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神からの悲劇的な贈り物


 アンジェロとやって来たのはダウンタウンの路地裏だった。路地裏の入り口で、アンジェロが奥を指さしている。その方向を見ると、アレックスが立っていた。アレックスの足元には人が横たわっていて、呻き声を上げている。理由はわからないが、アレックスがやったようだった。

 それをみて、ほとんど反射的に走り出していた。それに気付いたアレックスが振り向いたと同時に、サイラスがアレックスの腕を掴んだ。


「お前、何やってるんだよ」

「誰かさんのせいで金がないから、コイツらから貰ってるだけ」

「ふざけるな。自業自得だろ」


 腹が立って皿に詰め寄ろうとした時、すぐ後ろにアンジェロがいるのに気付いた。そしてアンジェロが二人の腕を掴むと、すぐに空間転移でアンジェロのオフィスへと連れてこられた。

 アンジェロがミナにテレパシーを送って、少しするとメリッサがやってきた。サイラスと、向かい側にはアレックスが座らされた。アンジェロはメリッサを促して、二人の横向かいに腰かけた。


「俺とメリッサさんで見といてやる。話したい事があるなら話せ。戦闘になったら、即ブチ殺す」


 アンジェロはそう言ってソファの背に肘を乗せて足を組み、隣のメリッサがサイラスに神妙に頷いた。それに頷き返して、アレックスを見た。アレックスはイライラしているのか、爪を噛んでサイラスを見ていた。


「アレックス、俺はお前を殺したい」

「そうだろうね」


 イライラしながらも、アレックスは淡々と返答した。それを見て怒りが湧き上がってきたが、何とか抑え込んだ。


「でもその前に、お前に話を聞きたかったんだ」

「何を?」

「パパを殺したこと、後悔してる?」


 サイラスの質問にアレックスは、ソファの肘置きに肘をついて、頬杖を突きながら床を見つめて言った。


「俺、ずっとサイラスが羨ましかった」

「俺が?」

「うん。シャンティとレヴィに愛されてて、サイラスも二人を愛してるから。ボニーとクライドが俺の事を愛してくれてるのはわかってたけど、どうしても俺は愛せなかった。憎くて殺したくて仕方がない」


 ゆっくりとアレックスが視線を上げて、サイラスと目を合わせた。


「サイラスだけじゃない、学校の奴らもそう。みんな家族を、両親を愛してるのに、なんで俺は両親が嫌いなのか、わからない。虐待されたわけでもないのにさ。俺は未だに自分を正当化できなくて、こういう運命なんだって思うしかなかった。ボニーを愛したいけど、心から殺したい。その欲望に勝てなくて、レヴィを巻き込んだ。後悔してるよ、すごく」

「その後悔は誰の為? 俺? ママ?」

「悪いけど、俺のため。俺が殺したいのはボニーとクライドだけで、シャンティもレヴィもサイラスも、俺は……」


 言いながらアレックスは俯いて、次に顔を上げた時は苦しそうに喘いで、目が赤くなっていた。


「大好きだよ。当たり前でしょ、家族なんだから。サイラスともずっと友達でいたかった。だけど、どうしようもないんだ。どうしたらいいかわからないんだ。ボニーとクライドを殺したいけど、レヴィが死ぬのは嫌だったんだ。許してほしいわけじゃないけど、俺にもどうしようもないんだよ。お願いだから、サイラスまで殺したくないから、俺の邪魔をしないで」


 ボニーを殺したいという欲求は、最早アレックスにもどうにもならない、制御できないのだ。だが、ボニーとクライド以外の人間に対しては、アレックスは至って正常な感情を持っている。


 アレックスは生まれた時から傍にサイラスがいたから、自分が両親を憎んでいることが、普通ではないと気付いてしまったのだ。それに気付いた時からアレックスはずっと苦しんできた。そして、両親よりも懐いていたレヴィを殺害してしまって、今はその罪悪に苦しんでいる。

 だけど、ボニーを殺したいという欲求に、どうしても勝てそうにないから、もう家族を巻き込みたくないから、サイラスに関わってほしくはないのだ。


 しかし、レヴィを殺害されたサイラスが、このまま黙っているわけにはいかない。それも当然のことで、サイラスは次の質問をした。


「お前の邪魔をするかしないかは置いといて、ボニー様を殺して、その後お前はどうするの?」 

「できれば、だけど。希望はある」

「一応聞く」

「まぁ、正直無理って言うか、難しいと思うけど……」


 アレックスがすがるような眼をして、サイラスを見つめた。


「俺がボニーを殺したら、サイラスが俺を殺して」


 アレックスの発言に少し息が詰まったが、何とか平静を装って、尋ね返した。


「俺にはお前を殺す権利があるし、俺に殺意があるから?」

「それもだけど、俺がそうして欲しいんだ」

「なんで?」

「サイラスは、子どもの時から、ずっと友達だった。俺もサイラスも、誰にも理解されない苦しみを抱えてた。ヴィンセント様とか、他の人じゃ嫌だ。俺の事を知らない奴に殺されるなんて嫌だ。サイラスがいい」 


 アレックスが涙目で懇願して来るので、サイラスは苦々しい口調ではあったが、「わかった」と返答した。

 アレックスは子どもの頃から、一度もボニーとクライドを父母と呼んだことはなくて、ずっと名前で呼んでいる。そういう親子もいなくはないが、この家族の場合は、アレックスが掟のせいで両親を憎んでいて、距離を置こうとしていたからだ。

 それでも、アレックスは、サイラスとの関係性を守りたいと思っている。自分にも家族がいたのだと、大切な人がいるのだと、死に際に感じたいのだ。

 サイラスがアレックスを殺害できるかどうかは置いておくとして、彼の話を聞いてしまった後だと、頷いてしまいたくもなった。

 だが、サイラスの頭に浮かんだのは、もっと別の事だった。


「アレックス、掟を破ろうとは思わない?」

「えっ?」

「ボニー様への殺意さえ消えれば、お前はただのガキじゃん」

「できるの?」

「わかんない。でも、やって見なきゃわからない」

「仮にボニーへの殺意が消えたとして、サイラスは俺を許せる?」

「許せない。どんな理由があっても、許される様な事じゃない。そうだろ?」

「じゃぁ何で、俺をただのガキにしようとするの?」


 不安そうに尋ねてくるアレックスに対して、サイラスは少し前かがみになって、手を組んで続けた。


「ただの普通のガキに憧れてたのは、俺も同じだからだよ。俺のギフテッドは脳神経の特質だから、手術した位じゃどうにもならない。だけどお前のは、誰も研究した事が無いから未解明な事ばかりで、裏を返せば可能性も大いにあるってこと。アレックスはこれから、俺の研究の被検体になれ。それでもだめだったら、ボニー様を殺して、俺に殺されればいいよ」


 アレックスが身を乗り出した。


「可能性はゼロじゃない?」

「可能を証明するよりも、不可能を証明する方が難しいんだぞ? 思いつく限りの、あらゆる手段を取る。どんだけ時間がかかるかはわかんない。でもお前は普通の人間じゃないから問題ないよな。失敗も成功も未知数。でも可能性はゼロじゃない」


 サイラスの話を聞いて、アレックスが頷いた。


「わかった。サイラスの提案に乗る。その実験に参加する条件は?」

「実験が成功したら自首する事」

「もちろん」


 追いかけたり追いかけられたり、憎んだり憎まれたり。そんな不毛な事を何年も何十年も続けるなんて、馬鹿げている。サイラスは掟も禁忌も根底から覆す、そう決めた。

 アレックスの事は、殺したいほど憎いという気持ちはあるけれど、幼いころからアレックスが両親の事で苦しんでいたのも知っていた。誰にも理解されない苦しみを背負っているのは、アレックスもサイラスも同じだった。

 仇だから殺せばいいなんて、安直な発想ではだめだ。全てを変えるだけの能力が自分には備わっているはずだ。きっとこの時の為に、神は与えた。


 「神からの悲劇的な贈り物」と呼ばれる才能、ギフテッドを。


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