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仲直りと仲違い


 結界が解かれて、ボニーとサイラスが孤児院の中に戻ると、ミナとアンジェロが一緒にリビングに戻ってきた。ボニーは気まずそうに視線を泳がせたが、ミナがボニーのもとに駆け寄ってきて、申し訳なさそうに頭を下げた。


「ボニーさん、殴ったりしてごめんなさい。あんなことがあった後なのに、ボニーさんの気持ちを考えてなかった。本当にごめんなさい」


 あんなに怒っていたのに、素直に謝罪できるミナに感心していると、ミナの性格はわかっていたようで、ボニーは小さく息を吐いた。


「んーん、あたしが悪かった。まだ気が動転しててさ」

「仕方のないことですよ。ボニーさんは悪くないから、謝らないで」

「ありがと」


 ボニーはそう言って、ミナに近づくと、ミナをギュッと抱きしめた。


「絶交なんかしてゴメンね。アンタはいつだって、あたし達の事考えてくれてたのにさ。あたし達は、自分の事しか考えてなかった」


 ミナは抱きしめるボニーの胸に顔を寄せて、残念そうに目を閉じ、ボニーを抱きしめ返す。


「もっと、何か、別の方法があればよかったのに……」


 アレックスかボニーか、そのどちらかが死ぬまで、この追いかけっこが終わることはない。どちらかが死ぬまで、逃げて追いかけて、悩んで憎んで、そう言う事を続けなければならない。

 ミナもボニーも、そんな業を背負わせたくなかったし、背負いたくもなかった。更にはレヴィまで巻き込んで、サイラスまでその業を背負わせた。アレックスだって、親殺しに生まれたかったわけではないだろう。大人の都合で生み出された業を、子どもに背負わせ続けるわけにはいかない。

 ボニーはミナからそっと離れると、ミナに笑いかけて頭を撫でた。


「あたしの事怒ってる?」

「さっきはちょっと怒っちゃいましたけど、最初から怒ってないですよ」

「あんた心広すぎ」

「ボニーさんは?」

「あたしも心広いからね」


 二人は小さく笑い合って、どうやら仲直り出来たようだった。今は仲間割れしている場合ではないのだ。こちらが一枚岩になって、方向性を決めておかないと、ボニーに勝手な行動をとられても困るし、ボニーを守るためにはミナ達の協力は必須だ。仲違いしていては連携が取れない。

 

 ミナとボニーが仲直り出来て、ボニーが逃亡生活を決意したのならば、後はやることは決まっている。

 ミナとボニーから視線を外して、ソファに腰かけるヴィンセントの隣に座った。


「ヴィンセント様、どこに逃げるの? 行くあては?」

「ある。ベトナムだ」


 それを聞いて思い出した。シャンティ達と同じように、ベトナムにも屋敷を預けた夫婦がいたことを。サイラスも何度か会ったことがあったのだ。サイラスはシャンティ達と一緒にベトナムに遊びに行ったことがあったが、アレックスはボニー達と行動を共にするのを嫌がって、旅行などをした事はない。アレックスの知らないセーフハウスがあるなら、しばらくは安全だ。

 しかもアメリカからは飛行機に乗っていく必要があるが、指名手配犯のアレックスが簡単に飛行機に乗れるはずがないし、彼はサイラスと違って偽造パスポートなども作れるわけではない。しばらくはアメリカで軽犯罪を繰り返しながら、なんとかやっていくしかないだろう。

 それでも掟による強烈な執着があるのだから、その内どうにかこうにか密航でもして渡ってくるだろうが、その時はまた別の場所に逃げればいいのだ。


「ミナさんやアンジェロさんとの連絡手段はある?」

「どちらともテレパシーでの通信が可能だ」

「えっ……すごいね。ミナさんとヴィンセント様は吸血鬼だから驚かないけど、アンジェロさん人間だよな?」

「アンジェロは科学が生んだバグキャラだからな」

「それ言うなら吸血鬼は自然が生んだバグキャラじゃん」

「お前こそ「ギフテッド」は神が生んだバグキャラだろうが」

「あ……そっか」


 現状この孤児院はバグキャラ祭りである。思わず納得してしまったが、脱線していたことに気付いて話を戻した。


「ねぇ、俺どうしたらいいかな?」


 その質問に、ヴィンセントは少し呆れたように息を吐く。


「自分で決めろ」

「冷たい。父親を亡くしたばかりの俺に、そんな冷たい事言うなんて信じられない」

「それを言える時点で十分冷静だろうが」


 確かにそうだと、やっぱり納得してしまう。最終目標が決まっているので、ある程度落ち着けてしまったのだろう。ただ問題は、その目標を達成する手段を、今の所思いつかないという点だ。


「俺はアレックスを追いかけるべき? それともボニー様と逃げるべき?」

「追いかけて見つけて、その後どうする? いや、お前にどうにかできるか?」

「そこなんだよ。何もできない」

「かといって諦めきれないのであれば、しばらくここに留まって考えろ。おあつらえ向きに、ここには超能力者も化け物も天才も戦闘のプロもいる。ここでしばらく勉強しろ」

「オッケー」


 サイラスの返事が素直な上に非常に軽かったので、ヴィンセントは少しビックリしたが、サイラスが問題解決スッキリしたような顔をしているのを見て、また諦めて溜息を吐く。

 サイラスは天然な変人でビビリだが、天才という才能がある。アメリカで過ごす時間はサイラスにとっては色々と学ぶこともあるだろう。ミナがいれば命の危険もないし、ミナとアンジェロとサイラスで、秘密裏にアレックスを殺害してくれていたら、それはそれでラッキーだ。


 ヴィンセントがそんな外道な事を考えていると、サイラスは立ち上がってメリッサの所に行った。そしてサイラスは捨て犬のような眼でメリッサを見上げる。元々美少年好きのメリッサには、中々効果的である。


「メリッサ様、俺、アメリカにしばらく残ろうと思うんだ」

「そう……あなた一人で大丈夫?」

「全然大丈夫じゃないから、メリッサ様も一緒にいてよ。お願いだから」

「あらまぁ、どうしようかしら」


 サイラスのおねだりに困ったようにするメリッサ、二人の様子を見てヴィンセントは目くじらを立てて立ち上がった。


「おい小僧、お前は何を言っているんだ。メリッサは私と行くんだ。ここには残らない」

「なんでヴィンセント様が勝手に決めるの?」


 尋ねた直後、サイラスの顔から血の気が引いた。


「もしかして二人は恋人なの!?」

「そうだ」

「違うわよ」


 見解の相違にサイラスは戸惑ったが、ついつい嘘を吐いたヴィンセントに、メリッサが一睨みする。


「ヴィンセントとは恋人ではないわ。こんな陰険男なんて願い下げよ」

「私の方こそ、お前のような性悪女など願い下げだ」


 負けじと言い返すヴィンセントとメリッサの間では、睨みあい火花が飛び散っている。とりあえず恋人ではない事と、仲良しなのは分かった。


「でもさぁ、付き合い長いんだろ? 一回もそんなカンジになったことないの?」

「ないわ。あるわけないでしょう」

「コイツだけは絶対にない」

「失礼ね。私のような美女になびかない、あなた目は腐ってるわ」  

「お前に顔以外に、いい所が見受けられん」

「本当に失礼しちゃうわね!」


 ケンカが始まってしまったので、ちょっとちょっとと間に入る。そしてメリッサにまた子犬の様におねだりを始めた。


「じゃぁさ、メリッサ様、俺と一緒にいてよ」

「ええ、いいわよ。ヴィンセントみたいな陰険ジジイといるより、サイラスみたいな若くて可愛い子といた方が、100倍楽しいもの」

「本当! ありがとう!」


 笑ってメリッサにハグをしたサイラスが、ヴィンセントを見てベッと小さく舌を出した。それを見てようやく、まんまとケンカに乗せられてメリッサをかすめ取られたことに気付いた。


(このクソガキが……!)


 これだから頭のいい奴は困る。ヴィンセントは45年ぶりに、割とガチギレした。

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