魔術師による魔術講座 2
「魔力とは何か、わかるか?」
「考えたことがないから、わからない」
マーリンによる魔術講座「魔力とは何か」。
魔力とは、およそこの世界に存在するすべての力を指す。例外は神からもたらされた「加護」だ。あれは天界の力なので、魔力とは呼ばない。この地上の世界に存在する、有機物無機物に宿る力を魔力と呼ぶ。
その魔力は誰でも持っているわけではない。生まれつき魔力を持って生まれることもあれば、後天的に何らかの影響で魔力を得ることもあるが、その絶対数はかなり少ない。
「昔は、この国にも他の国にも、魔法使いや魔物、妖精は沢山いた。しかし、それで世界が魔力に溢れれば、それはただの混沌だ」
「調整がされてるって事?」
「そうだ。この世界における魔力の総量は常に一定で、その総量を越えないように、魔力が何かしらに分配されている」
「その調整をしているのは誰?」
「いわゆる創造神という奴だな。特定の誰かというわけではないけれども、そうだな、システムやプログラムという物に近い」
「意味わかんない」
「創造神は、この世界の全てに存在し、この世界の全てを包括し、細かい部分をそれぞれの地域の神が管理している」
「構造はなんとなくわかった。それで、その創造神が意図的かランダムか知らないけど、誰かしらに魔力を与えてるって事?」
「そうだね。誰かに与えられることもあれば、獣や石に宿ることもあるし、空気中の水分に含まれることもある」
「ふぅーん……」
内容を咀嚼する様に口の中で返事をしたサイラスに、マーリンが講義を続けた。
魔力というのは、物理的なもの以外の力と言える。例えば、人の胸を打つ歌声、人を癒す手当て、人に活力を与える料理、人を扇動する演説、俊足を誇るアスリート、人を魅了する演技。この世でたぐいまれなる才能を持つ人間もいるが、その才能も魔力の一端が齎したものだ。
そうして魔力を持った者が、自分の魔力に気付く事はなく、才能と努力と夢がリンクした時にだけ、その世界での成功を収めてきた。魔力を身のうちに秘めている者はいるが、それに気付かずに能力を発揮できず、死んでしまう事の方が圧倒的に多い。
例えば、天才的なパティシエの才能を持って生まれたとしても、格闘技一家に生まれて、一度もお菓子作りに触れる機会がなかったなら、その才能が発現する機会もないだろう。大体の場合が、そうして魔力を活用せずに命を終えることの方が多い。
「じゃぁ、魔力って才能の事?」
「大体の人間の場合、魔力はどこかに偏ることが多い。その偏りが才能として出現する」
「なるほど。足に偏れば俊足に、喉に偏れば歌声に、脳に偏れば天才にってこと?」
「そうなる。そして、自分の魔力を偏らせずに自在に操り、抽出し、分析し、構築して使用することが出来るのが、魔法使いと呼ばれる。今この世界に魔法使いは少ないが、魔力を自在に操作できるという点で、超能力者は魔法使いに近い存在と言えるね」
「近いけど、違う?」
「違う。超能力者は自らの才能に気付き、それを鍛えて使用する事は出来るが、魔力自体を操作する事は出来ない。魔力に支配されていると言ってもいい。それが超能力者で、魔力を支配するのが魔法使いだ」
「なるほど……」
言われて考えてみる。アンジェロやクリスティアーノなどは、自分の超能力を自在に操ることはできる。だが、その能力は限定的だ。自分の能力はこの能力、という縛りから抜けることはできない。
だが、魔法使いはどうやら違うようだ。自分の持つ魔力を調整し、自分の望む姿で出現することが出来る。
その技術と知識を持つ者だけが、魔法使いと呼ばれる存在なのだ。




