天才はどうもブッ飛んでいる
サイラスは電話をかけていた。最初にヴィンセントに状況を説明して、その後メリッサに替わってもらった。
「サイラス、心配したのよ」
「メリッサ様、ごめんね。俺ちょっとアメリカで、パラリーガルやることになって」
「パラリーガル? どうして?」
「アンジェロさんのお手伝いだよ。お世話になったし、そのお礼も兼ねて」
「そう。サイラスはいい子ね」
なぜそんな事をやる羽目になっているのだと、呆れたヴィンセントと違って、メリッサはサイラスの行動を褒めて認めてくれる。だからメリッサが好きだ。
「でも、それだけじゃないんだ。アンジェロさんってすごく強いじゃん。ミナさんや子どもたちの為なら、何でもできる。俺もそんな風になりたいって思ったんだ」
「あなたも強くなりたいのね」
「うん、強くなって、俺もメリッサ様を守れるような男になりたい」
思わずキュンと来るメリッサ。サイラスのいいところは、普通は恥ずかしくて言えないような、こういう事を素直に告げられるところだ。
「この件が片付くまではアメリカにいるけど、それが終わったら、俺もすぐにそっちに行くから。待っててくれる?」
「ええ、待っているわ。あなたならきっと大活躍ね。素敵な報告を聞けるって信じて、待っているわ」
本当にメリッサはいい女だと思う。絶世の美女だし、サイラスにはすごく優しい。本当に生きていて良かったと思う瞬間だ。
「ありがとう、メリッサ様。愛してる」
「私も愛してるわ」
サイラスが満たされた気持ちで電話を切っていると、いつのまにやら隣にアンジェロがいて、ニヤニヤしていた。アンジェロが何を考えているのか、サイラスにはある程度想像がつく。ニヤニヤしているという事は、アンジェロはからかう気だ。からかう気だという事は、アンジェロの場合には、余りツッコまれたくない話題なのだ。だがサイラスは違う。
「アンジェロさん聞いて! メリッサ様が俺の事愛してるって!」
「うっわ、まさか惚気るとは」
予想通りアンジェロは半目になって、面白くなさそうにその場から逃げた。しかも余程面倒臭いと思ったのか、猫に変身までして逃げた。
面倒くさくなったらアンジェロは猫に化けて逃げる、という話はミナから聞いていたが、実際に見るとやっぱりサイラスには驚きである。その驚きを抱えたまま、もう一度電話をした。今度の電話の相手は、シャンティだ。
「ママ!」
「サイラス、久しぶり」
「ママに会えなくて淋しいよ」
「今年二十歳になるってのに、マザコンか? モテないぞ」
「いいの。メリッサ様とママにだけモテてればいいんだよ」
母親だけに全力で母性をくすぐられるシャンティ。それを誤魔化す様にコホンと一つ咳払いした。
「アンタ、これからどうする気だい?」
「しばらくアメリカでパラリーガルするんだ。それが終わったらメリッサ様と一緒にインドに戻るよ」
「ヴィンセント様は?」
「それはあの人が決めるからわかんない」
「それもそうか」
納得していたようにシャンティは言ったが、少しかしこまった様子で、サイラスに尋ねた。
「アンタ、アレックスを恨んでいるのかい?」
「ママは恨んでないって、俺はわかってるよ」
シャンティにとっては、アレックスだってサイラスと一緒に育って、我が子のように思っていた。アレックスにレヴィを殺されて、悲しいとか理不尽だという思いは当然あるが、それでも、どうしても、どうにもシャンティはアレックスを嫌いになれなかった。
サイラスは自分の感情は抜きにして、シャンティがそうであることは知っていたし、理解も出来ていた。その事を、シャンティもわかっている。
「ママがアレックスを恨んでなくて、俺がアレックスを恨んでると、ママが苦しむってわかってる。だけど、今はまだ俺にも整理できてない部分があるから、アレックスの件に関しては、もう少し時間が欲しいんだ」
「そうかい。アタシの事なんか気にしなくていい。アンタはアンタの好きに生きな」
「ありがとう。ママを守れる男になって、帰ってくる。約束するよ」
「期待してる」
「ありがとう。ママ、愛してるよ」
「知ってるよ、ばーか」
シャンティはこの手の事には照れるので、素直に嬉しいとは言わないのだ。だが、シャンティの声には愉悦が混じっていて、本当は嬉しいのだという事をサイラスも知っている。
やっぱり満たされた気持ちで電話を切って、サイラスは改めて考えた。シャンティが大事だ。メリッサがとても大事だ。最低でもこの二人は、二人だけは失いたくない。だから、守れるように強くなりたい。
アンジェロの傍で、人を守るという事の意味を学んで、できれば、体も強くしよう。サイラスは弱いし運動神経も悪いが、何もしないよりは幾分もマシだ。そう考えてアンジェロに言った。
「アンジェロさん! アリス先生の研究残ってないの? 俺強くなりたいんだ。俺もアンジェロさんみたいな超能力者になりたいんだけど! あ、強化人間だけでもいいから! 兵器内蔵したりとか!」
サイラスの提案を聞いたアンジェロは、何故こうも頭のいい奴は、ブッ飛んだ思考をするのだと頭を抱えた。




