後悔
かの助の仲間を無事に助け、社まで運んでいた道の途中で、雪登は鼻を知らない匂いが霞めたことに気付いていた。
「どうかしやしたか、狗神様」
雪登に抱えられた仲間を心配そうに見つつ、隣に並んで歩くかの助は不思議そうに尋ねる。
「……知らない匂いが混じっている」
「え?」
かの助もその辺りの匂いを調べるように鼻を嗅いでみる。雪登に比べれば、劣るが鼻は良い方だ。
すぐに、山のものの匂いの他に別の匂いが混じっている事に気付く。
「……嫌な予感がする。」
ぼそり、と呟き雪登は社の前で、かの助の仲間を傷が広がらないようにそっと、地面の上に置く。
「待っていろ。今、薬草を取ってくる」
そう言って、社の中へと入っていく。
「千春―――……千春?」
そこで、気付いた。
さっきまであったはずの千春の姿が見当たらない。薬草を採りに行っているのかと思ったが、そうではないとすぐに気付いた。
床に散らばっているのは、袋から零れた沢山の大豆。
落ちたなら、拾うだろう。
彼女は食べ物を粗末にはしない性格だ。いくつか、潰されている大豆の欠片を雪登は呆然とし、言葉を無くす。
「―――狗神様、どうなされやした?」
中々動かない雪登にかの助は近づいてくる。
「千春が、いない」
「な………」
雪登はゆっくりと外へと出る。
そして、口に指を当てて甲高い音を出した。
その口笛の音に反応して、すぐに、黒羽が目の前へと飛んでくる。
「俺に何かご用で、狗神様……って、うおっ!?こいつ、かの太郎か?どうしたんだ、この傷……」
「人間が仕掛けた罠に引っ掛かっちまってよぉ……」
「なにっ?」
「黒羽」
突然呼ばれる名前に、黒羽ははっとして返事する。
「頼みがある。今、動けるものをここへ集めてくれ」
「それは、構いませんが一体何事で……」
黒羽に用が合って呼び出される事はたまにあるが、こういう事態はかなり珍しい。
「千春が―――連れ去られた。どうか、探すのを手伝って欲しい。……頼む」
「そ……そいつは、一大事だっ!」
大きく羽を広げて黒羽はすぐに飛び立つ。
その姿はあっと言う間に見えなくなってしまった。
「……かの助、かの太郎は私が手当てするから、お前も他の仲間を呼んできてくれないか」
「それは構いませんが……ですが、連れ去られたって、一体誰が……」
「検討は付いている」
雪登は表情を歪ませ、唇を強く噛んだ。
自分なら守れるとそう自負していた己を殴ってやりたいくらいだ。
だが、後悔は後回しだ。
今は、探すことだけに専念しなければならない。
……千春、すまない
見上げた空はすでに、夕暮れと化していた。




