表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/80

六条御息所


 港には既にお迎えが来ていて、サイラスたちは用意された船で島に向かう。かなりの長時間船に揺られて、ようやく到着した。その島は鬱蒼と木々が生い茂っていて、一見したら無人島のようだ。

 島の港は、どう見ても打ち捨てられた漁村の廃港と言った有様だったが、そこには一台の黒光りするリムジンが停まっていた。島の景観に不似合いなその車からは、二人のスーツの男が降りてきた。


「お屋敷にて宮様がお待ちでございます。こちらへどうぞ」

「六条一族の里、御息所みやすどころへようこそ」


 リムジンに乗り込むと、やはりというべきかヴィンセント達はサイラスと距離を取ろうとする。仕方なしに、秘書っぽい二人の傍に腰を下ろした。秘書二人はサイラスが傍にいても平気そうにしている。人間だろうか、と思って尋ねたら、二人もしっかり吸血鬼のようだった。


「吸血鬼と一口に言っても、様々な種族がおります。我々六条一族は、神やこの世の理を呪って生まれたわけではありませんので」

「なるほど、自然発生した生物なら、神を恐れる理由はないってことか」

「そうでございます」


 やっぱり吸血鬼というのは不思議である。ヴィンセント達ドラクレスティ一族が神を恐れるのは、ヴィンセントが神を呪いながら死んでしまったということなのだろう。人間としての死にざまが、化け物としての生きざまに反映される。なんだか因果なものだ。

 とりあえず、六条一族がサイラスとオモヒカネを恐れないなら、御息所で肩身の狭い思いをすることはないだろう。その点だけでも一安心だ。 


 リムジンは荒れ果てた複雑な山道を登っていく。時折道祖神の所で車が停まって、秘書が何やらすると、何もなかった場所に綺麗に舗装された道路が姿を現す。そんな事を繰り返して、ただでさえ方向音痴のサイラスには、既に. どこにいるのかさっぱりだった。

 そうこうしている内に見えてきたのは、広大な塀の向こう側に臨む、大きな門。純和風の造りをしたその門の前で静かに車が停まって、和装に身を包んだ門番がリムジンを出迎えた。

 秘書たちの案内に従って、その門を潜り抜ける。玉砂利の敷かれた広い庭には、灯篭や錦鯉の泳ぐ池、松や紅葉などが植えられていて、日本らしいワビサビの風情の庭が広がっていた。

 情緒あふれるその庭を通って、屋敷に通された。長く広い板張りの廊下を進んでいくと、一つの雅な模様が施された襖の前で、秘書二人が立ち止まって声を掛けた。中から返事があって襖が開かれると、座敷の奥に腰かけていたのは、臙脂色の着物に身を包んで、長い黒髪を畳の上に散らした女性。妖艶でいて儚い雰囲気を纏ったその女性は、ヴィンセント達を見て微笑む。


「ようこそ、わらわの里、御息所へ」


 声を掛けられたヴィンセントとミナ、メリッサは嬉しそうに笑って、案内されるままに座布団に腰を下ろし、サイラスもそれに続いて腰を下ろした。

 着物に身を包んだ儚い系美女、六条誘夜りくじょうのいざやは、あらかじめ話を聞いていたようで、すぐに本題に入った。


「ヴィンセントから電話をもらって、ようやく事件の真相がわかった。わらわの同胞に手をかけるとは、その神父たちは捨て置けぬ」


 サイラスたちには何が起きているのかわからなかったので、説明を求めた。誘夜姫の話によると、ここ最近不可解な事件が起きているとの事だった。

 最近、誘夜姫の同胞たちが殺害されるという事件が起きていた。誘夜姫は吸血鬼だが、ホテルや製薬会社、運送会社などを経営する実業家でもある。その事業のトップに据えられているのは、彼女の一族の者、つまりは吸血鬼たちだ。六条一族の者が名を変え姿を変え、ずっと六条グループの経営をしている。

 その経営者たちが、最近殺害されている。大企業のトップが殺害されたという事で、日本国内でも大々的にニュースになっている。最初は何故殺害されたのか、誘夜姫にもわからなかった。彼女は日本をはじめとした各国要人とのつながりもあるので、政府関係の何かがあるのか、それともヤのつく家業の方々か、それとも六条グループに恨みを持つ誰かの仕業か。色々考えながら部下に調査をさせていたが、犯人にいっこうに辿り着けない。その現場にいた人は、吸血鬼だけでなく、その秘書を務めていた普通の人間や家族までも殺害されていて、目撃者はほとんどいなかった。わずかな目撃者や生き残りが、殺害されるのを見たと証言したが、黒い服に身を包んでいて、夜だったので何も見えなかったと言っただけだった。

 だが、ヴィンセントから話を聞いて、ようやくヴァンパイアハンターに狙われたのだと理解できたという訳だった。問題は、なぜ六条一族が狙われたかだ。


「そち達が慌ててわらわの所に来たという事は、そち達に原因がありそうじゃな」


 誘夜姫の言葉に、隣にいたミナが勢い良く頭を下げて、畳に額をつけて謝罪した。


「姫様、ごめんなさい。多分私が日本人だから、日本に隠れてるって思われたんだと思います。狙われていたのは私達だったのに、巻き込んでしまって本当にごめんなさい」


 ミナは本当に申し訳なさそうにして、ミナの謝罪の言葉は徐々に涙声に濡れて行った。それを見ながら、ミナの真似をしてサイラスも土下座した。


「姫様ごめんなさい。本当は俺がアレックスを止めなきゃいけなかったんだ。それが出来なかったせいで、姫様に迷惑かけた。本当にごめんなさい」


 さすがのサイラスだって、責任を感じた。本当は自分達だけの問題だった。見知らぬ吸血鬼が殺されることなんて、知ったことじゃないと思っていた。

 だけど、ヴィンセントたちの友人に迷惑をかけて、自分のせいで関係ない人が傷ついた。被害者が自分の身近な人物になり得る人だと知った今、サイラスは罪悪感で吐きそうだった。


「こんなことになるなら、アレックスを殺しておくべきだった」


 嘔吐感に襲われながら、サイラスが決めた事は、やはりアレックス殺害だった。アレックスを野放しにしていてはいけない。吸血鬼とはいえ、これ以上ヴィンセントや自分の関係者を巻き込んではいけない。なんとか決着をつけたい。

 謝罪するミナとサイラスに、誘夜姫の方から溜息の漏れる音が聞こえた。


「よい、とは言えぬが、面を上げよ。わざわざ御息所にまで足を運んだという事は、わらわ達を守ってくれるんじゃろう?」

「当然、そのつもりで来た」


 ヴィンセントが力強く肯定する。ヴィンセントによると、誘夜姫は吸血公主と呼ばれる階級の吸血鬼で、吸血鬼の真祖の中でも、最上位の位に当たる吸血鬼だ。だから彼女自身は非常に強い。

 だが、誘夜姫の種族である「山姫」自体は、さほど強い種族というわけではない。非常に長命で人の心を惑わせたりも出来るが、せいぜい人間より力が強い、というくらいのものだ。だから、歴戦のヴァンパイアハンター相手では勝てなかった。

 一応誘夜姫も武力は持っているので、その者達に重役の警護をさせているが、それでも戦力は多い方がいいだろう。しかも、その戦力がヴィンセント達なら申し分ない。

 誘夜姫が合図をして、その合図を受け取った秘書の一人が、地図の載った書類を差し出した。ヴィンセント達から話を聞いて、既に神父とシスターの格好をした3人組の足跡を追っていたようだった。


「そ奴らが次に狙うておるのは、おそらく皇国ホテル。そのホテルの支配人、松木じゃ」


 日本の誇る高級三ツ星ホテル、皇国ホテル。誘夜姫の同族の吸血鬼であり、一流ホテルマン及び支配人として、90年以上支配人を務めている松木。狙われた彼のいるその土地は、神戸。

 サイラス達はすぐに誘夜姫に挨拶をすると、アンジェロにも一応確認を取って、すぐに神戸に向かった。


■登場人物紹介


六条誘夜姫りくじょうのいざやひめ


 六条一族真祖、山姫という種族の吸血公主。年齢は不明。恐らく1300年くらい生きている。

 ホテル、病院、製薬会社、運輸業など、様々な企業を経営する実業家でもあり、彼女の経営するある組織は、世界各国の支配者階級や富裕層から、絶大な支持を得ている。

 古くから日本を守る護国の陰陽師とは、長い間敵対関係にあるが、六条一族は経済と裏社会から日本を守る勢力でもある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ