取り戻した日常 2
昼休み。講義が終わった後、学食で昼食を食べる。サイラスと友人Aは経済学部だが、友人BCは法学部なので、昼食の時に集まって顔を合わせるのだ。
そしてサイラスが友人Aと共に学食に姿を現して、BCと合流する。すると、既に黄色かった雰囲気が、一斉に黄色さを増す。
「きゃぁぁ! G4が揃ったわ!」
「やっぱり4人揃うと迫力が違うわ」
「サイラス先輩の車椅子姿、おいたわしい……」
「くっ……一層儚げな魅力が増してるわ」
「私が傍でお世話して差し上げたいっ」
なんだか知らないが、サイラスと友人ABCは勝手にイケメン4人組・G4とか言われて、勝手にキャーキャー言われている。サイラスは大して気にしていないが、他の3人は居心地悪そうにしている。サイラスには小さい頃からメリッサという恋の相手がいたから、他の女子など眼中にないのだ。
ちなみに今は、会社の株を公開する時期について、頭がいっぱいである。ご飯も喉を通らない。
「おーい、また手が止まってるぞ?」
「え?」
「あー、また零しやがって。お前本当世話が焼けるな」
「あ、ありがと」
友人Aがテーブルに落ちた、ケチャップのついたハッシュドポテトをつまみあげ、空いている皿に乗せた後、指先についたケチャップを舐める。それを見て控えめに騒ぎ立てる女子。
「今のご覧になった!?」
「ラヴィ先輩素敵……」
「サイラスくん羨ましい! 私も世話を焼かれたい!」
一応お嬢様達ばっかりなので、ギャーギャー騒いだりはしないが、コソコソと囁き合っては悶えている。友人A・ラヴィは面倒見がよく男気があって、セクシーでカッコイイらしい。
残りのポテトを口に運んでいると、友人Bが覗き込んできた。
「サイラス、もう車椅子には慣れた?」
「うん。席も一番後ろの広い所に指定席作ってもらったし、肺水腫も治ったから、息もだいぶ楽になった」
「そっかぁ。よかった。僕に手伝えることがあったら、いつでも呼んでね」
ふにゃり、と友人Bが柔らかく微笑んだ瞬間、バタバタと女子が倒れ伏した。
「ナオトきゅん、可愛すぎる」
「ナオトきゅんの不意打ちスマイルは反則だよぉぉぉ」
物腰が優しく丁寧で、笑顔がとびきりキュート。中性的でショタ的可愛らしさのある友人B・ナオトは、主にお姉さま方からの熱視線を浴びている。ちなみにナオトの本性は。
「お姉さんたちはねぇ、僕がおねだりしたら、何でもやってくれるんだ。チョロイからサイラスもやってみなよ」
なかなかのクズである。さすがは代議士の息子。恐らく4人の中で、一番腹黒い。
別に女の子たちに頼みたいこともないので、サイラスはやっぱり経営の方に思考をシフトしていったが、ナオトの話を聞いて、いつも黙っていられない友人Cが会話に入った。
「ナオト、将来の為にも、あんまり奔放なマネはしねぇ方がいいぞ? お前のオヤジさん、何度お前の尻拭いしてると思ってんだ」
「うわ、出た。説教メガネ」
「誰が説教メガネだコノヤロー。お前が勝手しすぎると、オヤジさんの評判に瑕がつくんだぞ? いい加減に立場を自覚しろよ、もう20歳だろ」
「ハイハイすいませんねぇ」
二人が言い合う様子を見て、女子たちはクスクス笑っている。奔放な子どものようなナオトを叱る、しっかり者で品行方正な友人C・シヴァの掛け合いは名物なのである。
シヴァは本当にしっかり者なので、リーダー的存在で非常に頼りになる。シヴァの言う通りにしていれば、大体人に怒られずに済むので、サイラスはおおむねシヴァの言う事はよく聞いている。
だがナオトは全く言う事を聞かず、自由奔放に遊び呆けて、それを見咎めたシヴァとケンカになるなど日常茶飯事だ。ちなみに法学部男子の間では「ワガママ王子と説教大臣」とからかわれている。この二人は相性が悪いと思うのだが、何故かいつも一緒にいる。全くもって不思議である。
考え事をしながら食事をしていると、いつの間にか皿は空っぽになっていた。食後のコーヒーを飲みながら、今度は公開する株を自分がどれだけ取得するべきか、割合を考え始める。
すると、女子がまた囁き合う。
「やっぱりクール……」
「周りがあれだけ騒いでいるのに、落ち着いていて素敵よね」
「サイラス先輩のクールな憂い顔……たまんないです」
聞こえてきた友人ABCは思う。イケメンって本当に得だ。ただボーっと考え事をして、周りで何が起きても上の空。ただそれだけなのにクールでカッコイイと言われるのだから。
考え事に夢中になって、食事もまともに出来ないのに。反面興味のない授業中は落ち着きがなくて、席を立って急に出て行ったりするのに。度を越した方向音痴で、一人では迷子になってどこにも行けないくせに。ちょっと見た目が厳つくゴツイ人が現れると、ビビって影に隠れるチキン野郎なのに。経営学部の二人をよく知る男子学生は、ラヴィとサイラスを「ママと子ども」とか呼んでいるというのに。
「コイツのどこがクールなんだ……」
「女の子って、見る目ないよね」
「コイツの場合、ただしイケメンに限る、が通用しちゃうんだよなぁ……」
なんだかんだ言って、誰よりも自由で誰よりも手がかかる。だけどその辺が全部、顔面偏差値の高さでカバーされてしまう。
サイラスはクールな天才という評判で有名なのだが、顔面の影響力半端ないな、と思う友人達だった。




