第10次十字軍 1
機銃の狙撃が成功しないであろう距離、その距離までヘリが近づいた頃に、サイラスが口を開いた。
「レオさん、お願い」
「オーケー」
軽い返事を返すと、レオナルドは傍に置いていた巨大な迫撃砲を持ち上げる。ガーデンファニチャーに腰かけ、テーブルに足を乗っけたその上に迫撃砲を乗せて、照準器を覗き込む。そんな姿勢なのに、レオナルドから漂う雰囲気は、プロそのもので。
一瞬レオナルド周辺の雰囲気が張りつめて、その瞬間に弾頭が発射される。迫撃砲を狙撃に使うなど聞いたことがない。だが、レオナルドの発射した弾頭は、的確にヘリを撃ち落としていく。
勿論、機銃の届かない距離で、尚且つ市民に被害が出ないように、森の範囲の中に入ってから狙撃してもらっているので、2km以上ある。それを迫撃砲などで狙撃できる物だから、敵にすればたまったものではないだろう。
既に騎士団に潜り込んでいたクリスティアーノから、早速混乱状態に陥ったと連絡が来た。そして散開する気だと伝えられた。
当然、散開したとしてもレオナルドの狙撃から逃れるのは困難だろう。そして、こういう時の為にアレハンドロのβ部隊を待機させていた。
次々に撃ち落とされるヘリに恐れをなして、いくつかの部隊がその場から離れていく。その様相は周囲からの包囲が目的か、様子を見ながら着地しようと思っていることは明らかだ。そうして離れて行った部隊にも、レオナルドからの狙撃は容赦なく命中していく。
砲弾の視認できた人間たちは、狙撃も想定していたのか、パラシュートでの降下を始める。それを、空中浮遊して待機していたアレハンドロβ隊が追いかけて狙い撃ちしていく。
β隊の存在に気付いたシカリウス達は、機銃乱射による攻撃でβ隊を排除しようとするが、それに気付いたサイラスの合図とともに一斉に飛び立ってその場を離脱する。そして動きを止めたヘリをレオナルドが撃墜していく。
β隊の報告では、今の所防弾チョッキのお陰か、犠牲者はいないようだ。その事に安心しながらも、戦局を見渡すことは忘れずに、レオナルドに尋ねた。
「レオさん、あれは先遣隊だよね」
「そーだな。後からウジャウジャ来るぜ」
「空? 陸?」
「両方」
「わかった」
ヘリの搭乗人員、撃墜機体の数からすると、今倒した敵の数は数百と言ったところだ。あちらは5万を超える人間を用意していると、これは前哨戦に過ぎない。
空からも、陸からも敵は攻めてくる。その事を想定していなかったわけではない。
「リディアさん、陸上部隊の方、お願い。例のポイントに誘い出して」
「任せて」
「引き続き、アレハンドロさんは空で。なるべく引きつけて」
「おうよ」
リディアは魔法が使える。そして、アレハンドロを筆頭とするチュパカブラは空を飛行できる。その特性を活かさない手はない。
リディアは地上で待ち構える。その場所はサイラスに示されたポイントで、森の中にぽっかりと空いた平原のようになっている。わざと派手に音を立てて、その場所に兵士をおびき寄せる。
そして兵士がおびき寄せられた時、その周囲には濃い霧が漂っていた。その霧はやたら高温を放っていて、ただの霧ではないことは人間にもわかった。だが、それが何かを知った瞬間には手遅れだった。
その蒸気が密度を増していき、更に温度が高まると、兵士たちは熱傷にもだえ苦しみ始める。そして、圧縮された何かが中央で破裂した瞬間、大爆発が起きた。
森の中に意図的につくられたその空間には、夥しい人間の血がまき散らされ、生き残った人間が火傷の残った皮膚と創傷に喘いでいる。それを恍惚の眼差しで、幼女の姿をしたリディアが眺めて笑う。
「水蒸気爆発も知らないなんて、科学をバカにしたカトリックらしいわね」
そう言いながらリディアとその部下たちは、人間たちの体内の水分を高温に加熱して爆発させたり、逆に水分を枯渇させたり、空気中の水分を氷結して冷凍したりして、平原に集めた兵士たちを確実に殺害していった。




