シャンティ・アヴァリという女 1
サイラスがマーリンから魔術講座を受けている頃、インドに残っていたシャンティとメリッサは、夕食後の時間に二人でティータイムを楽しんでいた。生まれてくる子どもの事、サイラスのこれからの事、一族の未来のこと。話すことは尽きなくて、そしていずれも輝かしい未来が待っている前提でしか想像が膨らまない。本当に幸せな日常を謳歌出来ている証拠だ。
そんな風に話しているときにインターホンが鳴った。メイドはもう帰してしまったので、シャンティがインターホンを取った。相手は聞き慣れない会社の社長だと言う。こんな時間になって無礼を承知だが、至急話をさせて欲しいのだと言った。日を改めてくれと何度言っても相手が折れないので、渋々シャンティは開門ボタンを押した。
玄関をノックしドアの前に立っていたのは、安いスーツに身を包んだ2人の男だった。どちらも50代前半位だろうか。なんだか胡散臭さを感じずにはいられないが、その二人の目は血走っていて、彼らなりに緊迫した状況なのだろうと言う事は察しがついた。
中に通してメリッサと二人で話を聞く。要約すると、やはり金の無心に来たと言う事だった。一通り話を聞いて、シャンティはソファの背にもたれて、座る為に開けていたスーツのボタンを閉じた。これはもう、話は終わりというサインだ。
「見ず知らずの相手に、どうしてあたしが援助しなきゃいけない? おたくの倒産寸前の会社を吸収したって、ウチにうまみはない。せめてもっとプレゼン上手になってからくることを勧めるよ」
さっさと帰れと今にも言いだしそうなシャンティの態度に、二人の男は怒りを露わにし、そして震えた手でスーツのジャケットに手を入れると、シャンティに銃を突きつけた。わなわなとふるえる両手で、一人がシャンティに、一人がメリッサに銃を突き付ける。男達が唾を飛ばしながら叫んだ。
「うっ、うるさい! 不可触の民のくせにっ! 成り上がったくらいで調子に乗るなっ!」
どうやら男達はシャンティのスラム時代を知っているようだ。知っていると言う事は、この男達も元々は同じ穴の貉だったと言う事だろう。
「あんたらも貧民街育ちだろ。人の事言えるのか?」
「お前、お前だけっ、なんでお前だけがっ!」
本当の所は嫉妬だろう。同じ貧民街で野良犬の様に生活して来たのに、シャンティだけがドブ川から這い出て、成功している。その成功が妬ましいのだ。そういう気持ちでいるから、いつまで経っても変われないのだということも気付けない。そういう卑しい感情。
「金を出せっ、出さないと殺すぞっ」
元強盗のシャンティに対して強盗を働くとは、中々な者である。思わずシャンティは笑ってしまった。
「アンタらばっかだねぇ。この状況ならさっさと撃ち殺してウチから金品さらってった方が早いだろ」
「うっ、うるさい!」
シャンティの嘲笑に激昂した男が、引き金を絞る指に力を入れた。その瞬間にはシャンティはスーツの中からワルサーPPKを取り出して発砲していた。肩を撃たれて床で悶えて絶叫する男に、シャンティは人の悪い笑みを浮かべる。
「銃ってのは、こーやって使うんだよ。こりゃ脅しの道具じゃない。人を殺傷する道具だ」




