表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/80

父への弔い


 サイラスもメリッサ同様に、吸血鬼の掟についての話を聞いた。そしてボニーが戻ってきて、彼女の言い分も聞いた。

 だけどサイラスの胸の内にあるのは、アレックスが父の仇だという、その一点だけだった。

 吸血鬼の掟だとか、ボニーの願いだとか、そんな事はどうだってよかった。幼馴染として一緒に育ってきた、アレックスとの友情だってどうだってよかった。重要なのはこの一点。


 アレックスはレヴィ殺害の犯人である。


 吸血鬼の掟だとか、事情だとか、そんな事は関係ない。アレックスがレヴィを殺害した、その事実は変えようがない。その事実だけが、サイラスにとっては重要だった。

 サイラスは天才だった。2歳の頃から、自分は他の人間と違うと知っている。空はどうして青いの? 人間はどうして嘘を吐くの? 生物はどうして存在しているの? 大人にも答えられないような疑問をぶつけて、シャンティを困らせた事なんか、山ほどある。

 シャンティに引き取られて、小学校の授業がつまらなくて悪態をついた。教員に向かって、こんな計算は3歳になる前に覚えたと言い放った。小学校の教員に対して、ポスト構造主義や量子論の発展、反物質の実現性等について論争を吹っ掛けて、教員の鼻っ柱を折って目の敵にされた。


 プライドを傷つけられた教員が子どもたちをそそのかして、サイラスを仲間外れにして、学校ぐるみで彼をいじめた。だけど、サイラスはそんな事は気にも留めなかった。自分が人と違う事はとっくにわかっていたし、そんなつまらない手段を取る人間に迎合するほど、優しくもない。

 だけど、理解していたのは頭の中だけで、彼の心は傷ついた。その時に言われた。


「人の気持ちが分からないのなら、勉強しなさい。勉強すれば、お前の力になる」


 そう言ってくれたのは、養父であるレヴィだった。レヴィの言った通りに精神医学や社会心理学を学んで、社会環境にある程度は順応できるようになった。

 今の自分があるのは、現実的な提案をしてくれたレヴィのお陰だ。今の自分があるのは、精神的な支えになってくれたシャンティのお陰だ。


 サイラスは「ギフテッド」だ。神からの贈り物と称される、脳神経の特質を持って生まれた天才だ。その代償は大きく、社会環境になじめない。彼にとって社会は狭すぎる。孤独になりたいと思っているわけじゃない。だけど、どうしたら馴染めるのかが彼にはわからない。

 それでも、馴染むための技術を、レヴィは獲得させてくれた。そのレヴィを、偉大なる父を、愛する父を、アレックスはサイラスから奪った。


 友達だと思っていた。幼馴染だった。そのアレックスの裏切りを、サイラスは許せない。


 ボニーが何を考えようが、どう思おうが関係ない。サイラスの頭の中には、ボニーに迎合しつつ、どうアレックスを抹殺するか、その策略を考えるだけだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ