取り戻した者と、失われる者
「求刑。アレックス・パーカーを、懲役17年の刑に処するものとする」
地方裁判所。今日はレヴィ殺害の裁判の日だった。アレックスの事件の為に、シャンティやサイラスも被告席に立った。クライドの事件の裁判は別に行われたが、その事件の裁判では懲役23年を言い渡されている。アレックスは合わせて40年の懲役刑となった。
あの事件の事を思い出すと、本当に胸が苦しかった。サイラスは時々言葉を詰まらせながら、事件の事やレヴィの事を語ったのだった。
求刑を言い渡されて、閉廷される。立ち上がったアレックスが、サイラスの前で立ち止まった。
「サイラス、シャンティ……レヴィの事は、本当に申し訳ないと思ってる。これから、ちゃんと罪を償う。本当に、ごめんなさい」
アレックスがレヴィを殺害したことを後悔している、その事はわかっていたし、裁判中も罪を認めるばかりで、反論や言い訳をすることはなかった。だから、サイラスとシャンティは、その気持ちだけは受け入れた。
「お前が罪を償ってくれるならいい。もう、事件の事は忘れたいんだ」
出来る事なら、アレックスの事も忘れたい。そう思っているのが、アレックスにも伝わったのだろう。一瞬辛そうに顔を歪めたが、すぐに前を向いて、係員に誘導されながら出口から出て行った。
失われた者。父を失い、幼馴染も失った。どちらも、サイラスにとっては大切だったのに。
吸血鬼の掟なんて厄介なものがなければ、こんな事は起きなかったのに。
サイラスは今、吸血鬼の掟を憎んでいた。
その憎しみの発端となった者が、存在していたからだ。
あの事件の直後、ヴィンセントから聞かされて、シャンティがずっと実行して来た事がある。
一応表向き用にクライドの墓を作ったが、クライドの遺灰は墓に入れてはいなかった。壺の中に治められたクライドの灰に、あの事件以降ずっとシャンティが、満月になるたびに血液を振りかけていた。
そして、その実践の成果がつい先日、現れた。突然居間に何者かが暴走して来たと思ったら、全裸のクライドが目を血走らせて襲ってきた。ヴィンセントが抑え込んでくれて、サイラスに怪我はなかった。すぐに血を用意して飲ませると、クライドは落ち着きを取り戻して、自分に何が起きたのかわからない様子だった。
あの事件以降の話を聞いたクライドは、事件の事、裁判の事、アレックスの事、戦争の事などを彼なりに考えてくれた。
そして、アレックスには自分が復活したことを隠し通すこと、ボニーとクライドはインドを離れる事を決意し、裁判にも自分達は関与しないことを決めた。
「掟のせいっつっても、ミナの言う事聞かなかった俺らのせいでもあるよな。親として、最低限の責任は果たさなきゃいけねぇよな。今まで、アイツの親でいてやれなかったんだ。最後位親らしく、アイツの苦しみも背負ってやんなきゃなぁ」
ボニーはインドを離れることを嫌そうにしていたが、これ以上アレックスの傍にいても、新たな犠牲を生むことになるかもしれない。ボニーとクライドがこの土地にいない方が、サイラスやヴィンセントに迷惑にならない。そう考えて、結局二人は裁判が終わった後に、インドを旅立った。
ボニーとクライドはいなくなったが、サイラスはクライド復活以降、ずっとモヤモヤと鬱屈した気持ちに苛まれていた。
クライドが復活する可能性があることは、ヴィンセントから聞かされていた。実はミナも以前一度死んだらしく、その時は同じ手法を取ってアンジェロが復活させたらしかった。
復活にかかる期間には個人差があって、ミナの場合は10年かかった。クライドは眷愛隷属でも強い吸血鬼というわけでもないので、それより短いだろうと言う事は聞いていた。
ヴィンセントの言う通り、クライドは約9か月で復活した。その事が、疑問でならない。
どうして、本当の標的だったクライドは復活できるのに、ただ巻き込まれただけのレヴィは、生き返ることが出来ないのだろう。
サイラスは悩んで、その疑問をオモヒカネにぶつけたりもした。だがオモヒカネも、その質問に答えることは出来なかった。その沈黙はハッキリと、悔しいのはわかるが受け入れろと言っていた。
受け入れるしか、道がない。それはわかっているが、心がついてこない。だが、この悩みは別の見解を見出すこともできる。
失われた者と、取り戻された者。そこにある違いは、人間か吸血鬼かという、人種の違いだ。
それを考えると、少なくともメリッサを失う心配はしなくて良さそうだった。そう考えて、悩み事共にメリッサにそう零した。すると、メリッサは悲しそうな顔をして、サイラスに言った。
「今まで、言えなくてごめんなさい。私は、子どもを産んだら死んでしまうの」
頭が真っ白になった。
どうして。何故メリッサまで死ななければならない。
何故自分が愛した人は死んでしまうのか。
「どうして……」
悲壮に顔を歪ませるサイラスに、メリッサが潤んだ瞳で見つめて、彼の神を撫でた。
「ごめんなさい。でも、私にもどうしようもないのよ。私達は、そう言う生き物だから、どうしようもないの」
どうしようもない。掟だから。悲しみと苛立ちで頭がどうにかなりそうだったが、サイラスはどうしようもないことが大嫌いだった。
アレックスの掟だって、根本的には解決していないが、掟を歪めてやったのだ。だったら、メリッサが死ぬ運命だって、回避できるかもしれない。
いや、そんな希望的観測ではいられない。サイラスはお腹の大きくなってきたメリッサを、ギュッと抱き寄せて、敬虔な調子で言った。
「メリッサ様を、死なせはしない。死ぬときは一緒だよ。だから必ず、俺が掟を覆してみせるから」
メリッサも、言おう言おうと思って、結局この日まで言えずに来た。サイラスの言葉を聞いて、もっと早く言うべきだったと後悔した。
今は、縋れるものは何もない。掟には逆らえない、その事実だけ。だけど、信じたい。サイラスの才能を。サイラスの愛情を。
だからメリッサはサイラスを抱きしめ返して、涙をこぼしながら「私も、あなたと生きたい」 と呟いた。
その呟きにサイラスは頷いて、抱き寄せる腕に力を込めた。




