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-COStMOSt- 世界変革の物語  作者: 川島 晴斗
第1章:舞台役者
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第9話:文化祭前日

言葉が難しいですが、いつもの事だとお思いください。

 学内で僕に話し掛けてくる人物は3人いる。

 富士宮競華、北野根椛、そして最後の1人は一番付き合いの古い男子。


「おっ、なんか久し振り感あるな」

「……ないけど」


 最近は学校であまり会わない幼馴染と、今日は1階の自販機前で偶々遭遇した。彼はペットボトルのサイダーを手に、ロケット型のそれと僕の顔を交互に見比べる。


「もう少し遅く来てれば奢ってもらえたのに」

「……君さ、僕をなんだと思ってるわけ?」

「いいじゃんか、気にすんなよ」

「…………」


 厚かましいし、少しイラッとする物言いだったけど、それはいつもの事なので別に怒ったりはしない。

 この男、裾野快晴(すそのかいせい)にとっての素がこれだから。

 前髪を掻き分け、大きな瞳を持つ彼は僕と対照的に明るい性格で、幼馴染でなければ声をかけられることもなかっただろう。本当に僕と真逆で、晴子さんの次点での人気者だから。


「最近どーよ?」


 だから、こんな若者らしい話し方も仕方がない。


「別に……何もないよ」

「転校生が来たんだろ? 競華や晴ちゃんとまた揉めてるらしいじゃん」

「……誰から聞いたのさ?」

「晴ちゃん」

「……あっそう」


 この学校で神代晴子を"晴ちゃん"だなんて呼べるのは快晴ぐらいだろう。ちゃん付けするような人ではないが、昔はちゃん付けも似合う普通の女子だったから。

 僕も昔はそんな風に呼んでいたなと、快晴と話していると昔を思い出す。


「ソイツ、俺にも紹介しろよ。なんか面白そうだし」

「君なんかじゃ相手にされないから……」

「うわー、出た出た! ちょっと、いや、かなり頭がいいからってそうやってハブるの! 萎えるわ〜」

「……ウザい」

「まさか幸矢の口から"ウザい"が出るとは思わなかったぜ」


 僕自身あまり使いたくない言葉だったが、快晴になら別に構わないだろう。これでも幼稚園からの付き合いだ、どの程度まで暴言を吐いていいかは弁えている。


「まぁよぅ、俺はあんま頭よくねーけどさ……頼れる事があったらなんでも言えや」

「毎回言ってるけど、あんまり頼る機会が無いんだよ……。というか、ただでさえ晴子さんの台本(アジェンダ)から外れた行動をしてるんだ。君と会話をするのだって、学校ではなるべくしたくないのに……」

「競華はいいのに俺はダメってどーいう事なんだろうな」

「…………」


 それがわかる脳がないからダメなんだと思うが、あまり酷いことは言わない事にした。

 競華はあの性格だから付き合う人間を選べるし、彼女の行動を止められる生徒も教師もいない。それに関しては僕も同じだし、世間的に対等な僕等が友達で居ても不思議ではない。

 快晴は違う。快晴はクラスのお調子者達と仲が良く、誰にでも話しかけるから交流が深い。僕と話すのを見られるのは本来ダメなんだ。


 それを守ってくれないのが快晴なんだけど、この事を晴子さんに話してもカラカラ笑うだけでどうにもならなかった。


「もうすぐ予鈴が鳴るから、戻りなよ」

「えー? 幸矢、学校サボってサッカーしようぜ?」

「…………」


 僕は快晴を無視して教室に向かって行った。後ろから(うるさ)いのがついてくるけど、全て無視する。


 結局、飲み物は買い忘れてしまったけど仕方がない。




 ◇




 文化祭もいよいよ明日か――と思うと、少し厄介な気持ちになる。親には3者面談などをされた経験もあり、今年一年目は捨てると先立って伝えてあったから来る予定すらないらしいし、そもそも、共働きなので関係なかった。美代は単独で行くらしいけど、そもそも僕は家に居る予定だし関係ないだろう。


 今日は北野根が帰り道を一緒にしなかった。やる事があると言って、止める暇もなく帰ったから。明日は文化祭、彼女も何か企んでるんだろうけど、学校の警備は競華がする筈だ。彼女が一番北野根を注視してるだろうから。


 僕はのんびりしてればいい、明日は学校に行かず哲学書でも読んでいよう。みんなは今も文化祭の準備をしてるかもしれないが、僕は家で耳にヘッドホンを当てながら、のんびりとデカルトの本を読んでいた。


 もう日も暮れる。そろそろ夕飯を作り出そうと思っていた矢先、机の上にあるスマートフォンが振動した。すぐに手に取って発信者を確認すると、晴子さんからだった。出ないわけにはいかず、画面をタッチしてヘッドホンを取る。


「……もしもし?」

《やぁ、幸矢くん。今、時間はいいかい?》

「構わないけど……何か用?」


 素っ気なく返すも、晴子さんは明るい調子のまま続ける。


《ちょっと作りたい物があってね、手伝ってくれるかい?》

「……僕は文化祭、手伝わないんじゃないの?」

《君が手伝うことは誰にも言わないから安心したまえ。確か、夕飯やらお風呂やらが終わるのは21時くらいだったかな?》

「いや、20時半には……」

《なら、その後うちに泊まりに来てくれないかい?》

「…………」


 唐突になんという相談をして来るんだろう、この人は。いくら幼馴染とはいえ、友達の家に泊まるのなんて小学生以来1回もなかったんだけど……。

 競華の会社に泊まることはあったけど、それは出られなくなっただけだからノーカウントで。


 それにしても、仮にも好き合ってるのに泊まりに来いというのは衝撃発言過ぎた。僕等に限って間違いとか起きないと思うけどさぁ……。


「……一応聞くけど、何を作るの?」

《衣装だよ。うちのクラスは人探しをするだろう? あと5着あるんだが、どう考えても間に合わない》

「……なんでもっと早く言わないのさ」

《私も今日知ったからね。衣装係に選んだ者がこんな役立たずだとは思わなかった。……まぁ、君と私と私の母が協力すれば、なんとかなるだろう》

「……ああ、そう」


 彼女も今日知ったらしく、こればっかりは仕方ない。5着の衣装をどうやって今日仕上げるのかは知らないけれど、やるしかない。失敗すれば、晴子さんの信用に泥を塗るのだから。


「……それで、布は?」

《買ったよ。君と通話しながら切ってるところさ》

「……貴女が本気でやれば、終わりそうにも思えるけどね」

《朝方まで起きていたくないのだ。君が手伝ってくれれば1.5倍になるだろう。それに、人の目を引くような改良も施したいし、少し悩むところなのだ。では、頼んだよ》

「まだ行くとは言って――」


 彼女は僕の言葉を最後まで聞かず、通話を切った。見かけは大人しめなのに、破天荒な人だ……。


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