【クールな勇者とやさしい魔王5】晩餐会の始め方
※単独でも読める物を目標に書いていますが、シリーズを通して読んで頂けたら嬉しいです。
シリーズURL⇒http://ncode.syosetu.com/s6551d/
ノリと勢いで書くという通常運転でお送りしております。
が、なぜか難産となり、途中指の止まってしまう箇所が・・・
ですが、その甲斐あって自身で納得のいく出来となっております。
それでは、勇者と魔王の会話劇をお楽しみください。
「まだじゃぞ!まだ目を開けるでないぞ!」
「はいはい。困った魔王様だね、キミは。
いきなり礼装で来たと思ったら強引な連れ出したりして・・・」
「ふふん。今のワシにはオヌシの小言など通用せんわ!
それよりどうした?いつもの調子が出ておらんようじゃが?」
「それは・・・から」
「ん?なんじゃ?」
「だから、その、ド・・・から」
「なんじゃ?いつもハッキリと言うオヌシらしくもない。
ほれ、笑ったりなどせぬから言ってしまえ」
「だから・・・。ドレスなんて着た事ないんだって。
なんでみんな、こんなヒラヒラしたの着て平気なの?
なんか、こう、スースーしてて落ち着かない。
それに体の線が出るせいで、武器を仕込めないし、纏わりついて動きにくい。
なんて文句を言ったら、こんなにステキなドレスに失礼なんだけど・・・」
「ハッハッハ!なんじゃ!そんな事か!」
「そんな事ってなにさ。ボクの姿が滑稽なんでしょ?
いいよ。思う存分笑うといいさ」
「そう拗ねるでない。別にオヌシを笑ったのではないんじゃから。
ただ、要らぬ心配をしておるなと思っての。
大丈夫じゃよ。オヌシは美しくて眩しいくらいじゃ」
「それはドレスがステキなおかげであって・・・」
「そんな事はない。
凛々しくキリッとした魅力が、そのドレスで更に華やいでおる。
それに元が良くなければ、ドールメイカーも服を仕立てん。
ほれ、アヤツは面食いじゃからの」
「はいはい。おだてたって何も出ないよ。
でも、まぁ・・・。ありがと」
「普段のオヌシも良いが、そうやってしおらしくしておるのも良いな。
っと、ほれ、もう目を開けてよいぞ」
「・・・どうしたんだい?こんな豪勢な食事を用意したりして」
「うむ!オヌシの助言のおかげで、国が持ち直してきたのでな。
その礼も兼ねて祝おうと思っての!」
「はぁ・・・」
「な、なんじゃ?なぜため息をつく?
ワシ、またなにかやらかしたか?」
「いくら持ち直して来たからって、気が早いんじゃない?
いやまぁ、キミの事だから、ボクが心配し過ぎてるだけだろうけど」
「そうじゃな。まだ予断が許される状況でないのは確かじゃ。
じゃが、これは国民の総意なのじゃから諦めよ」
「総意だって?」
「うむ!みな、オヌシに感謝しとるんじゃよ。
オヌシのおかげで食い扶持も増えた。
それを賄えるだけの余力もできた。
その功績だけでも充分なのに、戦争まで終わらせてくれた。
そんなオヌシに感謝しない者なぞおるわけがない。
どうやってオヌシに感謝を伝えれば良いのか?
ワシの所に来る者はみな口を揃えて、そう聞いてくるぐらいじゃ」
「そっか。ありがたい事だね」
「そんな興味ない。みたいな顔しても口元がニヤついてるのが隠せてないぞ?
自分で素直じゃと言うておったのに、変な所で素直じゃないヤツじゃな」
「そこは気づいても指摘しないものじゃないのかな?
キミも野暮だね。まったく・・・
まぁいいや。せっかく用意してもらったんだ。早く食べよう」
ЖЖЖЖЖЖМЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「ん?そんなにジット見てどうしたんだい?
そう見られ続けてると、食べにくいんだけど・・・」
「いやな?前々から思うておったが、綺麗な食べ方をするなと」
「そうかな?
まぁ、お城にいた時に色々と仕込まれたからかもね」
「ほう。他には何を?」
「そうだなぁ・・・。王侯貴族との接し方とか?
なんでかよくわからないけど、楽器とかもやらされたよ」
「楽器とな?ならば、あれは扱えるか?」
「どうだろう?長い事鍵盤に触れてないからわからないよ」
「ならば、簡単な物でも弾いてみてくれぬか?」
「・・・・・・下手でも笑わない?」
「当然じゃ!」
「なら、いいかな?」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「・・・やっぱり間が開くとダメだね。
思った様に指が動かないや」
「何を言う!そこらの楽士よりも良い音を出すではないか!」
「そう言ってくれるのは嬉し」
「もう一曲弾いてくれぬか?」
「やだよ。聴かせられる程の演奏はできないんだ。
そんなに聴きたいなら、それこそ楽士を呼べばいいじゃないか」
「ワシは、オヌシの演奏だから聴きたいんじゃ。
静かじゃが、胸に染みる良い曲じゃった。
実力がなければ、そんな風には弾けんじゃろ?」
「そんな事はないと思うんだけどなぁ・・・」
「謙遜するでない。少なくともワシはオヌシの演奏が好きじゃぞ?
それに、過度の謙遜は嫌味にしかならん。
もっと胸を張った方が却って心地よく感じるものじゃ。
はっ!?もしや、楽器ができないワシへの当てつけか?
最近はオヌシの毒も減ったと思っておったが、今度は搦手で来たか・・・!」
「そんなんじゃないって。まったく。
大丈夫?お酒飲みすぎたんじゃない?」
「だぁいじょぉぶじゃぁ!!
それより!オヌシが弾いてくれるまでワシは引かんぞ!」
「はぁ・・・。仕方ないなぁ。
そこまで言うなら弾くけど、なにか聴きたい曲はある?」
「おぉ!ならばあれはどうじゃ?
『変わらぬ心』!ワシ、あの曲が好きなんじゃよ!」
「あぁ、あの曲?ボクの手の大きさだと難しいんだけどなぁ・・・
まぁ、せっかくだし弾いてみるけど、とちったら御愛嬌って事で、ね?」
「うむ!楽しみじゃな!」
「あ、でも」
「なんじゃ!ワシ、完全に聴く態勢じゃったぞ?」
「あの曲って歌詞ついてたよね?」
「ん?んむ。そうじゃな。
・・・む?待て。イヤな予感がするぞ?」
「ボクに弾かせるんだから、わかるよね?」
「ま、待て!笑顔なのになにやら恐いぞ?
ちょっと落ち着かんか?な?
あ、ほら、折角のオヌシの演奏をワシが台無しにしてはいかんじゃろ?」
「大丈夫だよ。ここにはボクとキミしかいないんだ。
なにも気にする必要ないよね?
それに、いい声してるんだから歌ってよ」
「ぬ、ぐぐぐ・・・
いいじゃろう!じゃが、あまり期待はせぬようにな」
「はいはい。それじゃ、いくよ?」
ЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖЖ
「・・・」
「やっぱりか!?やっぱりそうなるのか!?
なんでか知らんが、ワシの歌を聴くとみな沈黙する。
じゃから、歌うのは嫌だったんじゃ・・・
ワシはそんなに音痴なのか・・・?」
「あ、あぁ、ごめん。
ボクには技術的な事はわからない。
だけど、気持ちが伝わるいい歌だったよ」
「ふん!そんな煽てには乗らんぞ!
現にオヌシは沈黙しとったじゃろ!」
「余韻に浸ってたんだよ。
キレイな声で、感動させる歌。
これって一つの武器じゃないかな?」
「なんじゃ突然。話を逸らそうとしておらんか?」
「それはいいから、ちょっと聞いて。
今後も他国と外交をするなら、晩餐会なんかもある。
そして、当然招かれる側だけじゃ済まない。
そうなると、主催は来賓を饗さなければならない」
「ん?んむ?む?
急に真面目な話になったが、まぁよい。
確かに、そういった催しでは饗さない訳にはいかんじゃろうな。
それで、関係性をどれだけ重要視しているか測る事もあるじゃろう」
「そうだね。
だから流行りの奇術師や、贅沢な料理を用意する。
そんな催しにキミの歌も使えるんじゃないかな?」
「そんなわけなかろう!ワシのじゃぞ?
ローレライやハーピーとかなら、まだわかる。
じゃが、ワシじゃぞ?
場を白けさせるだけで、むしろ関係が悪化する!」
「人族はあまり魔族と交流する機会がないんだ。
だから、魔族と交流できるというだけで、一つの強みになる。
けど、やっぱりそれだけじゃ弱いから、もうひと押しほしい。
なんて考えてたけど、キミの歌は一つの芸として出せると思う。
だから、騙されたと思って歌ってみなよ。
それにほら、過度の謙遜は嫌味しかならないんでしょ?」
「むぅ。そう言われると弱いんじゃが・・・
ええい、わかった!ワシだって王じゃ!
この程度で臆してなどおられん!
じゃが、何かあったら取りなしてくれるんじゃろ?」
「そこで弱気にならなければ、さまになったのに・・・
わかってるよ。言った事の責任くらいは果たすさ」
「絶対じゃぞ?
後になって、『そんな事言ったっけ?』とかなしじゃぞ?
そんな事態になったらワシ、泣くぞ?
恥も外聞もなく泣き喚くぞ?」
「ひどい脅し文句だね。それ。
そんな風に、捨てられそうな子犬みたいな目をしなくても大丈夫。
ボクがキミを見捨てるわけないじゃないか」
「うむ!ならば安心じゃ!
では、オヌシの働きと国の未来に乾杯じゃあ!」
「あ!そんなに急に飲むと・・・」
「・・・・・・」
「・・・やっぱり寝ちゃったか。
寝顔だと本当に幼く見えるね。キミは。
まぁ、普段あれだけ張り詰めてるから、仕方ないか。
せめてボクの前では、素のキミでいられたらと思うよ。
威厳なんかなくていい。武力なんかなくていい。
やさしいキミだから、みんなが支えようとしてるんだ。
だから、キミはいつまでも、変わらないでいてくれると嬉しいな。
って、あれ?ボクも少し飲みすぎたかな?
まぁ、いいか。おやすみ。かわいい魔王さま」
ここまでお読み頂き、まことにありがとうございます。
順調に国を立て直している二人ですが、今後どうなっていくのでしょうか?
前作にも書きましたが、シリーズ完結まで、そう長くない事を予定しております。
最後までお付き合い頂けましたら幸いです。