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第10次十字軍 3


 3ヘクタール以上もある広大な庭。こんな単位が常用されるのは、大規模農業を経営する、農業従事者位だ。それ程広大な白亜の城の庭に、黒衣の神父服を纏った男達が、数えきれないほどひしめいている。銃剣先を揃えて、一心不乱に突撃してくる人間の数は1万5千人。

 そして上空からも、ヘリコプターからパラシュート降下を始める騎士団員と、ヘリに搭載された機銃と、ヘリから銃撃してくる集団が、約5000人。

 サイラスたちに向けられる夥しい数の銃弾は、全てヴィンセントの障壁によって跳ね返されている。アンジェロから教えてもらった、斥力の障壁だ。ミナとヴィンセント、ヴァンパイアの直系の能力は、重力操作と原子操作だ。この能力は非常に万能である半面、ある程度知恵がないと使いこなせない。なので、アホなミナには使いこなせないのだが、アンジェロが助言して能力の幅は大幅に拡大している。勿論、アンジェロはミナのその能力を片っ端からコピーしている。

 ヴィンセントもヴィンセントなりに能力は磨き上げられているが、せっかくそばに天才サイラスがいるので、彼が能力開発の手助けをしない手はない。元々の魔力が相当に高いヴィンセントなので、人間が理論上は可能だが、現実的には無理だと思っている化学兵器も、難なく生成することが出来た。

 だが、今はヴィンセントの力を見せつける気はない。サイラスは少し焦りながら、レオナルドを見た。


「レオさん、見つけた?」

「まだだ」


 目的の者はまだ見つからない。その間にも敵は続々と集結して進軍してくる。サイラスは仕方なしに、深精に向いた。


「深精さん、お願い」

「任せよ」


 深精と、付き人の男の子、フー少年が障壁を通り抜けて前に進み出る。深精は赤い扇を両手に開いて、虎少年は紫色の布をその身に纏う。深精がニヤリと笑って扇を振ると、そこから衝撃波と共に激しい業火が放たれた。

 深精の持つ宝貝・ 五火七禽扇ごかしちきんせんは、言うなれば火炎放射器だ。しかも衝撃波を伴って、高温で莫大な量の炎を生み出す。それ故に多くのエネルギーを消費するため、並の妖怪仙人では、あの宝貝を5分と使用していられないと、虎少年が言っていた。

 だが、深精は並の妖怪仙人ではない。所持している宝貝も五火七禽扇ごかしちきんせんだけではない。

 衝撃波によって空中のヘリコプターが制御を失い、近くのヘリと衝突して地上に落ちる。吹き飛ばされて操縦不能となり、墜落する。地上部隊は吹き飛ばされ、衝撃波によって巻き起こった炎の渦から逃れることはできない。その様相は、まさに地獄絵図と言ってもよかった。

 だが、人間たちも負けてはいられなかった。業火に悶え狂う騎士団の後方と両側から、別の集団が押し寄せる。その集団から激しい銃撃を受けて、数万を超える弾丸が深精たちに降り注いだ。


 しかし、そのすべては一つも命中しなかった。深精の前に回った虎少年が、紫色の布―紫珠羽衣ーをはためかせて、その布ですべての攻撃を防ぎ切った。

 おもむろに虎少年は上空へと飛び上がり、本来の妖怪仙人としての姿に戻る。その姿は禍々しい模様を羽根に施した、巨大な蛾。巨大な蛾と化した虎少年が羽ばたきすると、景色がかすむほどの鱗粉が地上に舞い降りる。それを吸いこんだ人間たちは、目が見えなくなり、神経を犯され手足の自由を奪われる。神経毒によって動きを封じられた人間たちが、ばたばたと倒れ伏していく。

 虎少年が深精の元に戻り、深精は愉快そうに笑う。


「わらわの五火七禽扇ごかしちきんせんなら、フーの鱗粉を焼き尽くすことはできるぞ? 人間たちよ、わらわ達に降伏するなら、助けてやるが?」


 深精の言葉に、上空のヘリの一基から、スピーカーで声が届く。


「戯言は結構。化け物の力を借りるくらいなら、殉教した方がマシというもの。総員、退避しなさい」


 その言葉で、サイラスたちにも何かが起こることはわかった。動ける人間たちが退避していく。何らかの攻撃が行われる。それは、わざわざ地上に下ろした人員たちを巻き込むほどの何かだ。

 戦慄を覚え始めたサイラス達に、なおもスピーカーから声が届く。


「人間が力を持たないと思って、侮っているようですね。ですが、こちらにも力はあります。神の力が」


 その言葉とともに、ヘリから一つの影が飛び降りたのが分かった。はるか上空から、パラシュートも付けずに飛び降りれる。そんなことが出来る人間は、サイラスは一人しか知らなかった。

 その人物は庭の中央に着地すると、真っ直ぐにサイラスの方に歩いてくる。黒衣を纏って、紫色の瞳に、緑色の髪をした少年、アレックス。だが、アレックスは並ならぬ雰囲気を纏っていて、いつもとは違う事はわかった。


「アレックス……」

「サイラス、やっぱり、諦めてはくれないんだね」


 思わず声を掛けたサイラスに、アレックスの言った言葉で一瞬で血が上った。


「諦めるわけないだろ! お前がパパを殺した罪は消えない!」

「……そうだね、だけど、もうサイラスにも、吸血鬼にも俺は殺せない」


 アレックスの言葉に、サイラスは不審そうに眉根を寄せる。それを見て、アレックスは両手を開く。どこからか、酒精の香りが漂う。アレックスの両手から、するするとツタが伸びて周囲を絡め取っていく。それと同時に、ツタが鞭のようにしなって、虎少年と深精を強烈に打ち据えた。鞭で打ち据えるというのは、シンプルな攻撃だが、だからこそ衝撃が強烈だ。二人は気を失ったのか、倒れ伏したまま動かなくなってしまった。

 その間も、ツタは増殖している。そのツタの葉を見て気付く。


「葡萄……?」

「葡萄酒は、神の血液。俺達は神に血を分けられた。お前達の血液も、俺がいただく」


 恐るべきことに、アレックスは吸血鬼から血液を奪うという。一体何が起きたら、そんな発想に行きつくのか。それ以上に、一体何が起きたら、アレックスにあんな力が宿るのか。神の力は、人間に人知を超えた力を与えたのか。神までも、吸血鬼を滅ぼすと決めてしまったのか。

 戦慄するサイラスに、アレックスが言った。


「サイラスは、人間だから殺さない。でも、それ以外は、俺が喰う」


 ヴィンセントの障壁の中にいた吸血鬼は無事だったが、深精や虎少年、障壁の外にいた吸血鬼はツタに絡め取られて、上空に持ちあげられ身動きが取れない。そこに別のツタがスルスルとすり寄り、幾本ものツタが一本のツタを軸に撒きついて行き、それはツタの槍のような形状を取り始める。何が起きるのか察したサイラスは必死になって叫んだ。


「やめろぉぉぉ!」


 サイラスの絶叫もアレックスの心には届かず、吸血鬼たちの心臓には、神の力が齎した、葡萄の槍が降り注いだ。

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