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戦後処理


 翌日にはアレックスは意識を取り戻したが、サイラスは意識が戻らない。サイラスが意識を取り戻したのは、それから3日後の事だった。 

 サイラスが目を覚ました時、まだ意識がはっきりとはしなかったが、傍にオモヒカネとメリッサとヴィンセントがいて、アレックスもいるのに気付いた。

 サイラスが目を覚ましたので、メリッサが泣きながらサイラスの髪を撫でた。


「心配……かけて、ごめん」

「いいのよ。あなたが生きていてくれたから、いいの」

「ありがと」

「無理して喋らないで。今は体を治すことに専念して」

「うん」


 目を開いていると、やはり少し眩暈を感じて、話すのにも息切れしたので、サイラスは大人しく眠りについた。

 メリッサが傍についているので、ヴィンセントはアレックスを促して隣室に入った。隣室では、アンジェロとミナがいて、連絡を受けてアンジェラも同伴していた。この3日の間にアンジェロとアンジェラでサリンに関する1000を超える論文を読みこんで、治療に協力していたのだった。

 アンジェロが未だに論文を読みながら、入って来たヴィンセントに向かって声を掛けた。


「アイツは重症だから、恐らく後遺症が残ります。直接被曝はしていないようですが、視覚障害と交感神経系の障害は出るでしょうし、もしかしたら麻痺もあるかもしれません」

「……そうか」

「残念ですが、サリンの後遺症による回復例は、ほとんどないそうですから、アイツは死ぬまで、闘病生活を余儀なくされるでしょう」


 守るとメリッサに約束したのに、こんなはずではなかったのに。坦々と事実を伝えるアンジェロの対面に腰かけて、ヴィンセントは頭を抱える。入り口の近くにはアレックスが立ち尽くしていて、アンジェロの話にショックを受けた様子で、涙ぐんでいた。


「なに泣いてんだお前? 俺に復讐する気力もねぇのかよ」

「……っもう、これ以上……サイラスを、苦しめたくない」


 サイラスの体には、一生後遺症が残る。父親を殺して、健康な体を失って、更にアンジェロに復讐を遂げようだなんて、さすがにアレックスもそんな気にはなれなかった。アンジェロを憎む気持ちは勿論あるけれど、それ以上にもう、サイラスから何も奪いたくなかった。


「サイラスは、俺を見捨てないって……だから、もう、いいんだ」

「あっそ」 


 気のない返事を返すと、リラックスモードに入ったアンジェロに、ヴィンセントが尋ねた。


「お前の方は大丈夫だったか?」

「ええ。私とミナで全滅させました。こちらの被害はゼロです。経済的な被害はありましたがね」

「そうか、ならいい」

「そちらは?」

「サイラスだけだ」

「……そうですか」


 吸血鬼は誰一人死なせない。サイラスのその目標は達成された。だが、ヴィンセントがメリッサとの約束を守れなかった。本当に本当に、大切な約束だったのに。メリッサの為に、サイラスの為に、絶対に果たしたい約束だったのに。

 ヴィンセントらしくもなく落ち込んでいる様子をみて、ミナが話しかけた。


「ヴィンセントさん、サイラスのこと、残念です」

「あぁ」

「でも、彼は生きています。サイラスのこれからの事、一緒に考えましょう?」

「……そうだな、アイツはこれからも、生きていかなければならない」

「はい。私達にも、出来ることがあれば何でもします」


 ミナに励まされて、ヴィンセントはメリッサとの約束の話をした。そしてこれからのサイラスの身の振り方について考える。

 サイラスは頭がいいので、経済的な心配はいらないだろう。通勤できなかったり、会社の経営が出来なくなっても、最悪デイトレードでも十分に稼いで行けそうだ。

 サイラスの事は今後もヴィンセントが守っていくし、身の回りの事は介護士や看護師でも雇えばいい。問題は、メリッサの事だった。


「半年、ですか」

「そうだ」

「メリッサさんがいなくなったら、この状況だと、サイラスは……」

「オモヒカネの加護がある。ある程度は、守られるとは思う」

「このまま、何も起きなければ、ですね」

「そうだ。何も起す気はないがな」


 まだサイラスには話していないが、メリッサがいなくなることは確実だった。それは誰にもどうしようもない事だから、受け入れるしか方法がない。その為にはサイラスにはまずは体を休めて少しでも回復してもらい、それから話をして受け入れる準備をしてもらうしかないだろう。

 そう考えて、溜息を吐く。


「これだけ苦悩塗れの人生だ。神が守ってやりたくなるのも、当然か」

「そうですね……」


 サイラスを見ていると、守ってあげたくなるのは女だけではなくて。同情とかそう言うのもあるのだが、なんだか世話を焼いてやりたくなってしまう。ある意味それが、サイラスの才能なのかもしれなかった。

 サイラスはいつも誰かに守られていて、その事をよくわかっている。だから無理や無茶をしないし、危険から逃げ回るのは、周りを巻き込まない為だ。


「ミナ、お前少し、小僧を見習え」

「……ですね」


 慎重なサイラスと、無謀なミナ。対照的な二人だが、ヴィンセントにとってはどちらも大切な存在だ。


「メリッサが唯一、心を許した相手だ。守ってやらねばな」


 たとえ肌を許しても、心まで許すことのなかったメリッサが、唯一心を許した相手。だからサイラスのこれからの人生を、メリッサの為に守り抜く。ヴィンセントはそう決めて、立ち上がった。


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