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アンジェロのポラリス


 アレックス達が立ち去った後、立ち上がって孤児院に戻るアンジェロを追いかけて声を掛けた。


「ねぇ、アレックス達、余計燃えちゃったみたいだよ。ヴァチカンが本気になったらどうするつもりなの?」


 心配して尋ねたが、アンジェロは振り返らず歩きながら淡々と答える。


「そうなったら、徹底的に燃やし尽くしてやるだけだ」

「でも、相手は教会だよ?」


 教会とはそれなりの関係を築いているアンジェロが、世界最大の宗教と呼ばれるカトリックを敵に回して良いのだろうか、そう心配して尋ねたが、アンジェロは立ち止まると振り向いて、サイラスの胸にトンと指を置いて、真剣な表情で言った。


「ミナとこの孤児院は、俺にとっての北極星だ。それを奪おうとする奴は、合衆国政府だろうがヴァチカンだろうが、一切容赦はしない」


 アンジェロの剣幕にサイラスが何も言えずにいるのを見ると、アンジェロは再び踵を返して、孤児院の方に歩き出した。

 アンジェロの言葉を聞いて思う。アンジェロは強い。能力もそうだが、意志や精神も強い。それはきっと、アンジェロが守りたいものを持っているからだ。守る者がある人は、こんなにも強い。アンジェロの北極星、アンジェロの生きる道を指し示すポラリス。それを守る為なら、アンジェロは世界を敵にまわせる。

 サイラスが臆病でいつも逃げを選んできたのは、彼が守られてばかりで、守るべき者がなかったからだ。だからサイラスは弱い。

 だが今は違う。父に続けて、母まで失いたくない。メリッサと彼女の愛情を失いたくない。失いたくないなら、守らなければ。守るためには、強くならなければ。

 体を強くするのには限界があったとしても、心は強く持たなければ。きっと心の強さには、限界などないから。

 気を取り直して、先を行くアンジェロを追いかけた。


「ねぇ、弁護士って? 何か揉めてるの?」

「あぁ、フィリップの親が、やっぱりフィリップを引き取りたいって言って来てる。でも、フィリップは戻りたくないって言ってるし、俺も戻したくない」

「なんで?」

「あの親はフィリップを俺ん所に置いて行ったくせに、自分の都合で取り戻そうとしているからだ。それに虐待の疑いもある」

「なるほど。そういうことなら、俺も力になれるかも」

「手伝う気か?」

「世話になったからね」


 アンジェロはサイラスを見下ろすと口の端だけで笑って、やっぱりさっさと歩いて行く。アンジェロの手助けをすることで、きっと誰かを守るという事を学べる。サイラスはそう考えて、アンジェロの後に続いて孤児院へと戻った。



 フィリップの親は弁護士事務所を経営する代表だった。フィリップは普通の子どもだった。成績は優秀というわけでもないが、悪いというわけでもない、本当に普通の子どもだった。だが、弁護士である父親からしてみれば、愚かな子どもに見えたのだろう。弁護士というのは一般の人間からしてみれば、すべからく秀才で、本人にとってはそれが当たり前だから、自分の血縁に普通の子どもがいることが許せなかったのかもしれない。

 だから、父親は優秀に生まれた兄の方だけ可愛がって、フィリップへの扱いはネグレクトに近いものだった。生活の世話はされていたが、ほとんどベビーシッターに丸投げで、親はフィリップを顧みない。ついにはフィリップになんだかんだ難癖をつけて、アンジェロの孤児院に預けてしまった。

 アンジェロの孤児院は、親が病気だとか、服役しているとかで、一時的に養育環境が失われた子どもの面倒を見ることもあるので、子どもが親元に帰るというのも、ままあることだ。

 だが、フィリップの処遇にアンジェロ達は最初から納得していなかったし、フィリップ自身も、自分を無視する家族の元になど戻りたくないといった。フィリップにとって孤児院の生活は楽しかったし、温かくて、今まで手に入らなかった物が全て手に入った場所だった。だからフィリップも、泣きながらアンジェロに縋りついた。


「いんちょーせんせー、やだよ。僕、もうあの家には帰りたくない」

「心配すんな。お前はもうウチの子だ。お前は俺が守る。約束だ」


 フィリップは泣きながら頷いてくれて、少しは不安が軽減できたようだった。それでも、状況は芳しくはない。なにしろ言って来ているのは血縁のある親だし、相手は弁護士だ。法律のプロを敵に回すというのは本当に厄介で、孤児院の卒業生である弁護士が間に入ってくれたものの、なんと未成年者略取で訴えられてしまった。


「自分で預けといて訴えるって、どんな神経してるんだろうね」

「確かに弁護士って職業は、ちょっと狡猾なくらいが向いているわ。だけど、道徳的にも、子どもに見せていい姿じゃないわよね」


 サイラスの呟きに、卒業生であり孤児院の顧問弁護士である、ミカエラが答えてくれて、サイラスもウンウンと頷く。ミカエラは孤児院の顧問弁護士で、相手を操るパペットマスターの能力を使うことが出来る、天才型の超能力者だ。

 ミカエラは人の行動を操ったりして、尋問で自白させることも可能なので、本当は超能力捜査官に勧誘されていたそうなのだが、弁護士の方がお金になるし、孤児院の役に立つという理由で、弁護士になったらしい。彼女も自分の弁護士事務所「ジェズアルド・レイノルズ」の代表だ。

 当初、実験体で番号で呼ばれていた、アンジェラやミカエラを初めとした、超能力者の子どもたちには、苗字などはなかった。だから、初期に孤児院で育てた子どもたちは、みんなアンジェロの苗字がついていて、養子に登録されている。なので、子どもたちの経営する事務所や病院や会社には、アンジェロと同じジェズアルドの名前が入っていて、彼らはその事を誇りに思っている。孤児院で育った子どもたちはみんな、アンジェロとこの孤児院を愛しているのだ。


「フィリップの親の情報わかる?」

「勿論、彼がアソシエイトの時代から、全部調べ上げたわ。見る?」

「うん」


 敵の弱みを握るのは、基本中の基本だ。相手だってそうして来ている。昔の事を蒸し返して、アンジェロとミナにかかっていたテロリスト疑惑なんかを引っ張り出して、証言録取を取ろうとしたくらいだ。

 サイラス的には、なんでアンジェロとミナがいつまでも若いことを気にしないのだという疑問もあるが、その辺はアンジェロが上手い事処理しているようなので、敢えてツッコまない。

 アンジェロとミカエラが話し合う傍で、大量の資料を読み始めて2時間後、ようやくサイラスが顔を上げた。

 

「フィリップを取り戻したいのは、フィリップの兄貴が死んで、後継者がいなくなったから……ってので間違いなさそう?」

「そうね。本人はあくまで親としての権利を主張するだろうけど、フィリップには悪いけど、政治利用としか考えられないわね」

「政治利用ねぇ……じゃぁ、コレ使えるんじゃない?」


 サイラスが差し出したのは、フィリップの親が6年前に担当した案件だ。食品会社の運営する大規模農場の、環境汚染についての訴訟だった。農場周辺の地域住民が、農薬や産業廃棄物による地質汚染について訴えを起こしたが、フィリップの親である企業側が勝訴している。それは誰の目から見ても完全なる勝利で、一部の隙の無いものに見えた。

 だが、サイラスが気付いて指摘した。


「こんなことする奴に、親権が渡ると思う?」

「親権どころか、弁護士資格も剥奪出来るわ! あなたウチで働かない!?」


 ミカエラからの熱烈な勧誘を断りつつ、3人でワクワクしながら作戦を練った。

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