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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第2章:万華鏡
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第107話:自己紹介

 ペテン師は鉄骨の上に腰を下ろし、黙らせた美代と僕の事を、足をブラブラさせながら眺めていた。先程から遊びを思わせる言動、行動……その背丈通り幼いのか、それとも演技か。

 ただ、彼女の言動は"大人"だった。


『α。貴女は、自分の立場がわからないほどお子様でしたか? 自分の役割、理想郷のために今すべき行動……貴女という"駒"がどう進むべきなのか、私たちは同じ戦略が見えてるのではないのですか?』

「……でも、だけど!!!」

『……まぁ、危害を加えられた貴女がそう言うのであれば、不問にするのも吝かではありません。幸矢殿は大切な存在ですからね、私としてはどちらでも良いこと。とはいえ、罰もなくこのまま仲直り、なんてエンディングを迎えられますか?』


 ペテン師はそんな面白い事を言った。ペテン師がどんな判決を下そうが、僕等はうまく仲直りできないだろう。この倉庫から仲良く出て行って一緒に帰ることなど不可能だろう。

 だから、少なくとも話し合いはすべきなんだ。贖罪をさせようがさせなかろうが、これは揺るぎない。

 だから、この人(・・・)を呼んできている。


「そのために私達がいるのだよ」


 そして、僕が話したプラン通りに彼女は来てくれた。

 ペテン師が現れたと同時に現れ、敵を捕らえ、対話する。それが今日のプラン。

 そして、息を潜めてもらっていた彼女は、見上げた先、鉄骨の上に立っていた。


『――おや、女王(クイーン)。貴女も来ていたのですね』

「誰かねクイーンとは? 私は――神代晴子だ」


 上下ジャージで、これから体育でもするのかと思える風貌で現れたその女性に、ペテン師は驚くこともなく、快く迎え入れていた。


「……あらあら、私を忘れないで頂きたいのだけれど?」


 そして、その後ろに同じジャージ姿の椛がいる。手には見慣れた試験官が何本も握られていた。

 どうやらヤル気に満ちているようで助かる。


 しかし、高所に居るのは都合が悪かった。


『牧歌的に、平和的に、静謐的に解決するなら、貴女が適任でしょうね』

「フフ、高く買ってくれてるようで嬉しいよ。ペテン師くん……キミとは一度会ってみたかったんだ。どうやら、私の思ってた人物とは違ったようだがね」

『ええ……そうなるように仕向けましたからね』


 全ての目線がα――美代に注がれる。美代こそがペテン師であると、誰もが思っていた。だが現実、彼女ではない何者かがペテン師としてこの場に居るのだ。


 そして、アリスの情報が確かなら――この人間は僕等と同じ学校の、同級生か後輩――。


『……私の正体など、どうでもよいではありませんか。私はただのSランクの1人、瑠璃奈様の仲間。それだけ知っていればよろしいでしょう?』

「いやはや、そうも丁重に断られれば追求しないよ。ただ、キミには今鐘くんと天野川くんに攻撃しないよう、この場で約束してほしい。それだけを最低限叶えてくれなければ――私は生徒を脅かす存在を排除しなくてはならない」

『怖いものですね。後ろの女も相手にしたくありません。ですが貴方達、私と同じ場所に立っててよろしいのですか?』


 3人が立つのは細い鉄骨の上、そこで戦いをするのは危険過ぎる。しかも、彼女の言動、武器、鉄骨に登る動きから忍者を連想させた。少なくとも身のこなしの軽さは人一倍……人数差があっても不利だろう。




 相手が"神代晴子"でなければ、の話だが。



「あらあら、ここは怖いわね。私は退散させてもらうとするわ」


 不意に椛が鉄骨から飛び降りようと蹲踞になる。その瞬間から僕は走り出した。鉄骨の高さは易く見積もっても3階の高さ、女の子が落ちれば怪我は確実というもの。だがそれでも、椛には降りてきて治療を手伝って欲しかったから降りてきてもらう予定だった。

 その椛が怪我しないように、僕が――


 椛が飛び降りる。どうにかまにあいそうな間合いになって、僕は受け止める姿勢をとった。高さ3m以上、約40kgの物を受け止めるなんて馬鹿げているけれど、


「フッッッ――!!」


 昨日と同じ重さが腕に乗る。既に予習済みの内容をテストしただけだが、それでも腕の痛みは相当なもので、骨が折れてないのが奇跡にすら思えた。


「……ありがと」

「……どういたしまして」


 僕の腕の中にいる少女は頬を赤く染め、そっぽを向きながら謝辞を述べた。ゆっくり下ろしてやると、既に顔はいつもの冷静な目に戻っていて、倒れる今鐘の方に駆けて行った。


 さて――


『……晴子殿。申し訳ないが、貴公と戦う気はありません。今鐘、天野川には手を出さないことを誓いますよ』

「そうかい。それは嬉しい、が……悪いね。私としても、キミの正体には興味があるんだ。その仮面を取らせてもらえないかな?」

『それは困りましたね。まだ正体を晒すには早過ぎるのですよ』

「早過ぎる? 内密的な私達の育成計画で、かい?」

『…………』


 ペテン師は黙した。

 理想郷組が僕等の近くに居るのは、明らかに僕等を育て、理想郷組の雰囲気に染めることだ。やがては向こう側に引き込むんだろう。

 家族(みよ)友人(せりか)は向こうの人間、他にも居るかもしれない。競華も美代も、正体を隠していた。ならばこのペテン師も正体をバラさないのだろう。


「美代くんだって、キミがここに現れたことでそちら側の人間だってバレたんだ。ついでにキミの正体がバレるぐらい、構わぬだろう?」

『生憎と、私の正体は数十人しか知らないのですよ。易々とこの仮面の下を見せるわけにはいきませんね』

「ふーむ。ならば仕方あるまい。諍いは私も好きではないのでね。今日の所は遠慮しておこうか。この場は私が預かるが、キミはどうする?」

『貴公がそう仰るのならば、私は帰らせて頂こうか』

「ん? 帰るの?」

『は?』


 気軽に掛けられた男の声に、ペテン師は不用意にも振り向いた。


 そこに居たのは僕の計画にない男。学生服を着て、優しそうな風貌のその男は、馴れ馴れしくペテン師の首に腕を回した。


『……次から次に人が来ると思えば、次は其方か』

「そんな言い方はないだろう? 頼れる先輩が来たっていうのに」

『寝言は寝て言ってほしいものだ』


 ペテン師は男をどかすでもなく、馴れ馴れしく男と話していた。それは紛れもなく彼女の組織の仲間である証。

 男は鬱陶しそうにするペテン師から離れ、晴子の方へと向き直る。


「初めましてだね、神代晴子。キミとは一度会ってみたかったんだ。学校一つまとめあげてる美少女で頭も良い。凄いなぁ。僕の彼女にならない?」

「名も知らぬ人とお付き合いすることはできないね。それに、我々は違う世界(いきかた)の人間だ。そうだろう?」

「さぁ? しかしキミはそのうち、否が応でも僕等の組織に参加することになる。人を自分の意のままに操ることができれば、未来予知ができるだろう? 今日のことは些細な(・・・)イレギュラーだったけど、未来が変わるほどじゃない。まぁ、僕が会いに来るのにも都合が良かったしね、港付近」


 世間話にさしかかろうとしたところで、少年は話を変える。


「それはさておき、もう少しお話ししていこうよ。競華も居ないこのメンツなら僕としては話し易いし、君達生徒側(・・・)の話も聞いておきたいしね」

「生徒? キミも私も、そうとしは変わらんだろう?」

「教えられ育つ側の事を生徒というのは当然だろう?  ちなみに、僕とキミは同い年だ」

「なるほど、それはいいね。同世代の少年よ、キミは私に何を教えてくれるのだ?」

「んー……それは――」


 言いかけたその刹那、ペテン師の足が少年の足に飛んだ。少年は晴子さんの方を見ている、避けようがない。

 だが、少年は避けた。しゃがみこみ、さらには低い体勢からペテン師に足払いまでする。

 ペテン師の体は跳ねたが、伸びたピアノ線を引いて鉄骨のさらに上へと逃げていく。


「……ペテン師ちゃん、そんなに怒らなくてもいいじゃん?」

『王よ。其方(そなた)は口が軽すぎるのが問題だ。瑠璃奈(クイーン)のシナリオすら台無しにする気か?』

「それはそれで面白そうだ」

『殺すぞ貴様』

「冗談だから怒るなよ。正体バラすぞペテン師」


 一進一退の言葉の応酬だったが、ペテン師の言葉は中々面白かった。

 奴は、鉄骨の上に立つ少年を"王"と呼んだ。瑠璃奈が女王(クイーン)なら彼が(キング)……言葉だけでどんな人間なのか想像がつく。


 ペテン師はそれ以上何も言わず、鉄線を引いて天井につき、某蜘蛛男みたいに鉄線を伸ばして鉄骨に巻きつけ、振り子のように落ちていき、そのままこの倉庫から出て行った。


「――というわけで、ペテン師ちゃんが出て行ったわけだ。ここで改めて僕が自己紹介しようか」


 改まって周りを見渡す少年に、続いて美代が吠えた。


「ちょっと、何考えてるのよ!!! 折角ペテン師がそれを言うのを食い止めたんでしょうが!!!」

「はぁ? 僕が僕の名前を言うことの何が悪いと? イントロデュースはセルフだろ? 殺すぞ?」

「――!」


 "殺すぞ"

 その一言を盾に出されると、美代の言葉の槍はそれ以上飛ばなかった。

 さっきからそうだ。ペテン師もこの少年の脅し文句を聞いて一瞬で去って行った。何者なんだ、この少年は?

 気になる正体は、すぐに本人の口から明かされる。


「……さて。会いたかったよキミたち! 僕の名前は瑛晴(あきはる)。京成高校自主退学、理想郷想像委員会理事会元老院所属、17歳の、管道瑛晴(かんどうあきはる)だ。二年後(・・・)からよろしくね」


 情報量の多い彼の自己紹介は、清々しい笑顔をもってして行われるのだった――。

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