最終話
それから約18年後、世界は様変わりしていた。世界中でテロリストの活動が活発化し、意外にもアメリカが真っ先にテロに屈した。そしてリーダー的立場にあったテロ組織の筆頭がアメリカを乗っ取り、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸を制圧。
その後勢力は他の地域にも進出し、国連の連合軍と衝突。実質的な第3次世界大戦が勃発した。10年にわたる戦争後、国連軍は敗退。世界の3分の1近い国が国連を脱退し、その国の支配下に加わった。
そのテロ組織は「シュティレード」を名乗り、その名を国名とし、帝国を名乗った。第3次世界大戦を引き起こし、南北アメリカ大陸、東南アジア諸国、アフリカの一部を植民地化し、シュティレード帝国が築かれたのである。
シュティレード帝国の軍事力は強大だった。その兵士たちの一心不乱に戦う様は、相手取る軍人に恐怖を植え付けた。なによりも恐ろしかったのは、その帝国の保有する兵器が、他国では開発しえないような、ほとんど空想科学と言ってもいい次元の物だったからだ。
シュティレード帝国本土に核を投下する作戦が実行されたことがあったが、帝国においては核すらも無効化された。それほどの軍事力を持つ国に対し、徹底抗戦するよりも、軍門に下った方が被害は抑えられると考えるのは当然で、開発途上国から順に併呑されていった。
かつてテロリストと呼ばれた者達は、自分達の国を手に入れた事で、現在は政治家としての地位を手に入れている。だが、テロリストがみんな同じ思想を持っているわけでもなく、宗教や金銭など求める物は違っていて、衝突は耐えない。それでも、この帝国の皇帝に対しては、元は荒くれ者であった彼らでさえ、心から平伏した。
だが、その政治家たちの一体何人が知っているのだろうか。この帝国の皇帝は、国を手に入れることなど目的としていないという事を。本当は欲しいものなど、何一つないのだと。それを知らなかったから、政治家たちもその結果に巻き込まれることとなる。
10年にわたる戦争ののち、各地で抵抗は続けられていたが、大きな戦争は起きていなかった。帝国は相変わらず進撃を続けてはいるが、本土の方は安定している。
シュティレード帝国本土、かつてのアメリカはワシントン。ここが帝国の首都だ。最も人口が多いが、首都機能が集中している、帝国の権威を示すにふさわしい場所。だから、ここは使わない。その代りに選ばれたのは、それなりの人口を擁し、広大な国土を誇る第2の領地、南アメリカ大陸だ。
その日、南アメリカ大陸の統率を任されていた総督は目撃した。この日は皇帝が視察で来ると聞いていたので、連日お祭り騒ぎだった。大陸のほぼ中心地にある、第19領地にある総督府で、歓待のパーティを開く予定だ。
パーティの当日まで皇帝は南アメリカ各国を周遊し、そして最後に第19領地に到着する。その為の準備をしっかり整えて、到着した皇帝を迎えた。
総督が皇帝に会うのは初めてではなかったが、やはり感動を覚える。艶やかな栗色の髪、エキゾチックな美貌、脳髄に響き渡るような声。そして総督は、神秘的な緑眼から放たれる、冷たく凍てついた、感情の見えない視線に、ごくりと生唾を飲み込む。
皇帝の視線と全身から溢れる、その冷淡さ、冷酷さ。テロリストたちが平伏しているのは、皇帝の統率力とカリスマ、そして冷酷なまでの支配。
(あぁ、これだ、この目だ)
自ら膝をつきたくなるほど、圧倒的な冷たさと威圧。暴力で他者を支配できても、自分にはこれは真似できない。今支配者階級にいる者達は、それを自覚している。
常に軍服を纏っている皇帝の傍には、エクセラ皇妃がいる。総督は彼らがただのテロリストであった時分から、皇帝と皇妃を知っている。あの頃の皇帝は、頭がよく冷酷で、そして非常に強力な力を持っていた。それは今も変わらない。あの頃の皇妃はお転婆、と言えば可愛いが、人間とは思えない戦闘力を備える、一騎当千の戦神。少なくともアメリカ侵略戦において、テロリストを率い、最前線で戦ったのがこの二人だという事を総督は知っている。
「ようこそ、お越しくださいました」
「あぁ、ナイゼル。調子はどうだ」
「現住国民の抵抗が続いていますが、陛下の作戦通りに進んでおります」
「そうか、それなら構わない」
簡単に仕事の話をして、着替えてもらった後にパーティが始まる。この国の支配者階級の者達が集まっており、そこに皇帝が姿を現すと、一斉に万歳三唱が始まる。
壮観だった。口々に愛する皇帝を褒め称える声が響いている。自分の敬愛する皇帝の素晴らしさを、みんなが知っている。総督はその感動に打ち震えていた。
だが、終わりは突然やってきた。
乾杯の儀に入り、全員がグラスを掲げる。そしてグラスを持った皇帝に、全員で注視する。
「諸君、日頃から第19領地の運営、ご苦労。大変な思いをしていると思うが、そんな思いをするのも、今日で仕舞だ」
皇帝の言葉に、総督は首をかしげた。一体何を言っているのかわからない。だが、皇帝は掲げたグラスを手放し、グラスはその場でシャンパンと共にはじけ飛ぶ。
その瞬間、皇帝の周囲に巨大な黒い魔方陣が浮かび上がった。前列にいた客が、悲鳴を上げてその魔方陣から遠ざかったが、無駄だった。
魔方陣が出現したのは、総督府だけではなかった。総督府を中心とした第2大陸全土で、ほぼ真円上に配置された魔方陣がいくつも観測された。
同時に起動した魔方陣は黒い光ですぐさま連結し、各魔方陣が複雑に連結した後、更に新たな魔方陣を構成し、その範囲全て、つまり第2大陸の中心から真円状にある、大陸のほとんどの地域が魔方陣の中にあった。
中心地である総督府の魔方陣が強く輝き、魔方陣が起動する。その瞬間第2大陸の魔方陣全体が発動し、黒い光の柱が上がった。
バタバタと総督の周囲の人が倒れていく。総督も例外ではなかった。遠のく意識の中で、魔方陣の中で冷淡な瞳で自分を見つめる皇帝と視線が合った。その瞬間、全てを悟った。彼がいつだって、冷たい目をしている理由を。
(あぁ、あの方は、何も求めていない。全てを、消し去りたいのだ……)
遠のく意識の中で総督は悟って、そして第2大陸の魔方陣の中にいた人間は、全てが死に絶えた。
だが、悲劇はこれで終わらなかった。第2大陸の人間たちを使って、彼は扉を開いた。その扉の向こう側には、地球とは違う空間が広がっている。その空間の扉を開けることこそが、彼の目的だった。
そして扉が開いた時に、更に新たな魔方陣が発現した。その魔方陣は、扉から現れ出た物を全て吸収していった。吸収された物は、そのすべてが余すことなく皇帝の身に降り注ぐ。
満足したのか皇帝は一定以上吸収しようとはしなかったが、扉を開くために犠牲にした人間が多すぎたためか、扉は開きっぱなしになった。
大陸を覆い尽くす巨大魔方陣の出現に伴う、国民の大量死、空の上に突然出現した巨大な扉、このニュースは一気に世界中を駆け巡った。
それから数日が経った頃、世界中で不思議な事件が発生するようになった。突然超能力に目覚めた人間たちが暴走し、その力を使って犯罪行為を繰り返すようになった。恐らく扉のせいだと人間たちはアタリを付けたが、扉に近い地域にいても、超能力を得る者もいれば、相変わらず変わらない生活を続ける者もいた。
おそらく適性もあるのだろうが、元々は普通の人間が大多数を占める世界だ。超能力を持つ者を排除しようという動きが世界中で活発化し始める。そして迫害され始めた超能力者は、二つの逃げ道を見つける。
一つは、世界の3分の1を支配するシュティレード帝国。
もう一つは、紹介制でしか入会する事の出来ない秘密結社、トワイライト。そのトワイライトのメンバーが治める連合国。
今、時代の趨勢はこの2大勢力が握っていた。
その勢力の一つ、シュティレード帝国皇帝サイラス・シュティレード。彼は超能力者を軍事力として用い、元々の軍事力の高さと相まって、対戦国は被虐の限りを尽くされ、その土地は絶対的な支配者階級以外、敢えて差別階級を作られ現住国民は冷遇される。冷酷なまでの侵略に、地獄のような絶望を与えた。
その為、彼はこう呼ばれる。絶望王サイラス。
もう一つの勢力の一つ、秘密結社トワイライトの連合国の雄、ヴィンセント・ドラクレスティ。彼の指揮する軍は、シュティレード帝国侵攻の最前線に置かれているが、敗戦数自体が少なく、負けたとしても必ず立ち上がり、再び立ち向かう。
その為、彼はこう呼ばれる。不死王ヴィンセント。
この2者は、戦場で激しい激突を繰り広げることとなる。
見てください。
これが「途中でコイツの話飽きちゃった」という事!
次いこう次




