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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第2章:万華鏡
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第97話:尋問

 幸いにも高校から近い公園だったし、女性が3人いたから道中も怪しまれることなく高校に移動することができた。まだ職員室に明りが灯っていたので堂々と正門から入っていき、体育館倉庫に入った。


「なんで鍵持ってるのさ……」

「生徒会長だからね」


 なんて納得できるようなできないような供述をする晴子さんだが、静かに事をなせる場所ということで遠慮なく入る。

 今鐘をマットの上に投げ、バスケットボールの入った籠を通して両手に手錠をかけ、逃げられないようにした。

 セキュリティ会社に連絡が行って、学校が閉まる前にいろいろ聞きださないといけない。

 スタンガンの痙攣効果は、競華と戦った時を思うに、もうすぐ切れる。手早く情報を聞き出して、早く校舎を出てたかった。


「……私をどうするつもり?」


 なんて思っているうちに、今鐘は口が聞けるようになっていた。僕はこの子の勝者である晴子さんに目をやると、彼女は既に今鐘に視線を送っていた。


「どうする、と言うと、色々と話を聞いた上で説教するだけだよ。生徒会長だからね」

「……何よ、どうせそこの男に犯させるんでしょ!?」

「だーから、そんな短絡的なことはしないって。私はもとより、一生徒であるキミと仲良くなりたかっただけさ」

「……余裕ぶっこきやがって」

 

 口の悪い少女に、晴子さんは苦笑する。負けて苛立つのはわかるけど、下品な言動を平気でできるあたり。僕達とは人種が違うようだ。


「すごい女の子ねぇ。殺傷与奪握られてるのに、こんなに粋がれるなんて。あぁ。後輩って生意気なほど可愛いらしいから、これでいいのかしら?」

「椛くんも、煽らないでくれ給えよ」


 ニコニコしながら塩素系洗剤とうがい薬を手にする椛を諫める晴子さん。話が進まないから、茶化さないでほしい。

 僕がため息をついて積み重ねられたマットの上に座ると、椛も寄ってきた。晴子さんと今鐘はやっとまともな会話を始める。


「さて、キミにはいくつか質問させていただきたい。まず、学校の角に置いてあったという雷汞はキミの仕業かい?」

「雷汞……? ああ、それは私だと思うわ。でも、ペテン師と富士宮競華が……」

「……ふむ」


 晴子さんは顎に手を当てて考える。

 僕も思考を凝らしてみる。あの学校の隅にあった雷管は、競華ともう1人"ペテン師"が処理に困り、椛に処理させたのだろう。しかし、競華は本名でもう1人はコードネームか何かなのか。……競華が名乗ったのか、それとも――競華がそれほどまでに有名なのか。


 だが、ペテン師と名乗りそうな競華の仲間を、僕達は知っている。アリスという、実力不詳の人間が――。

 しかし晴子さんの考えは違うようで、今鐘に質問を追加した。


「ペテン師と言った人間のこと、教えてくれるかな?」

「へぇ、アンタ等の仲間じゃないんだ、アイツ」

「ああ、今のところは敵でもなく仲間でもないね」

「……いいよ。教えてあげる。アイツは身長155前後、黒髪で、性別は女だと思う。あと、身体能力が異常に高い。それと――ゴシックドレスを着てたね」

「……!」


 ゴシックドレス――その言葉に、僕は反応せずにいられなかった。雷管を見つけた日の朝、僕の部屋にいた美代が着ていたのはゴシックドレスだった。

 でも、もし妹が”ペテン師”だとして、わざわざ正体を明かすような真似をするだろうか? その点、アリスがうちに寄って美代にドレスを着せたというのなら僕等に疑念を持たせるためだったと合点がいく。黒髪も、ウイッグをかぶればいくらでもごまかしがきくだろうし。


 どちらが正しいかはわからないけれど、詮索はあとでいくらでもできる。今はいいだろう。

 だから晴子さんも、質問を変えた。


「ふむ。見当がつかないな。それはおいおい考えるとして、キミは他に、私たちの敵対者を知っているかな? それとも、キミは何かの組織に所属していて、今日私に一騎打ちを申し出たのは斥候(・・)の役目を果たすためかい?」

「ッ!! この私が、斥候なんてするはずないでしょ!!! 私は単独よ! 今回は、誰の力も借りてない――!」

「誰の力とは、天野川清明くんのことかい?」

「――!!」


 今鐘は言葉を失っていた。晴子さんは、今鐘の仲間についても調べがついてるのだろう。確か、今鐘と天野川は幼馴染で、天野川は何でもできる(・・・・・・)んだったか。万能な人間なら、知り合いにいっぱいいるけども。

 今鐘はもう、籠の中の鳥だった。情報を握られ、力では敵わず、成す術がない。年下相手でも晴子さんが容赦なくて、僕も若干引いていた。


「まぁ、何か組織に所属しているわけでもなく、単独で私を殺そうとしたというのなら、大したものだよ。住所を調べて闇討ちすることなんて、現代ではいくらでもできる。なのにキミは、汚い手を使わず、果敢に、正々堂々と真っ向勝負を挑んできた。キミの勇気は尊敬するよ」


 今鐘の肩を叩く晴子さん。人を認めるようなその態度に、今鐘は歯をむき出しにしつつも何も言い返さなかった。自分より強い人間に認められるのは、嬉しいものだ。


「15歳で科学知識に長けているのも素晴らしいことだ。我が校に新しい風を吹かせることを、期待しているよ」

「……バカじゃねーの、アンタ。爆風吹き荒らすかもよ?」

「どうかな? その時は、私や他の天才が止めに行くだろう。だから、そんなに争う姿勢なんて示さず、仲良くしよう。我々は同じ学校の生徒じゃないか。いがみ合うなんて悲しいし、残念だもの」

「……まぁ」


 晴子さんの言うことが納得できたのか、今鐘が頷く。まんざらではなさそうなその顔が、もう晴子さんの話に落ちてる証拠だった。科学はできるようだが、それだけ。椛みたいにてつがくもわかる奴じゃないらしい。


「よしっ」


 そして晴子さんは、今鐘の両手を縛る手錠を解いた。今鐘としては、少ししか話していないのに、もう手錠が解かれて逆に不審がっていた。僕も早計だと思うけど、その手早さが信頼に繋がる。


「さぁ、今日はもう帰ろう。早くしないと、先生に正門を閉められてしまうよ」

「それなら大丈夫よ。助っ人を呼んどいたから」


 晴子さんの言葉を椛が裏返す。いつの間にやら、助っ人なるものを読んでいたらしい。……誰だ? 椛が呼べる人間なんて……。


「そういうわけだから、来てやったぞ」

「…………」


 そして、体育倉庫にその少女は現れた。

 富士宮競華、こういう時にいつも話題に上がる、小さくも存在感のある少女だった。競華はゆっくりとこちらに歩み寄り、いまだに座ったままの今鐘の前に立ち、見下ろす。


「Sランク相手に、Cランクが勝てるわけがないんだ。身体能力、集中力をもっと磨くことだな、今鐘」

「……はい」


 叱咤激励、競華が下級生に指導するのが珍しく、晴子さんも「へぇ」と感嘆した。僕も少し首が伸びたけど、この叱咤激励も、同じ組織だったならあり得る。そこの所は、どうなんだろう?


「競華……君と今鐘は――」

「コイツは組織に入ってはいない。プロトタイプには参戦したがな。見ての通り、あまり成果は芳しくない。親友の天野川の方が優秀だった」

「…………」


 プロトタイプには参加した――というのは、競華が2カ月留学した時のものなんだろう。組織の人間ではない、競華自身も前に言っていたその言葉は本当のようだ。


「教師はもう帰ったぞ。管理会社はハッキングしてあるから、気にせず正門から出るといい。監視カメラも赤外線センサーも切ってある」

「助かるよ、競華くん」

「そう思うなら、学校で尋問などしない事だな」

「天野川くんが来たら、入れ替わりで逃げるつもりだったんだ。来なかったけどね」

「……確かに、天野川が居ないのは不可解だな。病欠か?」

「違うわよ!」


 今鐘が声を荒げて否定する。まだ顔も合わせた事ないが、今鐘はその少年を随分信頼してるらしい。

 その彼が欠席の理由を、今鐘は歯噛みしながら答えた。


「……清明は、私を裏切ったのよ……」


 怨恨に満ちたその言葉が、体育倉庫に響き渡った――。




 ◇




 見えない敵ほど厄介なものはない。見えていれば弱点を探り、倒すことができる。しかし、見えなければ為す術がない。僕はそんなことを考えながら、学校に向かって歩いていた。


 日が変わり、今は朝。学校への登校で、隣には義妹の美代が居る。僕が考え込んで居るからか、あまり話しかけて来なかった。


 おそらく、天野川清明はペテン師に操られている――今鐘悠佳はそう証言した。ならば、真なる敵はペテン師と、そのペテン師が所属する組織。

 しかし、競華はなんだかんだで僕等の見方をしてくれる。理想郷委員会の思い描くストーリーを補正するために居るだけなら、彼女のようなキツイ性格の子を此処に寄越さないだろう。

 競華は味方――そう考えるが、ペテン師という存在はどうかわからない。


 ……それもこれも、話してくれる人間がいるとしたら、アリスだろう。今日の昼休みに当たってみるつもりだが、まともな返答が得られるかどうか……。


「どんよりしてるね」


 不意に美代が僕の頬を突っつきながら呟く。好む遠慮さはなんなのか――そう考えるのも億劫で、僕はただ彼女の指を掴んで突き放す。

 すると美代はニッと笑い、元気に僕の背中を叩く。


「ほーらっ!! 朝からたるんでるよ!? シャキッとして、シャキッと!」

「野菜の瑞々しさを表す擬音で、そんな……」

「元気が一番! さぁ兄さん! 声を出して!」

「近所迷惑だろ……」


 美代の顔面を掴むと、痛い痛いと言いながらビシビシと僕の手を叩いてくる。なんというか、美代は今日も元気で変だが、なんだかんだで不出来な兄を慰めようとするんだから、まだ救いようがあった。


「……1年生が入学してから面倒なんだけど、君が一番マシだよ……」

「いやいや、美代ちゃん裏ボスだから。"グハハハハ、勇者ども。我が駒たちを倒して此処まで来るがよい"って言ってる大魔王だから」

「君にそんな知能があるとは思えない」

「ムキーッ!」


 猿みたいな怒り方をしてポコポコ僕のお腹を叩いて来る美代。裏ボス設定はどこに行ったのか、ただのモブ敵にしか思えなかった。


「……ほら、早く行くよ。僕は君に時間合わせて、ただでさえ遅いんだから……」

「とかいいつつ、兄妹のスキンシップにまんざらでもない兄さんなのでした」

「……会話がとっ散らかってる。もうほっとくからね?」


 僕がひとりでに歩き出すと、美代が追いかけて来た。それからもどうしようもない話をしながら、僕等は学校に向かうのだった。

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