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第10次十字軍 6


 医療の心得のある者達が、すぐさま治療を始めた。サイラスがあらかじめ用意していた酸素ボンベで二人に酸素を供給し、採血をして毒物の特定を始める。本当はそれはサイラスの仕事だった。サイラスは天才だから、検査結果から様々な毒物の特徴を照合して、速やかに解析する事が可能だからだ。だが、そのサイラスがやられてしまって、いかに医療者といえども、原因物質の特定に時間を要した。

 サイラスは既に自発呼吸が停止している。アンビューで無理やり送気しているが、呼吸音に水泡音が混じっていて、肺水腫を起こしかけているのが分かった。いくら酸素を送っても、肺自体がやられてしまえば無駄になる。

 ハラハラしながら見守っていたクリスティアーノが、ふと思い出した。


「っ、がはっ、はぁ、はぁ……サリ……サイラスを、助け……」


 息も絶え絶えに、アレックスがそう頼んだ時。ろれつが回らなくて、サイラスの名前を言い間違えたのかと思った。だが、違うかもしれない。


「伯爵、サリンでは? サイラスが用意した解毒剤の中に、PAMがありましたよね!?」


 確かに、サイラスはその可能性も考えて、サリンに対する解毒薬であるPAMと硫酸アトロピンも用意して、全員に注射キットを持たせていた。

 だが、PAMは解毒剤ではあるが、それ自体が劇薬なのだ。特定できていないのに、安易に注射してしまって、もし間違っていたら、確実にサイラスを死亡に至らせる。

 だが、このままではサイラスは死んでしまう。どうしますか、と尋ねる周囲の視線に、ヴィンセントは瞼を静かに閉じた後、ゆっくりと開いた。


「投与しろ」


 ヴィンセントの命令を受け、すぐにサイラスとアレックスにPAMが投与された。二人は城の中に運び込まれて、並んだベッドで横になった。酸素を投与され続け、点滴を打たれて、多量の発汗と流涎に塗れたサイラスに、メリッサが泣きながら手を握って寄り添う。


「お願いよ、私を置いて行かないで。サイラス、目を覚まして」


 オモヒカネも心配そうにサイラスの傍に寄り添って、ヴァチカンからの警戒も怠れない状態だったこともあり、彼らは眠れない日々を過ごした。

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