親子の愛を信じたい
ボニーはクライドと恋人になって、もう150年以上経過している。人妻だったボニーがクライドに一目惚れして、クライドに猛アタックして、クライドが折れた。夫は銀行強盗で捕まって、ボニーとクライドも銀行強盗を繰り返していたから、夫が死ぬまではボニーは公式には人妻だった。
ヴィンセントと出会って、レンジャーに射殺されて、吸血鬼としてクライドと共に蘇った。しばらく略奪を繰り返しながらアメリカで過ごして、ヴィンセントの後を追う様に日本に行って、ヴィンセントと合流してから一緒に過ごした。
クライドとボニーはとても仲の良い恋人だった。ケンカをすることもあったけど、クライドはボニーの夫が死ぬまで、ボニーがけじめをつけるのを待ってくれていた。
ノリも合ったし、二人はいつも一緒だった。アンジェロに、文書偽造ではあったけれど、戸籍を作ってもらって結婚できたときは、本当に嬉しかった。これで本当の家族になれたんだと、心から喜び合った。
そしてアレックスを妊娠して、二人は幸せの絶頂だった。仲のいい夫婦、可愛い赤ちゃん。だけど、その幸せは長くは続かなかった。
4歳ごろから、アレックスは両親を避けるようになった。精一杯愛情を注いでいるつもりなのに、アレックスは両親よりもシャンティ達の方に懐いた。成長するにつれて、アレックスとの溝はどんどん深まっていく。アレックスはボニーとクライドの言う事なんかちっとも聞かないし、それどころか無視すらする。敵意を込めた眼差しを向けられることなんか、しょっちゅうだった。
自分達は教育を間違えたのだろうか、やっぱりミナ達の言う通りだったのだろうか。そう考えたけれど、折角手にした奇跡とも呼べる子どもを、失いたくなかった。
ドラマのように、夫婦、家族で仲良く暮らしたい。そんな風に思うのは、吸血鬼でなくても当たり前の事だ。
だが、ミナとアンジェロの言っていた予測が、現実になってしまった。アレックスは何の躊躇もなくクライドを刺殺した。そしてボニーを殺そうと襲い掛かってきた。
それでも、ボニーは母親だった。何かの間違いだと思いたかった。この期に及んでも、アレックスを信じたかった。きっとミナとアンジェロは無駄だというだろう。それでも、母親の情愛は、そう簡単に揺るがない。だから母親の愛は、海より深いと言われるのだ。
「あたしは、アレックスともう一度話したい。難しいかもしれないけど、アレックスともう一度親子をやり直したいの」
ミナとアンジェロは、その願望が最期まで願望でしかないことをわかっている。アレックスの両親への反逆は、思想だとか性格だとか、そう言うレベルの話ではない。魂に、遺伝子に刻み込まれている、本人にもどうしようもない殺意。
だが、ボニーの想いを無駄にすることは出来なかった。だから、ヴィンセントに連絡を取って、すぐにインドに送り届けた。
連絡した後アンジェロの空間転移でインドに行くと、ヴィンセントとサイラスが待っていた。二人ともアレックスを探す旅に出ると宣言した。
それを聞いて、アンジェロがタブレットを開く。孤児院の子どもの中に、ダウジングの能力を持つ子どもがいた。その子からコピーした能力で、アレックスの居場所をダウジングで探し出す。
タブレットに表示される地図を見ながら、アンジェロが言った。
「アレックスは今、ワシントンDCにいます。私の孤児院に、ボニーさんがいると思って探しに来たのでしょう」
それを聞いて、ミナが顔色を変えた。
「子どもたちが!」
ヴィンセントが頷く。
「すぐに向かおう。これ以上アレックスに罪を負わせたくはない」
ボニーが強く頷き、サイラスは苦渋の表情を浮かべる。それを見やりながらも、アンジェロは再びアメリカに戻った。