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渡さない


 夕闇に変わった空の下で、動物達からの報告を雪登はじっと待っていた。

 それさえも、雪登にとっては苦痛だった。そこへ、猿の飛丸が駆けてくる。


「狗神様、神社辺りを一応探して参りやしたが、千春様の姿どころか匂いさえありませんでした」

「……そうか」

「今、黒羽達が村へと向かっているそうです。他の奴らじゃ体大きいから目立つって事で、ぽん吉ととの子も一緒に」

「―――やはり、私も行こう」

「ですが、今の時間帯だと、まだ人間が道を歩いているかもしませんぜ?」

「夜中まで、待っていろと言うのか! もう、これ以上は……」

 彼女を無防備にしてしまった後悔の念で押しつぶされそうになる。

 その時、上空から雪登を呼ぶ声が響く。

「狗神様―――っ!!!」

 黒羽は飛び込むようにその場へと勢いよく着地した。

「い、狗神様! み……っ、見つけましたぞ! 千春様を……」

 咳き込みながら、黒羽は必死に伝えようとする。

 黒羽の言葉に、雪登の瞳が獣のように鋭く光った。

「案内してくれ」

「こちらです……っ! 今はまだ人通りが多いですが、裏道を使えば人に見つかることはないでしょう」

 一度、地に足を着けた黒羽はまたもや飛び立つ。

 雪登もそれの後を続く。


 人間は怖い。

 また、あの時のような目で見られ、蔑まれるかもしれない。

 だが、一番怖いのは、千春を失う事だった。

 

 大治郎がどんな理由で彼女を連れ戻そうとしたのかは知らない。

 それでも、雪登のもとへ来てしまった以上、千春は自分のものだ。もう、誰にも渡したりしない。絶対に傷付けたりしない。


「―――千春っ……」


 何も出来なかった、怖がっていたばかりの頃の自分とは違う。

 今度こそ、この手で救ってみせる。

   


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