覚悟
翌日、起こされて食事を終えたあとは、昨日と同じような様々な儀式に追われていた。
もう一度、滝に打たれて、ぬるま湯に入り、その後は神主による祝詞を聞いて、他にも潔斎の儀と思われる細々とした儀式を終えてその身が解放されたのは昼過ぎだった。
「ふぅ……」
重苦しい独特の雰囲気から解放された千春は隠しつつも溜息を吐く。
「お疲れ様でした。酉の刻まで儀式はありませんので、それまで休まれて下さい」
昨日と同じ巫女が気を利かせてくれたのか、水の入った碗を持って来てくれた。
それを受け取り、千春はゆっくりと口を付ける。ただの水だと思うが、どこか少し甘い感じがする。
「ありがとうございます。えーっと……」
「小鈴と申します」
ずっとお世話になりっぱなしだったのに、まともにお礼も言っていなかった気がする。
なんせ、緊張してそれどころではなかったのだ。
「小鈴さんはこちらでお仕えして、どのくらいですか?」
彼女の手際はとても要領が良く、丁寧だ。
きっと長い年月修行してきたのだろう。
「私は……十二年、ですね。神主様に六つの頃に拾っていただき、一人前の巫女となるべく修行を始めました」
とても落ち着いた雰囲気だったが、どうやら自分よりも二つも年上だったらしい。
「なので、この神婚の儀をお手伝いするのは初めてですね」
「あ、そうなんですね……」
自分に姉が居るなら、このような人が良かったと思う。
今となっては天涯孤独の身として、何かに縋りたいという気持ちかも知れないが。
「斎部屋で休まれますか?」
「そう、ですね……あ、神社の周りを軽く散歩しても良いですか?遠くへは行きませんから」
「分かりました」
気分転換がしたかった事はお見通しなのだろうか。
小鈴は小さく微笑んで履物を用意してきてくれた。
少し、外を歩くだけだ。少しだけ。
履物を履いた千春は衣の裾が地面に着かないように気を付けながらゆっくりと歩き出す。
「……風が気持ち良い……」
もうすぐ、この村に花が咲く時期が訪れる。葉を落とした木々には青々とした新芽が芽吹くに違いない。
爽やかな風が、体に染み込んでいく。
……食べて下さいとお願いしたら、食べてくれるかしら。
もう、良いのだ。
いらないのなら、狗神の糧となってしまおう。
そう、思った。




