拭えぬもの
暫くして、出来上がった料理を雪登の前へと出す。
「………」
「味見はしましたが、お口に合わなかったら、すいません」
作ったのは大根、人参、芋を煮込み、干物の魚で出汁をとり、味噌と砂糖を少しだけ加えた煮物だ。
ご飯の方は思ったよりも上手く炊けていると思うが、彼の口に合うかどうかは分からない。
「いただきます」
雪登は手を合わせる。
それにつられて千春も手を合わせて、いただきますと呟いた。
早速、煮物へと手を出す雪登を千春は少し不安げに見つめていた。大根の一欠けらを箸で掴み、口へと運んでいく。
そこで、ぴたりと手が止まった。まさか、美味しくなかったのだろうか。
しかし、雪登は少し俯いたまま一言だけ発した。
「……旨い」
「え……? あ、ありがとうございます!」
それが褒め言葉だと、認識するのに時間がかかったが、千春はぱぁっと笑顔になる。黙々と食べ続ける雪登を嬉しそうに見ながら、千春も食事を始める。
その後も雪登は全てを残さず食べてくれた。
それが嬉しくて、千春は皿や椀を片付けながら、つい笑みを隠しつつ浮かべてしまう。
……良かった。ちゃんと、食べてもらえた。
片付けをしつつも、千春は雪登を見る。本当に、ただの少年だ。どこにでも居るような人間だ。
彼に犬のような耳があったとしても、千春にはそう思えた。
今のところ、自分を拒んではいないようだ。
だが、受け入れてもらえているのかは分からない。
その不安だけがまだ拭えなかった。




