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取り戻した日常 3

今回はラヴィ、ナオト、シヴァの友人3人からの視点です。


 サイラスが突然休学していなくなって、突然車椅子になって戻ってきて。その期間は約8か月だったが、友人たちの目から見て、サイラスは少し変わったように思う。

 以前は鼠の国の映画を見ただけで号泣していたし、人の心の機微に敏感で、すぐに共感して泣いたり怒ったりした。今でも人の心に敏感であることは変わらないと思うが、サイラスは感情の表現が減っていると思う。以前なら泣いていた事で泣かなくなり、怒っていた事で怒らなくなった。

 それに、あまりビビらなくなった。以前は怖い人を見ただけで隠れたし、暗闇も怖がっていた。痛い思いをするのも嫌がって、ハッキリ言って情けない奴だと思っていた。

 今でも情けない奴に変わりはないのだが、なんだか少ししっかりした顔つきになった気がする。ナヨナヨした雰囲気が薄らいで、少年から男の顔つきになった。

 大人になったという事なのかもしれないが、サイラスのギフテッドという才能を考えると、何かしらの状況が、サイラスに影響を与えたと考えるのが妥当だろう。


 幼馴染に父親を殺されるという、酷い出来事が起きた。その事件の直後にサイラスがいなくなって、車椅子になって少し大人になって戻ってきた。それと同時にアレックスが逮捕されたことも報道で聞いた。何かあったのは間違いないだろうが、サイラスが変化した背景が背景なだけに、友人達も安易に詮索するつもりはなかった。

 サイラスにも、色々あって大人になった。今はとりあえずそれを受け入れて、サイラスが話してきたら、聞いてあげればよいのだ。その変化が良くない変化だったら、ラヴィは頑張って説得すると言い、ナオトは見放すかもしれないと言い、シヴァは受け入れるしかないと言い。意見は分かれてしまったが、どの道しばらくは見守るしかないだろう。


 そんな風に考える友人達の前で、サイラスは携帯電話の画面を見て、非常に嬉しそうにニコニコしていた。何かいい事があったのだろうか。不思議に思ったシヴァが尋ねると、サイラスが嬉しそうに言った。


「学校終わったら、メリッサ様とデートなんだ。ヴィンセント様……友達がミュージカル見たいって言うから、そのついでみたいだけど。メリッサ様とデートするの久しぶりだ」


 サイラスの話を聞いて、友人達はおや、と思う。確かサイラスは幼少の頃から好きな女性がいた。「メリッサ様は、とーっても綺麗で優しいお姉さんなんだ」 と、小学生の頃から言っていた。


「デートってことは、上手くいってるんだ?」


 ナオトの質問に、サイラスは嬉しそうに頷く。子どもの頃からお姉さんと呼んでいたのだから、結構な年上のはずだ。そう考えていると、サイラスが続けた。


「実はさ、まだ秘密なんだけど。子どもが出来た」

「はぁぁ!?」


 勢いよく食ってかかったのは、意外にもシヴァだった。シヴァは品行方正な少年だが、裏を返せばカタブツで硬派なので、女子に鼻の下を延ばすなんてカッコ悪いと思っている。なので、童貞である。


「サイラスは仲間だと思ってたのに……」

「シヴァ、置いてかれたね」

「童貞はもうお前だけだぞ。ドンマイ」


 落ち込むシヴァをナオトとラヴィが慰める。とりあえずシヴァは置いておくとして、サイラスがいきなり子持ちになるのは驚きだが、お祝いパーティをしようという話になった。

 勿論サイラスの家でもそういう話になっていて、準備は着々と進んでいた。メリッサも一応戸籍は作っておいて、サイラスの婚約披露パーティを予定している。

 あんな事件があった後なので、ここは盛大に祝って悲しみを吹き飛ばしてやろうと言う腹積もりで、シャンティと社員たちが大張きりしている。友人達にも招待状が渡され、友人3人は当然のごとく喜んで招待を受けた。


 そして、サイラスの住む屋敷。近代建築とムガル建築が折衷されたような景観の屋敷は、500坪を超える広大な敷地の中心に建っている。噴水を中心とした、屋敷の玄関へと続く広いロータリーには、黒塗りの高級車が何台も詰めかけていた。

 そしてスーツを着た友人達も、その高級車の一台から降りて、レッドカーペットの上を歩いて広間に通される。友人達の住む家だって豪邸なので、サイラスの家が豪邸な事には今更驚かない。だが、ぽつりとシヴァが言った。


「おふくろの仕事仲間から聞いたんだけど、この屋敷って元々はマフィアのモンだったらしいぜ」

「まじで?」

「それがなんでアヴァリ家のモンになってんだ?」

「書類上は、そのマフィアがサイラスのかーちゃんに譲ったことになってる。そのマフィアは、マフィア辞めてサイラスのかーちゃんの会社で働いてたみたいだ」

「何があったんだろ……」

「サイラスのママ、すげぇな……」

「本当、この家は不思議だらけだよな」


 サイラスの母、シャンティが成功を収める影では、彼女の素性や成功に至るまでのいきさつが、ほぼ空白になっているという点で、アヴァリ一族は謎の一族となっている。彼女たちがどうやって金を得て、どうやって成り上がって来たのか、その過程が全く分からないのだった。

 勿論その過程を作ったのはヴィンセント達なので、それを明かす予定などありはしない。


 パーティが始まって、シャンティのスピーチや乾杯をして、食事タイム。少しすると、本番の婚約披露が始まる。シャンティがスピーチしながら、サイラスとメリッサを呼んだ。ドレスアップしたサイラスとメリッサが壇上に姿を現すと、招待客たちは一斉にどよめいた。

 スーツを着て髪型をセットされていると、サイラスはただでさえイケメンだが、それに更に拍車がかかっている。だがそれ以上に、彼の隣に立つ女性が眩しすぎる。

 ストロベリーブロンドのたっぷりとした艶やかな髪、白い肌に覆われた、肉感的でいて上品な体のライン、知的な丸い額から伸びる、高い鼻筋。吸い込まれてしまいそうな榛色の大きな瞳、白い肌に映えるぷっくりとした赤い唇。

 友人3人はメリッサに釘付けになって、ごくりと生唾を飲み込む。


(うそだろ……なんだよあの美人)

(メリッサ様っておばさんかと思ってたけど、あの人だったら50代でもイケる)

(なんつー美魔女だよ……あんな美人、惚れるに決まってる)


 子どもの頃から、サイラスがメリッサにしか興味がないことを不思議には思っていたが、これで納得した。あんな美人が四六時中傍にいたら、その辺の女の子が眼中に入らないのも当然だ。

 しかも、子どもの頃からずっと傍にいて、サイラスに優しい。ということは、彼女はただ美人なだけではなくて、サイラスのギフテッドや性格全部をわかっていて、理解してくれる、そう言う人なのだ。

 友人達は驚いたり、あんな美人を捕まえたサイラスに悔しく思ったりもしたが、そう考えると素直に祝福できた。


「サイラス、おめでとう」

「おめでとー!」

「おめでと」


 あいさつ回りをするサイラスを捕まえて、友人3人で祝福する。乾杯するとサイラスは嬉しそうに笑っている。サイラスはメリッサに友人3人を紹介してくれて、メリッサが3人に穏やかに微笑んだ。


「昔から、あなた達の話は聞いていたわ。私も会ってみたかったの。今日会えて、とても嬉しいわ。お祝いをありがとう」


 メリッサの美女スマイルに膝から崩れ落ちそうだ。しかもこんな美人との間に子どもがいるなんて、その子どもはどんな美形に育つのか。既に遺伝子の系譜が恐ろしい。

 友人3人がメリッサに見惚れながら話をしていると、ふとサイラスが手を上げて誰かを呼んだ。呼ばれた相手は、肩まである長い黒髪をしていて、無国籍でミステリアスな美貌を、力強い緑眼が引き立てた美丈夫だった。


(また渋い人だな。カッコイイ……)

(わー! カッコイイ。こういう人憧れる!)

(こういうオッサンになりたい)


 若い男性から一斉に尊敬の念を集めた、渋いオッサンことヴィンセントも、友人3人を紹介されて、微笑みかけた。


「そうか、小僧の友人か。普段から小僧には振り回されるだろう。面倒をかけるが、小僧を頼む」


 更に声も低くて渋い。サイラスの周りには、何故こうも憧れの代弁者みたいな人間が集まるのだろう。羨ましすぎる。

 サイラスが、ヴィンセントはレヴィとシャンティの恩人で、自分にとっても大切な友人なのだと紹介してくれた。

 シャンティが60代なのは知っているが、ヴィンセントは40代位に見える。そんなに若い相手に何を助けられたのかはわからないが、恐らくビジネスがらみだろう。

 そう考えたラヴィが、ヴィンセントに仕事を尋ねた。するとヴィンセントは何事かを考えだし、サイラスとメリッサがクスクスと笑っている。


「うふふ、ヴィンセントは無職よ」

「ウチでいつも食っちゃ寝してる石潰し」

「石潰しはメリッサも同じだろうが」

「私はサイラスの妻になるのだから、主婦という肩書があるわ。あなたと違って」

「いいだろう。そこまで言うなら、私も経営に参加してやる」

「あ、助かるよ。ヴィンセント様ありがとう」


 メリッサとの言い合いに乗せられ、ヴィンセントの経営参加が、何故かこの場で決定した。友人達は呆然とその言い合いを見ていたが、とりあえずシャンティの会社の人間、という接し方で良いようだと落ち着きどころを見つけた。


 サイラス、メリッサ、ヴィンセント、シャンティと、その場に集まったセレブの何人かにもあいさつ回りをして、3人は壁の花になって会場を見渡す。ドレスコードのセレブが、パーティ会場にひしめいている。サイラスとメリッサは非常に目立つし、常に人に囲まれている。二人を囲む人間の大半が、交流目的のセレブで、見知った顔もチラホラ見える。

 その挨拶を受ける度に、サイラスは常に営業スマイルで返している。それを見て気付いた。サイラスはあんなに営業スマイルは上手じゃなかったのに、一体どこで覚えてきたのだろう。

 そんな事を思いながら見ていたら、ひとりの背の高い金髪の男性が、小柄な女の子を伴ってサイラスに挨拶に来ていた。周りのセレブが金髪の男に興味を持って話しかけると、その男性は見事な営業スマイルを振りまいている。


(成程、あの男の影響か)


 そんな風に思ってみていると、サイラスはその男性と女の子には、営業スマイルではなく、普通に自分達と接する時のような、自然な笑顔で話していた。

 サイラスは、昔から怖がりだった。最初は自分達も怖がられていたのを覚えている。付き合いはじめの時は、サイラスが人の話を聞いていなかったり、ルールを無視するので、何だコイツと思ったこともある。

 だけど仲良くなってからは、サイラスのそう言うところも慣れたし、それはそれで面白かった。だけどサイラスは、この3人以外の人間は怖がって、中々馴染もうとしなかったし、実際馴染めていなかった。

 しかし、サイラスは恋人が出来て、子どもができて、恩人のヴィンセントがいて、どうやら新しい友人も出来たようだ。この8か月の間に何が起きたのかはわからないが、それはきっとサイラスのプラスになったのだ。


 サイラスはすごく不幸な事があって、不運な運命に巻き込まれてしまった。子どもの頃から色々と苦労して来たのを知っている。

 そのサイラスが、何かを得て少しだけ大人になった。大きな幸福を手に入れようとしている。だから友人達は、サイラスのこれからの幸福を、心から祝福したのだった。 


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