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必要の意味


 神社の人達は自分に良くしてくれた。身の周りの世話をされるのは初めてなので、少々戸惑ったが、神社に仕える宮司も巫女も丁寧に対応してくれた。

 ただ、潔斎のためだとは言え、冬の終わったこの時期に滝で水を浴びなければならないのは心臓が止まるかと思ったが。

 勿論、その後も温かい風呂を沸かしておいてくれていた事には本当に助かった。

 ここで出される食事も、殆どは野菜が中心だったが、普段から満足に食べさせてもらっていない千春にとってはご馳走だった。

 着替えの衣も新しい物で、肌触りが良い木綿の白い布であった。

 何から何まで本当に夢のような待遇だ。


 ……きっとこんな風に誰かに大切にされるのは、最初で最後ね。


 夢だから、すぐに覚めると分かっている。

 だから、心残りなどなかった。

 その後は、離れの斎部屋へと案内された。部屋の中は自分の知らない優しい香りで溢れていた。

「これは……」

「伽羅の香を焚いております。香は魔を祓うと言われておりますので……」

 傍に控えていた自分より少し年上の巫女が穏やかに答える。

「明日は卯の刻に起こしに参りますので、それまでどうぞごゆっくりとお休み下さい。また、何かご用があれば枕元の鈴を鳴らして下されば伺いますので」

 では、失礼しますと告げて、若い巫女は部屋から離れていく。一人になってしまう、薄暗い部屋に深い溜息が静かに響く。

 少しずつ近づく時間を気にしても仕方がない。千春は自分のために用意された寝床へと潜り込んだ。

「……柔らかい」

 何て寝心地が良いのだろう。これまでずっと、煎餅布団で過ごすと思っていた自分には初めての感触だ。

 真っ暗ではない。扉の隙間から漏れる月明かりに少しだけ心がほっとした。暗いのは元々苦手だ。早く朝が来れば良いと思いつつ、毎日強く目を瞑り、疲れによって気を失うように眠っていた。

「っ……」

 千春は自分の口から声が漏れないように両手で押さえる。


 ……自分はいらない子。


 捨てられたのだ。捨てられて、誰かの、いやこの村の犠牲となるのだ。

 他人の欲と幸せのために。

 今まで「千春」として必要とされた事はなかった。だから、「生贄」に選ばれた事は必要とされたのだと、そう思いたかった。


 泣いてはいけない。

 泣いたら、叩かれて、蹴られて、外へとごみを捨てるように放り出される。


 ここではそんな事なんてあるはずないのに、この細い体には染み付いてしまっているのだ。

 大丈夫、大丈夫だと震えそうになる体を抱きしめ、布団の中で丸くなる。



 それから、千春がやっと眠りについたのは、日付が変わった頃だった。


   

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