奇抜な格好だから目に付くし、着ているのが私だとわかるや声をかけてくる生徒が多くて困った。人探しをしている人はスタンプカードを持っているため、私は見つけてくれた人に判子を押さないといけないのだが、カードを持ってない人が集まってくる……。


「ふむ……立ち入り禁止に近い所でウロウロしているかね」


 人だかりができては困るので、人目の付かないところに行くことにした。写真を撮られながら、10分かけて移動に成功した。ツーショットを撮りたがる人が多いが、私はマスコットじゃないんだぞ……。


 校舎の4階西端の階段付近。この階段は学校関係者以外立ち入り禁止で、生徒でさえ全く通らない。廊下の向こうからなら遠目で赤ずきんだとわかるはずだし、来る人は来るだろう。それまではのんびりできそうだ。


「ふぅ……疲れるなぁ」

「あらあら、なら代わってあげましょうか?」

「――――」


 呟いた独り言を突然拾われ、私は階段を下を見た。

 階段の下には黒い長髪を持ち、艶やかな眼差しをする少女が手すりに寄りかかっていた。私のことを見上げ、ニヤリと笑っている。


 私は彼女の姿を見て目を見開いた。

 彼女が着ていたのは、クラスで作ったシンデレラの衣装だったから――。


「――何故キミがそれを着ている?」


 1つ声のトーンを下げて問いただす。北野根くんは文化祭に参加などしておらず、今日も欠席だった筈。その彼女が自クラスの文化祭用衣装を着ているのは、不自然極まりなかった。


 北野根くんは手すりから背中を離し、両手を広げて釈明する。


「借りたのよ。私だって貴女達のクラスメイトだし、協力したって不思議な話じゃないでしょう? ……ねぇ?」

「この時間、それを着ているのは橘くんだったな。彼女はどこに居るんだい?」

「……さぁ。今日は文化祭だもの。何処かで遊んでるんじゃないかしら?」

「…………」


 愉悦に満ちた言葉でおちょくって来る少女。

 どこかで――それは校内とは限らないだろう。遊んでいる? そんな言葉は信用できない。だが私に安否を確認する(すべ)もない。


(私なら、ね――)


 だが私には信頼する親友、競華くんがいる。彼女に頼めばスマフォのGPSを追って居場所を突き止められるだろう。焦ることはない慎重に行こう。


「……そうかい。北野根くん、手伝ってくれるのはありがたいが、2人も探される側が固まってるのは企画としてマズい。私に何か用があるなら、早く伝えて欲しいんだが?」

「あらあら、ツレないわね。まぁ、用事というほどの事でもないから良いのだけれど――」


 北野根くんはニコリと笑い、怪しい瞳で私を見上げながらこう言った。


「文化祭だもの。お互い、楽しみましょう――」


 その言葉の意図を、私は瞬時に理解する。

 ああ、これは宣戦布告なのだ、と。




 ◇




  13時45分――僕は保健室に来ていた。

 電気が消され、窓から差し込む陽光だけで十分視界が確保できる。医療材が独特の臭いを発するこの部屋は、あまり好きではなかった。


「……まぁ、そこまで非道じゃなかったことだけは、褒めてやるべきかな……」


 2つあるベッドの1つを見ながら、僕は悲しげに呟く。

 ベッドの上には、1人の少女が眠っていた。

 ただし、両手は頭の上に鎖で繋がれ、口にはガムテープが貼られている。気絶しているのか、ただ眠っているのか、小さな口からはスゥスゥと息を立て、胸がゆっくりと上下している。下着姿で放置されてるせいか、その(かす)かな動きはよくわかった。


 これをやったのは北野根だろう。この子……苗字は橘だったか。確か、この時間はシンデレラの白いドレスを着て歩いてる筈だった。衣装を奪ってこの女生徒を置いていく、そんなの北野根ぐらいしかしないだろう。側に女性の制服も置いてあるが、これは橘のかわからないし、触るのはよしておこう。


 まったく、外に居るのも飽きたから1人で居られる部屋に来てみれば……よくもまぁ、こういう事と出くわすもんだ。

 なんでこの少女が服を脱がされ放置されるに至ったかを、彼女の体を見ながら簡単に推測する。


 右手首に包帯が巻いてあった。何か怪我をして、北野根に保健室へ向かわされ、眠らされた……。怪我をした、というのはなんだろう。北野根の事だ、何かを小爆発させて切り傷をつけることもできる。文化祭で一般人もいる日に、そんな事をしたのか……?


 まぁ、それは推測に過ぎない。自分で傷をつけてしまったのかもしれないし、それについて考えるのはやめよう。


 ただ、北野根がこの少女と話して、仲良く保健室に向かったのは、異常だけれど――。


「……言葉、か」


 人を信用させるための話術なんて簡単なものだ。私は良い人ですよ、ニコリと笑ってそう言いながら両手を広げるような、そんな態度で接すれば良い。しかも怪我の介抱という目的もある。すんなり騙せたのだろう。


 目的は当然、1-1クラス行事の妨害――。

 シンデレラが見当たらなければ最も良い景品が出ないのだから。別に、それは北野根のせいになっても構わない。晴子さんが悪いわけでもなく、北野根が悪人だと判断されるだけだ。そうすれば僕と北野根は仲良くクラスで迫害された存在になる――って、それは今でもそうだったな……。


「だけど、晴子さんなら――」


 きっと、なんとかするのだろう。こんなことも予想できない人じゃない。文化祭はあと1時間半だけれど、シンデレラの替えは必要な筈。晴子さんは知恵を絞って最適解を求める筈だ。僕の出る幕はない。


「……なら」


 僕はスマートフォンを取り出し、横たわる少女を写真に収める。僕は嫌われ役だ、この写真も後に役立つかもしれない。脅しとか――ね。


 写真も収めたところで拘束具を解いてやる。親切にも腕を締める鍵は彼女の頭の横にあり、解いてやった。ガムテープは剥がすと起きるだろうし、そのままにする。


「……ん?」


 少女のものと思われる制服の横に、4つ折りの紙を見つけた。僕は少女を起こさないようにそれを手に取り、ゆっくりと開く。中に書かれていたのは以下の文章。


 〈橘さんへ。

 貴女が眠ってしまったようだから、シンデレラの衣装は私が着て代役を務めるわ。ちゃんとやるから、安心しなさい。

 側に私の制服を置いていくから、起きたらそれを着なさいね。じゃ。


 北野根椛〉


「…………」


 楷書体で書かれた日本人らしい文章は、実に善人ぶった文章だった。

 代役を務める――本当に?

 疑わしいにもほどがある。いつも艶やかな笑みを出し、死を語るような女が、こんな善行を積むだろうか?


 とりあえず紙を四つ折りにして戻し、僕は隣の女生徒の制服を上から手のひらを押しつけて、怪しいものがないか確認する。この制服が橘のものなら抵抗があるが、北野根のものなら確かめざるを得ない。変な瓶や試験管でも入っていたら、たまったもんじゃないから。しかし、それらしきものはなさそうだった。


(……これ以上、この子に危害を加える気はない、か。それなら良いんだけどね……)


 安堵の息をゆっくり吐き、僕はベッドのカーテンをゆっくり閉めて保健室を出た。歩きながらスマートフォンを取り出し、ある人に電話を掛ける。その人物は、意外なほど速く出てくれた。


《何の用だ?》


 ドスの効いた深い声で問いかけてくる。それでいて微かに女性的な部分が残っている。その通話相手は、朝にも会った競華だった。


「北野根の居場所、わかる?」

《ああ、ついさっき晴子からも同じ電話が来た。わかるぞ》

「……どこ?」

《1階の広場だ》


 彼女の発した言葉を聞いて、つい僕は立ち止まった。広場、投稿して最初に目にする場所だ。あそこはいろんな人が休憩や自販機で飲み物を買いに寄る。


 つまり、普通に一般人とも触れ合える。


「……どういう事だ」


 思わず呟いてしまう。

 北野根の狙いは、妨害じゃないのか――?

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