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戦争前の覚悟


 ルー・ガルーの名代の少女、アナスタシアによると、ルー・ガルーが治める国はギリシャ。ルー・ガルーの真祖は既に選挙で当選を果たし、ギリシャの大統領に収まっていた。その政府の与党はルー・ガルーによって結成された「平和民主党」で、与党の党員全員が人外で構成されている、化け物政党だった。実質的に現在のギリシャは、化け物によって支配される国だった。

 アナスタシア自身はロシアのキトカという妖精なのだが、彼女の夫がルー・ガルーで、政党の幹事長を務めていたので、今回名代として顔を出してくれたらしかった。しかもアナスタシアは、ロマノフ王朝最後の皇女、聖アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノフらしく、ルー・ガルーの一族に高貴な血筋が多すぎて、サイラスはめまいがした。

 既に党員たちのほとんどやその家族は、国有地となった「ゾクゾク☆化け物ランド」に住んでいて、引っ越し組もその島に移住する事になりそうだった。ギリシャは正教会で、長い間カトリックとは敵対してきたので、カトリックが大きい顔をして入国する事は難しいとの事だ。それなら引っ越し組も安心だろう。

 だが、ギリシャにばかり吸血鬼が集中していると、アレックスに見つかりやすいし一網打尽にされる可能性も捨てきれない。ならば、こちらでワザと吸血鬼を集中させて、おびき寄せるのが確実だ。

 サイラスはそう考えていたので、世界で最も人口の多いと言われる、ノスフェラート一族には期待していたのだが、半分以上が役に立たないと言われてしまっては仕方がない。戦争に参加してくれることになった、チュパカブラ、キョンシー、ラミアに加え、誘夜姫にも協力を頼んだ。


 そしてサイラスとヴィンセント達、多種族の吸血鬼は100名を超える集団で、イタリアのフィレンツェに来ていた。フィレンツェにはヴィンセントの所有する城があった。購入したものなのでその権利は何十年経っても失われてはいないが、あの城を離れて50年近い年月が経っていた。さすがに庭は荒れ果てているし、木製の東屋やベンチなどは朽ちている。それでも、石灰質の石造りの城は壮健に、巨大な威容を誇っている。巨大な城は100名を超える大人数でも、それぞれに部屋を割り振れるくらいには広く、しかも部屋が余った。こんな所にヴィンセント達は数人で住んでいたのだから、果てしなく宝の持ち腐れだ。

 巨大な城、広大過ぎる庭、鬱蒼と茂る木々に覆い隠された、人里離れた森の中にある古城。ここを拠点に選んだのは、イタリア国内だからというのが最も大きな理由だ。ちなみにヴァチカンが挙兵する時期には、ヴァチカンから最も近いローマにいるジュリアには、また狙われたらたまらないので、逃亡してもらうことになっている。


 ある程度引っ越しが終わって、大広間に集まった吸血鬼たちを見渡す。

 ラミア族・リディアを首領とする30名あまりの一族。ラミアはかつてある国の女王だったが、神との間に子どもを作ったものの、神の妻の怒りを買い、子どもを殺された。その恨みから怪物となり、神への反逆を誓った娘だ。これまでもその美しい容姿で取り入り、各地の教会を堕落させ、混乱を引き起こしてきた。今幼女の姿なのは、「幼女だと男女問わず油断するから」とのことだ。元々海の神様の血を引いているらしく、水属性の魔法が使えるそうだ。

 そして、キョンシー族・白深精(バイシェンジン)を首領とする20名あまりの一族。深精は後継者争いで暗殺された死後、霊山の気に中てられた、キョンシーの中でも特別な存在。深精は功夫クンフーを積み上げ、化物でありながら仙人の域にまで達した、神通力の使い手でもある。仙人界では妖怪仙人としてかなりの高位にいるようで、強力な兵器、宝貝パオペエを所持している。ついでに食事の時は、人間の首と胴体をブッ千切って血を飲むという、乱暴極まりない食事形態だ。

 最後にチュパカブラ族・アレハンドロを首領とする50名にも及ぶ一族。えらい貫録のあるおじさんだと思っていたが、やっぱりマフィアらしい。化物らしく暴力に訴えつつ、しっかり金儲けして警察とのコネ作りにも余念のない、とってもマフィアらしいマフィアだ。なので、アレハンドロがかなりの量の武器をそろえてくれた。武器があれば、ちょっとくらいサイラスも役に立つだろう。


 アンジェロに頼んで、ヴァチカンの様子も監視してもらっている。そしてさらに、「どーせアイツ暇だから」と、アンジェロが潜入工作員をヴァチカンに送り込んでくれた。アンジェロが送り込んだのは、あちら側に顔バレしていない、アンジェロの親友、クリスティアーノだ。顔バレしていないとはいえ、クリスティアーノは数十年前に伝説を残したプロサッカー選手であり、世界で一番有名になったこともある。それほどの身体能力を有していて、身体能力だけだったら、吸血鬼だって足元にも及ばない。クリスティアーノのスピードスターは、ヴィンセントですら目で追う事は不可能なほどの光速らしい。それならば、いざとなった時も逃げることも隠れることも簡単だろう。それにクリスティアーノは不老不死だが人間なので、ヴァチカンだからと言って恐ろしくもない、ただの観光名所にしか見えない。だから、潜入工作員としてはベストだった。

 アンジェロが透明化して潜入してもよかったのだが、何しろ彼は経営で忙しい。妻のアンジェラが医者で金持ちなのをいい事に、食っちゃ寝して気まぐれに農業やってる、暇人のクリスティアーノに白羽の矢が立ったのだった。

 ちなみにクリスティアーノが暇人なのは、不老不死のくせにワールドカップに出場するような、派手な真似をするな、というアンジェロの命令のせいでもあるのだが……。


 そんなこんなでこちらは準備が着々と進み、ヴァチカンもかなりの兵力を揃えている。クリスティアーノによると、ヴァチカンの勢力は5万人を越えたそうだ。それを聞いてさすがにサイラスは狼狽えたが、100人の吸血鬼たちは飄々としたものだった。

「あたしの水魔法で蹴散らしてやるんだから!」

 とラミア族のリディアは鼻息が荒い。

「ホホホ、わらわの五火七禽扇ごかしちきんせんで焼き尽くしてやろうぞ」

 キョンシー族の深精は、赤い扇をバッと優雅に開いて笑う。

「っくー! 血が騒ぐぜ!」

 チュパカブラ族のアレハンドロは、重火器を両腕に掲げて、武者震いをして楽しそうだ。

 そして御息所からの、誘夜姫からの援軍、山姫一族が50名。多忙な誘夜姫の代理としてやってきた、ダブル秘書の一人、苧環水仙おだまきすいせんがヴィンセントに慇懃に礼を取った。

「ヴィンセント様、宮様より言付かって参りました。我らの一族が誇る暗殺組織、侘助わびすけ朧月おぼろづき細雪ささめゆきの50名、ヴィンセント様のお力となり、共に戦わせていただきます」

 誘夜姫が世界の権力者から絶大な支持を受けている、その要因である暗殺組織を貸し出してくれる。それは非常に心強い。


 サイラスはヴァチカンの方角を、鋭いまなざしで見やる。150人の吸血鬼と、5万人の十字軍。最初はアレックスとサイラスだけの戦いだったはずだが、戦争レベルの戦いにまで発展した。

 尻込みをしないわけではない。自分のせいで、これからたくさんの人間や吸血鬼が命を落とす可能性に、震えないわけではない。

 サイラスは、いつだって誰かの後ろに隠れていていい。今回だってそうだ。だけど、今までとは違う、隠れて震えているわけではない。誰かの陰に隠れて、人を動かして、現実を構築する。サイラスは軍師であり司令塔で、黒幕でなければならない。

 サイラスには力がない。ならば力のある者達に動いてもらう。アレックスを殺害する、ただそれだけの為に、数万の犠牲を出すことになっても。

 サイラスはついに、罪悪感を押し込んで、覚悟を決めた。

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