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憎しみの矛先


 1歳くらいの赤ちゃんにご飯を食べさせつつ、タブレットを操作していたアンジェロが、アレックスがこちらに向かっていて、恐らく1時間もしない内に到着するだろうと言った。


「孤児院には結界を張ります。申し訳ありませんが、闘うのは孤児院の外でお願いします」


 子どもを危険にさらすわけにはいかないので、その選択は当然の事だとサイラスは納得したが、ヴィンセントが首をかしげた。


「結界? ジョヴァンニの結界は人間にも通用するのか?」


 ヴィンセントの言葉を聞いて、一人の男が立ち上がった。スーツを着て、白髪だらけになった髪の毛を綺麗に整えて、あごひげを蓄えた老人だった。その老人が柔和に笑ってヴィンセントに言った。


「私もこの数十年、精進してまいりました。私の結界は、何人たりとも通したりは致しません」


 今年で65歳を迎えるジョヴァンニが言って、ヴィンセントは少し驚いたものの、呆れながらも笑った。


「初めて出会ったときは、お前も尻の青い小僧だったというのに」

「私は人間ですから。ですが、人間の時間は有限である代わりに、私達に努力の大切さを教えてくれる。私の結界は、人間であろうが化け物であろうが、核爆弾であろうが、相手が何であれ守り切ります」


 ロマンサーとしての絶対防御を磨き上げ、鉄壁の防御を誇るだけでなく、ジョヴァンニが近くにいるだけで、相手の能力を封じられるまでになった。更に強化人間型の特性を生かし、60歳を超える年齢となっても、服の上からでもわかる、鍛え上げられた肉体をしている。

 子どもたちは普段優しいジョヴァンニ先生しか知らないが、いざという時は最強のおじいちゃんなのである。ジョヴァンニより強い高齢者は、恐らくアメリカでは1人しかいない。

 ヴィンセントはジョヴァンニの柔和な笑顔とたたずまい、それでいて隙のない立ち居振る舞いを見て、愉快そうに笑った。


「そうか。ならば遠慮なく孤児院の外で破壊活動をさせてもらおう。後始末は任せたぞ」


 ヴィンセントがアンジェロにそう言うので、アンジェロは苦笑しながら「お安いご用です」と返した。

 だが、ヴィンセント達の会話を聞いて、ボニーが憎々しげに言った。


「いいよね、アンジェロ達は。血のつながらないガキの面倒見て、父親ヅラして、自分トコのガキだけ守れたら、それでいいんだから」


 ボニーがそう言った瞬間、一気に部屋の空気が凍りついた。ミナとアンジェロは言い返したい言葉は山ほどあったが、それでも飲み込んで沈黙していた。だが、ボニーは止まらないようで続けた。


「自分達は子どもに囲まれて暮らしておいて、あたしには堕ろせって言ったね」

「ボニー様、やめろよ」


 見かねてサイラスが間に入ったが、ボニーはサイラスを押しのけて、更に興奮した様子で続けた。

 

「今こんなことになって、言う事聞かなかった罰だって、ざまぁみろって、あたしの事笑ってるんでしょ!? 自分達は子どもに囲まれて幸せですって、子どもに命狙われてるあたしを、笑ってるんでしょ!?」


 パン! と乾いた音が響いた。ボニーが頬を押さえて、サイラスが驚いたように視線を向けた。視線の先には、涙目になったミナがいた。ミナは何か言おうとしたが、すぐにアンジェロがミナを捕まえて、奥の部屋へ連れて行ってしまった。

 二人がいなくなったのを見送って、サイラスがボニーに視線を移すと、殴られた頬を押さえて、悔し涙を浮かべていた。


「ボニー様が悪いよ」

「……わかってるよ。でも、なんであたしだけが、こんな思いしなきゃいけないの」

「ボニー様が不幸なのは、あの二人のせいじゃない。あの二人の言う事を聞かなかった、ボニー様のせいだよ」


 サイラスの辛辣な物言いに、ボニーは拳を震わせた。


「アンタに何がわかんのよ!」


 怒りに声を震わせながら、そう言って孤児院から飛び出していったボニーを見つめて、サイラスは独りごちた。

 

「わかるかよ……ボニー様のせいで、パパは死んだんだから」


 サイラスの呟きが聞こえていたのはヴィンセントだけで、ボニーの誰を呪えばいいのかもわからない苦しみも、サイラスのアレックスとボニーへの憎しみも、ミナとアンジェロの行き場のない怒りも、ヴィンセントにはどうすることもできなくて。

 サイラスはアレックス殺害を望んでいる。ボニーは親子関係の修復を望んでいる。どうするべきか判断しかねる。

 ならば、自分はどうしたい?


 そう考えて出た結論を胸の中にしみ込ませて、ジョヴァンニに言った。


「結界を、張れ」

■登場人物紹介


ジョヴァンニ・ヴィトゲンシュタイン

65歳 孤児院「魔法使いの家」副院長、「私立ワシントンプレパラトリーアカデミー」理事。

かつてはアンジェロと同じ軍に所属する軍人だった。当時のコードネームはレッドクリフ。

ジョヴァンニも超能力者で、強化人間ベースの戦闘特化型個体。

ロマンサーという、特定の単語を現象として実現する、言霊の能力を持っている。

ジョヴァンニのロマンサーは防御に特化したものであるが、結界やバリアなどの絶対防御に加え、周囲の者達の特殊能力を封印する事が可能なため、「ある意味最強」と呼ばれている。

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