見るべからず
だが、その全ての静けさは一つの音で掻き消されてしまう。
どおん、と地響きのような音が社全体に響き渡る。
「きゃっ……」
どうやら、雷が近くに落ちたらしい。
まだ、雨は激しさを増しているのだろうか。
突然の雷に驚いた千春はつい、雪登の着物の襟を掴んでしまう。それによって、雪登の体勢がさらに崩れ、とうとう千春に覆い被さる様になってしまった。
「……すまない、大丈夫か」
「ご、ごめんなさいっ……つい……」
「雷は苦手か?」
「そういうわけではないですが……驚いてしまって」
千春は急いで彼の襟から手を離した。
「そうか。……とりあえず、この体勢をどうにかしないとな」
「はい……」
雪登は書物の中から身体を何とか出して、千春の腕をとって、起き上がらせる。
「ふぅ……。うわっ、先ほどよりも書物が散らかってしまいましたね……」
「本当に足場が無くなってしまったな」
今、二人は書物の中に埋もれている状態だ。お互いに顔を見合わせて、どうしようもない表情をする。
「すいません、わたしの不注意で……」
「いや、そもそも、私の書物の置き方が悪かったんだ」
とりあえず、囲炉裏の部屋までの通路を作らなければならないため、二人で再び、作業を再開する。
「ん……?」
千春は散らばった書物の中からはみ出るように、数枚の色付きの絵が挟まっているものを見つけ、何だろうと拾い上げてみる。
それを、少ない明かり照らして見る。
「ひゃっ……」
思わず、声を上げてしまった千春の方を雪登が覗き込むように見る。
「どうしたんだ……って、それは……っ」
千春の手にある数枚の浮世絵を見て、さらに驚きの声を上げる。
その絵は一般的に言う春画だった。いくつもの紙に艶やかな女性が描かれている。
初めて見るそれに、千春は顔を真っ赤にする。そして、固まったまま、雪登の方へ振り向く。
「ゆ、雪登さん……」
泣きそうな声で千春は彼を見る。
まさか、彼もこの絵に描かれている艶やかな美人が好みなのだろうか。
「違うっ! それは、伊鷹が……! 借りていた書物に挟み込まれていて……」
必死に弁明しながら、雪登は手を横に振る。
「でも、私は見ていない!見ていないから!」
「え、伊鷹さん、が……?」
「そうだ。私がこういうものに興味ないと知っておきながら、悪戯のつもりで、書物に差し込んでいたのだろう」
「そ……う、なんですか」
「だから、決して私の物ではない」
そう言って雪登は千春から浮世絵を受け取り、無造作に懐へ突っ込む。
「良かった……。わたし、あの絵みたいに美人じゃないですし……それに雪登さんがこんな女性が好みだったらどうしようって……」
「それはない」
雪登は断言する。
そう言ってもらえると、本当に嬉しい。
「これは今度、伊鷹が来た時に、まとめて返す」
「……ありがとうございます」
ほっと胸を撫で下ろす隣で、雪登も溜息を吐いている。
「……今日の整理はここまでにしておこう」
「え? でも、まだ終わってないですよ……」
「いいんだ。もう、寝よう」
急ぎ立てるように、雪登は千春の背中を押して無理やり部屋の外へと出す。
「……布団の準備をしておいてくれ。私はもう少し、ここの部屋を整理してから休むから」
「え? あ、はい……」
やはり、少し焦っているように見える。
まだ、伊鷹から借りた書物に同じ様な物が紛れ込んでいるのだろう。
千春は仕方なく、その場を離れる。余程、千春に見られたくないらしい。
その後、彼は一人で自分の納得のいくまで片付けていたが、結局、床へ着けたのは深夜に近かった。




