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魔術師による魔術講座 4


  マーリンによる魔術講座「魔術とは何か」。


「魔術を身に着ける為の基礎、基本中の基本は、四代元素だ」


 そう言ってマーリンは一冊の本を開いて、そのページを見せる。それは魔術の基本書のようで、古いサクソン語で記された書物だ。そこにはこう記してある。

 魔術の基本は四代元素。その4つの元素とは、地水火風が司っていると。それにサイラスは首をかしげた。


「元素って、酸素とか水素とかじゃないの?」

「魔術においては違う。先程も言った通り、魔力は空気中の水分にも宿る。そして、火、土、風、水に宿るのだ」

「魔力って言うのは物質に宿る物じゃなく、現象に宿る物って解釈でいい?」

「それに近いが、全くこれだから現代っ子は、物理学に偏り気味なのは痛いがな。自然に太古の昔から存在し、全ての生命の基礎となって来たもの、すなわち地水火風に宿ると言う事だ」

「ふぅーん……」


 サイラスにとっては、わかるような分からないような。いっそのこと元素記号でも使ってくれるとわかりやすいのだが、魔術というのはそう言う次元の話ではないようだ。

 まぁとにかく、魔法というのはその地水火風を基礎とした四代元素を応用したものが主体だ。そして、それとは別に太古の起源と呼ばれる基礎が存在する。


「太古の起源?」

「そう、光と闇だ」

「光と闇が起源?」

「生物の誕生は光、生物の死滅は闇。闇は光がなければ生まれない。闇の手前には必ず生命があり、それを光が照らして存在する」

「生と死は繋がっているんだね?」

「その通りだ」


 インドの宗教には元々輪廻転生という考え方があるので、その点の解釈もサイラスには難しくはなかった。

 だが具体的に、光と闇の生命の結びつきがよくわからなかったので説明を求めた。


「アインシュタインが言ったように、光というのは絶対的な存在だ」

「うん」

「だが、光の裏には必ず闇が存在する。物質、人という魔法を行使する媒体が存在する以上は、必ずだ」

「うん、わかるよ」

「光は全ての源だ。植物に栄養を齎し、生物に活気を与える。その陰には必ず闇が存在する。この世の全ての生死を見守る存在。この世界に地水火風が存在する前、途方もないほど遥か昔から、光と闇は存在してきた。だからこそ、光と闇は太古の起源と呼ばれるんだよ」


 光と闇の魔法は非常に高等な魔法で、並の魔法使いでは扱う事はできなかった。それほど高度で大きな力を必要とする。その光と闇の魔法が、唯一生物の生死を左右でき得る魔法だ。

 勿論、他の魔法、例えば火の魔法で人の命を奪う事は出来る。だが、闇の魔法で人の命を奪う事は、物理的な攻撃とは次元の異なるものだ。

 黒魔術などによる呪いが闇の魔法の代表だが、失敗すれば呪詛返しが起きて、術者は手ひどいしっぺ返しを食らう事になる。現実には、映画や小説にあるように、黒魔術を多用されることはなかった。成功確率が低く、失敗した時のリスクが高すぎて、手を出したがらないと言うのが現状だった。ハイリスクな闇魔法を使うより、ローリスクな火魔法で遠距離攻撃でもした方がマシだ。

 特徴として、光と闇の古代魔法は、直接魂に作用する。肉体的な侵襲ではなく、その魂の許容量だとか生命力に影響を及ぼす。更に言えば、光と闇の魔法に欠かせないのが速度という要素で、その要素を自在に操ることが出来るならば、その物体の存在する確率すらも変動することが出来る。

 だから治癒も出来るし、人を操ることもできるし、惚れ薬なんかも作れるわけだし、太古の魔法は死者を蘇らせる事すらも可能だ。


「メリッサ様を救うとしたら?」

「光の魔法を研究するのがいい。メリッサが死に至る理論はわかっているんだろう?」

「うん」


 サイラスが前置胎盤剥離による出血性ショックの話をすると、マーリンは立ち上がって本棚から1冊の分厚い本を取り出して、しばらくページを捲るとサイラスの方に差し出した。

 そのページに記されていたのは、妊婦を死から守る魔法だった。魔法と言ってもほとんどお守り作りの過程を記されているだけの代物だが、昔は妊産婦死亡率が高かったので、母と子を守ることは重大な問題だったらしく、こうしたお守りでも重宝されていたようだ。


「ウサギの前足?」

「お守りの中ではよくある媒体だね。魔法ではこう言った媒体を組み込むこともある」

「うーん、半導体みたいなもの?」


 一々科学に置き換えないと気が済まないサイラスに、やれやれこれだから現代っ子は、と思いつつ、マーリンは頷く。サイラスはちょっとウザいが、一応正解である。

 しかし、このお守りが本当に役立つのかは不明だ。何しろウサギの前足のお守りは、人間を守るための物であり、吸血鬼を守るための物ではないからだ。それを聞いて、サイラスは日本に行った時の事を思い出した。ヴィンセント達と六条一族では発生源も違っていた。種族間でも有効な媒体が異なる可能性はある。


「メリッサはノスフェラート一族の地上の者だからな」


 ヴィンセントが言って、その言葉にサイラスは驚いて振り向いた。


「えっ、メリッサ様ってヴァンパイアじゃないの!?」

「私の一族の者ではない。私が出会った時、既に彼女は吸血鬼だった」


 そう言えばそんな昔話を聞いたばかりだった。そして以前聞いた話も思い出してきた。メリッサがノスフェラート一族という事は、もし死んでしまったらメリッサは復活する事は出来ない。復活はヴィンセント達だから出来るわけであって、ノスフェラート一族にはそのような力はないのだ。ということは、やはりどうあがいてもメリッサを死なせるわけにはいかない。


「彼女には悪いが、メリッサで実験をするのが一番確実だ。彼女の為でもあるんだ」


 マーリンが言う。メリッサを実験台に使うのは気が引ける。何しろ愛する恋人だし、彼女は妊娠しているのだ。妙な影響を与えたくない。


「トワイライトのノスフェラート一族の人たちは協力してくれないかな?」

「自分にも関わる事ならば協力してくれるかもしれないが、私の知る限り、トワイライトに所属するノスフェラート一族の女性はメリッサだけだ」

「あとは男の人だから、自分には関係ないから協力してくれないって事?」

「協力したくても不可能だろう。いくら吸血鬼でも、男は妊娠しない」

「……それもそーか……」


 となれば選択肢は一つしかない。彼女に効果的な魔法の媒体を見つけて、ノスフェラート一族女性を守れる光魔法の原理を研究するのだ。それしか道がない。

 なんとか覚悟を決めて、サイラスが顔を上げてマーリンを見た。


「マーリンさんも、協力してくれる?」

「当然だ」

「俺にも魔法は使える?」

「魔力があるから、あとは努力次第だね」

「努力する」


 サイラスはそう言って椅子から降りて、マーリンに礼を取った。


「マーリンさん、俺を弟子にしてください。俺を魔術師にしてください。メリッサ様を救うためなら、俺は何でもする」


 そう言ってかしこまるサイラスに、マーリンは愉快そうに笑って顎鬚を撫でた。


「構わんよ。だが、時間がないようだからね。ちーっとばかし、スパルタ教育になるぞ」

「任せてよ。勉強なら、俺は苦痛に感じることなんかないから」

「ほっほっほ、そりゃ楽しみだわい」


 笑ったマーリンが指を振る。するとふわりと風が起きた。その風の軌道上には本棚があって、その本棚からサイラスの目の前へ、バサバサと大量の本が鳥の様に飛んできて積み上がっていく。

 それに驚いて目を白黒させるサイラスに、マーリンはやっぱり愉快そうに笑った。


「今日中にそれを読んで暗記しなさい」


 テーブルを埋め尽くし、サイラスの身長よりもうず高く積み上げられた古くて分厚い本の山。これを今日中に読めと。

 サイラスは早々に早まったと思ったが、出来ると言った手前引き下がる事も出来ない。

 早速本を手に取って、1秒に1ページという驚くべきスピードで本を読みだしたサイラスを見て、マーリンとヴィンセントは意地悪な微笑を浮かべるのだった。


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