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逃亡

 空港の廊下をサイラスとアレックスが歩いている。2人は名を変え姿を変えて、準備の為に余所に移ろうとしていた。歩いているとアレックスが立ち止まり、ざわりと毛を逆立てている。

「どうしたんだ?」

「来た。ヴィンセントと、メリッサ」

「見つかっちゃったか」

 姿まで変えているのに、一体どうして見つかったのか。アンジェロの千里眼なら見つからないはずだったのに、レオナルドだろうか。考えていると以前アンジェロから聞いた話を思い出した。アンジェロの能力は他人からコピーしたもので成長しないが、本家本元の能力は鍛え上げられているので性能が違う。そう言っていたのを思い出す。とすると、レオナルドには他人が見えるようには見えていない可能性がある。もしかすると、可視光線以外の光線でも見えるのかもしれない。そうなれば他者を表面だけでなく生体情報まで認識できるという事になる。それは非常に厄介だ。そこまで考えて、一つ対策し忘れていたことを思い出した。

「エクセラ、手を貸せ」

「うん?」

 不思議そうにしながらもアレックスは素直に手を差し出す。アレックスの指先を針でチクリと刺して、血を一滴取る。その血に魔法をかけて、アレックスの掌に血をこすり付けた。そして自分でも同じようにした。アレックスはやはり不思議そうに首をかしげている。

「なにしたんだ?」

「俺達の魔力が垂れ流しだったのを忘れていた。魔力を収束して体内に封じ込めた。これで魔力を検知できる人間でも、俺達の事は気付かない」

「あぁ、なるほど。本当にサイラスは逃げには余念がないね」

「イヤミか?」

「褒めてるんだよ」

 悪戯っぽく笑ったアレックスはその場でくるりと回ってみせる。アレックスの回転に遅れた薄いグリーンのワンピースの裾が追い付く。アレックスの緑色の髪はよくある栗色に、紫色の瞳はよくあるヘイゼルの瞳に、その姿はどこからどう見ても白人の少女になっている。「エクセラ」の姿をしている内は、きっと誰もアレックスだとは思わない。サイラスも顔が目立つので、普遍的な青年の顔に変えている。

 恋人同士を装って歩く2人の目に、アンジェロとヴィンセント、メリッサが映る。途端にアレックスは殺気立つが、肩を掴んで宥めた。

「まだだ、まだ戦えない。まだ準備が整っていない」

「わかってる……っ」

 何とかアレックスは殺意を押し込んで、こらえて飲み込む。咄嗟にサイラスは体調の悪くなった恋人を気遣う様に装って、廊下の端を進む。

「ねぇ、あいつらにバレたらどうするの?」

「その時は仕方がない。殺す」

 容赦ない宣言にアレックスが苦笑いしながら、ここぞとばかりにサイラスの腕に抱き着く。

「その時は私も頑張るからね」

「あぁ」

 女の子らしく振舞おうとするアレックスと、感情が消失して無機質なサイラス。どこか異質な二人は、周囲をキョロキョロと見渡して、アレックスとサイラスの名を呼ぶ3人の傍をそよ風のように通り過ぎ、彼らは搭乗口へと消えた。

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