知ること
その後は、動物達の居た泉を後にして、二人は薬草が生えている場所へと向かった。その途中で、先程あの場に居た動物たちの名前も教えてもらった。
猿が飛丸、鹿がかの助、子兎はとの子と言うらしい。
その中で最も年長なのが、かの助らしいが、山奥の川にはもう百年以上は生きている亀が住んでいるらしい。
他にも鳥や山猫など様々な動物が住んでおり、この山で生まれたものは皆、名前が付いているのだと話してくれた。
それを聞いて、千春は少しだけ、ほっとしていた。
……ずっと独りだったわけではないのね。
あの社で、どれ程の時間を独りきりで過ごしていたのだろうと、千春は考えていた。時折、神主が尋ねてくるとは言え、寂しくはないのだろうかと。
だが、動物達の事を穏やかに話す雪登を見て、彼が孤独ではなかったのだと感じ取れた。
きっと、彼らの事を大事に思っているのだろう。
「……おい、どうした?」
突然、雪登が振り返って立ち止まる。
「あ、い、いえ……その……あ、木が! 木がとても大きいなぁって……」
咄嗟にこれしか思い付かなかった。
確かに今、自分達が居る場所には、大きな沢山の木が聳え立っている。
それでも、雪登は不審には感じていないのか、小さく頷く。
「小まめに他の木に当たらないように枝を落とし、一本一本を丁寧に剪定していけば、丈夫に、立派に育つ。ここらの木々は木材としては使ってはいけないから、村周辺の木よりも太くて大きいだろうな」
「この木々も雪登さんが手入れしているんですか?」
「……まぁな」
「凄いです。これだけ沢山の木があるのに……」
感心するように千春は、周りを見渡す。
雪登は一瞬、どう答えていいのか分からないと言ったような表情をして、千春の方から顔を背けるように先へと進んでいく。
「……こっちに薬草が生えている場所がある。行くぞ」
「あ、はいっ」
再び歩み始める雪登に、千春ははっとしたように付いて行く。通り過ぎていく木々達はどれも素晴らしいと思う程、立派なものばかりだった。
きっと、ここまで育てるには大変だったに違いないのに、雪登はそんな素振りさえも見せない。
あまり、喋らないのは承知済みだが、きっと性格上、自慢したりするのが苦手なのだろう。
少しずつだが、彼の事が分かっていくのが、新鮮で、そして嬉しかった。
先ほどの仕草ももしかすると照れていたのかもしれないと思い、千春は着物の袖口で口元を隠しながら、微笑を浮かべていた。




